HOME特集 「何をして生きるかではなく、どこで生きるか考えた」小笠原諸島に移住してローカル誌を作る男性

「何をして生きるかではなく、どこで生きるか考えた」小笠原諸島に移住してローカル誌を作る男性

ONLY FREE PAPER

2017/09/14(最終更新日:2017/09/14)


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フリーペーパー専門店「ONLY FREE PAPER」スタッフが、数ある作品の中から特に気になるものを選出し、作者にお話を伺う連載「フリーペーパー学」。第5回目は、フリーペーパー『ORB(オーブ)』を制作する、ルディ・スフォルツァさん。一目見た時から日本の冊子とは一線を画すそのイメージは際立っていました。気になる中身を見てみると、どうやら『東洋のガラパゴス』と呼ばれる絶海の孤島・小笠原諸島についてのフリーペーパーのようでした。たどり着くためには玄関口の父島まで24時間の船旅を避けては通れないその土地から発行者さんが本土に来ているという情報をキャッチしたので、早速お話を伺ってきました。※本文中の【東京】という表現はすなわち本土の東京を指しております。小笠原諸島も東京都ではございますが、便宜上今回はこのような表現で統一しておりますことご了承ください。

ORBとは?

IMGP0321圧倒的に美しい写真と、英語と日本語で綴られた端正な文章が強い印象を与えるフリーペーパー。小笠原諸島に住む人々によるリアルな小笠原の顔がたくさん詰まっている。年2回発行で、現在は2号まで発行。

暮らしへの葛藤の末に見つけた小笠原への移住という選択

−−スフォルツァさんご自身について教えてください。
生まれは東京です。父親がイタリア人なので以前は毎年夏にイタリアに滞在していたりしましたが、生活のほとんどは東京ですね。高校はスイスの学校に通っていましたが、卒業後に帰ってきて、大学に通いながら仕事を転々としていました。その後、父島に移住して、現在小笠原歴5年になります。仕事はフリーランスで日英翻訳をしているのと、島の子供達や大人向けに英会話レッスンをしています。
−−小笠原に移住を決めたきっかけは?
最初に旅行で小笠原を訪れた時に何か感銘を受けてしまったんです。ちょうど当時、色々悩んでいた時期だったんですが、悩み抜く中で次第に『自分が何をして生きたいか』ではなく、『どのような場所で生きたいか』と考えるようになっていきました。そういった心境と印象深かった小笠原への旅がリンクして、「あれ?ここ(に住むべき)なんじゃないかな?」という気持ちが沸き起こりました。
−−具体的に小笠原のどのような点に感銘を受けましたか?
自然環境がとにかく美しいという点もありましたが、それに加えて島に住んでいる人たちの人柄の良さが大きかったです。出会った人たちは皆とてもおおらかで、島全体がとてつもなく平和だなと感じました。こんなに自然が美しく、そして安全な人間コミュニティは他にないと思い、ここなら生きるために自分のするべきことを見つけられると感じました。
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独自の歴史・文化を持つ小笠原諸島

−−「小笠原ほど様々な魅力と特殊性を持った場所は世界にも多くありません」という記述がフリーペーパーの中にありますが、どのあたりに特殊性を感じますか?
一つは歴史的背景。小笠原諸島は元々欧米人やポリネシア系の人々が定住していて、正式に日本となってから日本人も一緒に暮らすようになり、独自の言葉や文化が形成され始めました。今ではその文化的特徴は薄くなってきましたが、まだ残っているものもあります。もう一つは距離感です。小笠原諸島は東京から1000km離れていて、たどり着くのに24時間かかります。この時間的距離は自分たちの住む国や社会に対する客観的な視点を与えてくれます。おかげで同じ日本に暮らしていても、この国や社会に対する考え方は少し変わってきます。目まぐるしく変化し、混沌としてきた現代に生きる上でこのような視点を持てるというのは非常に貴重で重要なことだと思います。あと、人間の住む場所と自然との距離感がとても近いです。海はどこに住んでいても数分以内にあるし、山や森も同じような距離にある。島の中と外の世界をとりまく距離感が絶妙だと思います。もちろん自然環境に目を向けないわけにもいきません。小笠原の島々は一度も大陸と陸続きになったことがなく、独自の生態系を形成しています。そのため小笠原にしか存在しない植物や生き物が数多くあります。世界自然遺産でもある小笠原の自然は世界でここにしかありません。
−−それらを象徴しているモノやコトがあれば伺えますか?
英語と日本語が混ざり合ったような小笠原言葉ボニン・ブルーと呼ばれる小笠原特有の深い海の色、ウミガメを食する文化などですかね。
−−ウミガメ!?食べられるんでしたっけ……??
はい。刺身と鍋などの煮込み料理がポピュラーです。ウミガメ以外ですと、島寿司・トマト・レモン・ボニンアイランドコーヒーなどがおすすめですね。食べ物ではありませんが、島独自の行事も盛んに行われています。大人も子供も参加して、皆真剣です。その中の一つとして相撲大会がありますが、硫黄島に駐在している自衛隊員の方も参加されるんですよ。必ずしも自衛隊員の方が勝つわけではないのも楽しいです。

伝説のローカル誌『スコール』

−−小笠原のフリーペーパーを発行したきっかけは?
『グリーンぺぺ』というお店に行った時に、マスターが40年以上も前に発行していた『スコール』というローカルペーパーに出会ったのが直接のきっかけです。自分たちが言いたいことや興味のあることをただ書き連ねて発行していたものなのですが、見た時に「これだ!これがやりたかったんだ!」と思いました。今読んでも共感できることが書かれていたり、現代社会を示唆しているような内容が書かれていて興味深いです。「今と言ってること変わらないじゃん(笑)」って思いました。
冊子作りは初めてだったというスフォルツァさんは家族や友人らと手探りの中『ORB』を作っていったそう。デザインは『88』というフリーペーパーに強く影響を受け、「すみません」と唱えつつ、印刷会社・紙・判型など全く同じ仕様で作られたそうです。−−実際発行してみて小笠原の人たちからの反応はいかがでしたか?
ポジティブな意見が多かったです。 雑誌の手触りがすごく小笠原のイメージに合っているとか、デザインの雰囲気が好きなど、多くの人に喜んでもらえました。1号目を見て広告を載せたい!と言ってくれた人も多かったです。その中でも一番良く言われたのが「島への愛が伝わった」という声です。小笠原の島民は島に対する愛が非常に強いので、そのように言ってもらえるのが一番の褒め言葉ですね。ORBは島民の人に楽しんで欲しいと思っていたので、素直にうれしかったです。小笠原の人たちはそれぞれの《小笠原の世界》を持っていますが、『ORB』は自分から見た《小笠原の世界》なんです。
島の人に受け入れられたORBですが、その目は小笠原諸島日本返還50周年を迎える来年、さらにはその先を見据える力強さも持ち合わせているように感じました。

通な小笠原諸島の楽しみ方

ORBの発行人スフォルツァさんに、小笠原の“8つの通な楽しみ方”を伺いました。
①飲み物、ご飯、本を持って小港海岸で1日まったりしたり泳いだりする。②海がベタ凪(風がそよとも吹かず波がない)ならSUP(スタンドアップパドルボード)で海遊散歩。③USKコーヒーで100%ボニンアイランドコーヒーを飲み、カフェすぐ横のコーヒー畑の風景を楽しむ。④自分の好きな夕日スポットを見つける。(一年中見える場所もあれば、季節毎にしか見えない場所もあります)⑤母島に行く。(母島は父島からさらに2時間程の船旅なので、母島まで行く人は間違いなく通と言えます)⑥ジョンビーチへのハイキング。片道2時間半ほどかかるが、素晴らしい父島の南側の風景が360度広がる。⑦暑い季節には水着とシュノーケルを持ってゴールのジョンビーチの青い海で泳ぐ。水2リットルを必ず持っていくことを忘れずに。⑧奥村地区にあるバー・ヤンキータウンで酒を飲みながらオーナーのランスから島の昔話を聞く。あと具体的な場所で言うと、小港海岸(島では数少ない砂のビーチ)、ジニービーチ(カヤックやSUP等でしか行けない、別次元のビーチ)、アカガシラカラスバト・サンクチュアリー(絶滅危惧種のハトを守り、島固有の植物が多く見れる自然保護区域)、ウェザーステーション(太平洋に沈む夕日が見れる展望台)などですかね。
小笠原まで来たら時間を気にせずにゆっくり楽しむ。これがスフォルツァ流だそうです。IMGP0293

父島おすすめのごはん処5選

「あまり数が多くないので……」と言いつつも教えていただいた珠玉の5選がこちら!なんてサービス精神旺盛なんだ!!
茶里亭(チャーリーブラウン)島の食材を提供してくれる人気のお店。2店舗体制で、居酒屋気分なら茶里亭、洋食系の料理ならチャーリーブラウンへ!・グリーンペペおそらく父島で最も古いレストランで、ORBの原点です。・ボニーナ港のすぐ近く、おしゃれな雰囲気のレストラン。お酒の種類も豊富で、個人的おすすめはランチのポキ丼。・ラドフォード島のサーフレジェンドが作るおいしい島料理が堪能でき、カラオケも楽しめる南国のレストラン。・あめのひ食堂船が着いてすぐにうまいランチが食べたいならココ!
東京から約1000kmという距離、それに付随する交通手段におけるハードルは決して低いものではありませんが、今ここに等身大の小笠原が見えています。それは周りを見回しても見つからない魅力に満ちていました。人は何だかよくわからないものにどうしようもなく引き付けられると言います。『ORB』がパッチリ見開いてしまった方は早速24時間の航海に出ましょう。スフォルツァさんが僕らの乗った『おがさわら丸』を迎えてくれるでしょう!なお、こちらのインタビューのフルバージョンはONLY FREE PAPER HPにて公開中です。フリーペーパーORBは、ONLY FREE PAPER ヒガコプレイス店で配布しています。過去の連載はこちら↓ofp_banner01

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