何か新しいものを生み出すためには、自分がまだ持っていない新たな技術や能力を身に付ける必要があると考えている人は多いのではないだろうか。
しかし、これまでに培ってきた“今持っている技術”を応用して、時代に合った新商品を生み出し、多くの反響を得ている企業がある。
手帳製造・OEMを手がけて66年の伊藤手帳株式会社は今年6月、手帳カバーで作ったマスクケース「Wポケット柔らかマスクケース」を発売した。同商品は、販売開始5カ月で販売枚数3万6000枚を突破。その48%が企業への販売で、withコロナ時代の新しいノベルティグッズとして定着しつつあるという。
時代に求められる新しい商品を、既に持っている技術の範囲内でどのように創り出したのか。伊藤亮仁(いとう あきひと)代表取締役社長に取材した。
手帳カバーで作ったマスクケース
「Wポケット柔らかマスクケース」は、手帳製造メーカーである同社の技術を活用し、手帳カバーと同じ素材を使って国内工場で生産している。
柔らかな素材を使用しているため、折りたたんで使うことも可能。抗菌加工と、使用中のマスクと新品の予備マスクを分けて収納できるダブルポケットにより、安心して使うことができる。
個人向けに販売している他、企業・教育関係向けに名入れも対応しているそうだ。
自社ブランド「ユメキロック」が躍進
伊藤手帳は1937年(昭和12年)に創業した手帳製造メーカー。創業以来、企業向けの手帳を年間約800万冊製造している。
BtoB事業が主力だが、2011年に自社ブランド「ユメキロック事業」を立ち上げ、ECサイトを主体に商品の開発販売をスタートした。
同ブランドの、中身が上下2段に分かれた「セパレートダイアリー」は延べ8万冊を販売する人気商品に。今年発売したハンカチのように折りたためる手帳「TETEFU」は、当初目標の2倍超を売り上げており、同事業の2020年度上半期売上は前年同期比158%を達成した。
コロナ禍に役立つオリジナル商品を
伊藤亮仁社長は1977年9月10日生まれ。立教大学を卒業後、大手企業に勤務し、2009年に父親から事業を継承した。
事業継承後は、工場部分を名古屋市内の本社から愛知県小牧市に移転。敷地面積を10倍にし、さらに1億円を超える設備投資も行うことで生産能力を飛躍的にアップさせ、積極的な営業展開を行っている。
-----「手帳カバーでマスクケースをつくる」というアイデアは、どのように発案しましたか?
伊藤社長:弊社は手帳ビニールカバー、その他ビニール製品の製造を行っています。そういった背景から、コロナ禍において、飛沫感染防止用のビニールシート製作等の打診がいくつかありました。
打診をいただけるのは世の中の役に立てて嬉しい反面、手帳メーカーとして「自社の技術を活かしてコロナ禍で役に立つオリジナル商品は作れないか?」という想いが強くなり、企画会議でどういう商品を作れるか意見を出し合うところからスタートしました。
その中で「食事中にマスクをテーブルに置いている人を見て不衛生に感じる」という意見があがり、そういった課題を解決するためにマスクケースを作ってみてはどうかという流れになりました。
元々手帳カバーは手帳本体を差し込むためのポケットを作るため、マスクケースも今の生産工程の中で製造可能ということがわかり、すぐに試作品作りに取り掛かりました。
既存商品にない機能で差別化
同商品は販売開始5カ月で3万6000枚超を販売。また、企業のノベルティグッズとして定着しつつあるなど、好調な売れ行きを見せている。
-----同商品を開発するにあたってこだわった点は?他のマスクケースとどのように差別化しましたか?
伊藤社長:企画の段階で市場調査したところ、マスクケースはすでに市場に出回っていました。しかし、どれも材質が硬いもので作られており、また収納できるマスクの枚数は1枚といった仕様が主流でした。
そこで弊社は、手帳カバーの素材を使うことでマスクケースに柔軟性を持たせ、折り曲げたり・丸めたりできる携帯性に優れたものを作る。さらに、使用済みのマスクと未使用のマスクを収納できるスペースを設け、衛生観念的にも優れたものを作ってみてはどうかと考えたのです。
色も清潔感のあるパステルカラーを選びました。
常に考える癖をつけておくことが必要
同社オリジナルブランド「ユメキロック」は、手帳カバーの制作から製本・梱包までの一貫生産体制という“今ある”社内技術を応用し、短期間でニューノーマル時代に対応した新商品を開発し、スピーディーに市場に投入している。
ハンカチのように折りたためる手帳「TETEFU」は、リモートワークの普及により手帳の使い方に変化が起こるのではないかと見越して開発し、わずか3カ月で商品化。
今回紹介した、手帳カバーで作ったマスクケースは、自粛期間中に商品を企画し、自粛解除とともに自社ECサイトで販売したという。
-----“今ある技術”という制約の中で新しい商品を生み出すために、どのように時流をキャッチし、商品を企画していますか?
伊藤社長:まずは自社の強みをしっかりと整理することが必要だと思っています。
すでに市場にある物の課題点や不満を洗い出し、それを自社の技術であればどう変えられるかを常に考える癖をつけておくことが必要です。
具体的には、新聞や雑誌、WEBのニュース、業界紙などにこまめに目を通しています。特に、業界を問わず新製品・商品に関する情報収集は怠らないように心がけています。
また、週に一度、営業・ECサイト担当者を含めた企画会議(ブレストの場)を設け、商品開発へとつなげます。
-----企画した商品を短期間で市場に投入し、広めるために、どのように動いていますか?スピード感を持って仕事するために心がけていることを教えてください。
伊藤社長:我々のような中小企業では、トップが商品開発に加わり、意思決定を1秒でも早くすることが重要と捉えています。
そして、決定後はすぐに動きます。まずは試作。最初はうまく仕上がりませんが、使う方が納得できるものを作るために試作を何度でも繰り返します。この熱意が良いものを作り上げると思っています。
一方、いくら良いものを作っても、世の中の人に認知されなければ売れません。これは我々のようなモノづくりを主体とする中小企業の課題でもあります。
弊社では、SNSによるプロモーションと広報活動に力を入れ、認知を広めるよう知恵を絞っています。
ものづくりのプロとして情熱を注ぐ
-----時代に合わせた新しい商品を生み出し続けていくために、大切にしている考え方・行動を教えてください。
伊藤社長:沢山ありますが、5つほどまず挙げさせていただきますと、
「業界全体の流れを把握する」
「社会の流れから見た自社はどのような立ち位置になるのか、という視点を持つこと」
「業界以外の方とも積極的に交流し、自分自身にイノベーションを起こすこと」
「社外からの意見に耳を傾けること」
「好奇心を持ち続けること」でしょうか。最後に、一番大切にしている考えとしては、“ものづくりのプロとして情熱を注ぐこと”です。
今ある技術を応用して、時代のニーズに合った新しい商品を世に送り出している伊藤手帳。
自らの強みや立ち位置をしっかりと整理・把握し、アンテナを広げ、今持っている強みをどう活用できるかを常に考える企画の生み出し方は、さまざまな業界・職種で働くビジネスパーソンの参考になりそうだ。
出典元:ITO TECHO
出典元:yumekirock
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