1688年(元禄元年)創業、佐賀県鹿島市の老舗蔵元である合資会社光武酒造場は11月、QRコードだけの日本酒「Q」を発売した。
ラベルに商品名などは書かれておらず、QRコードだけが載っている、極めてシンプルなデザインの日本酒だ。スマホ等でQRコードを読み取ると、そのお酒ができるまでの製造工程や代表・杜氏へのインタビューといった動画が再生され、酒蔵で飲んでいるかのような体験ができるという。
なぜQRコードだけで蔵元の思いを全て伝えるという新しいカタチに挑んだのか。光武博之社長に、同社の“挑戦しつづける経営”について取材した。
「伝統の中からの革新」が合言葉
光武酒造場は創業333年の老舗蔵元。
「伝統の中からの革新」を合言葉に、昔からの酒造りの伝統は守りながらも、一つひとつの製品の品質向上のため、絶え間ない努力を続けている。
新たに発売したQRコードだけの日本酒「Q」は、創業4年のベンチャー企業ケーエイチプラスによる企画。QRコードだけの日本酒というこれまでにない企画を多くの酒造が断ったが、光武酒造場が快諾したことにより実現したという。
日本酒文化を世界に発信する鍵に
-----「QRコードだけの日本酒」という、これまでにない商品に挑戦することを決めた理由を教えてください。
光武社長:はじめて「QRコードだけの日本酒」のお話を聞いた時は、率直に面白いなと感じました。
弊社は海外輸出に力を入れており、その際に言葉の壁や、レストランなどでお酒をサーブするスタッフの説明の違いが課題だと考えていました。
裏ラベルを現地の言葉で翻訳したり、現地に出向いてスタッフトレーニングを行っていますが、すべての思いを伝えることは難しく、また新しい情報の更新がリアルタイムでは出来ないのです。
そんな時に今回のお話を聞いて、画期的であり、今後の日本酒文化を世界に発信する鍵になると感じました。
そして、それ以上にケーエイチプラスの若い方たちの日本酒を愛する気持ちが決め手となりました。
国内において若い層の日本酒離れが課題となっている現状で、このような新しいカタチでの日本酒の情報発信が、若い方たちの手によって行われることが、次の世代へと繋がる道だと思っています。
同商品は、QRコードを読み取ると、携帯電話の端末登録をしている国の違いによって、動画再生時の字幕言語が英語・スペイン語・中国語・韓国語・タイ語・ベトナム語に自動で切り替わる。
この多言語翻訳により、海外の人々にも“酒造りへの想い”や“手造りのこだわり”を、言葉の壁を乗り越えて伝え、日本酒の楽しみ方を均一に正しく知ってほしいと考えているという。
精米歩合などは、あえて非公開
-----この商品を開発するにあたってこだわった点は?また、それをどのようにして実現させましたか?
光武社長:今回の日本酒は“蔵元の思いや文化を伝えたい”という気持ちで動き始めましたので、受け継がれてきた手造りでの麹造りや、昔ながらの仕込み方を行っています。
そのような文化を伝えながらも、現代の食文化に合う味わいに仕上げています。
そして、先入観で味を判断しないように精米歩合・日本酒度・酸度・アミノ酸度といった、目に見える数字をあえて非公開としています。それにより、自分なりの味の感じ方を楽しんでいただきたいと思っています。
お酒や料理は、説明やクチコミなど、口にする前に頭に入ってきた情報で味が変化すると言われているという。そのため、説明された情報が不足していたり、不均一だったりすることで、お酒本来の味わいを堪能できなくなることがあるそうだ。
同商品は、QRコードから均一な情報を知ってもらうことで、お酒本来の味わいを美味しく飲んでもらうことを目指しているという。
そうすることにより、若い世代にもお酒本来の味わいを正しく伝えることができ、日本酒離れを食い止めることに一役貢献できるのではないかと思っているそうだ。
成功ビジョンがカラーで見えるか?で判断
同社は「伝統の中からの革新」という合言葉の通り、同商品だけでなく、クラフトジンという新たなジャンルやアニメとコラボしたお酒、朝食専用の甘酒など、新たな試みに挑戦し続けている。
-----企画に対して、それに挑戦するか・しないかを決断する判断基準はどのように設けていますか?
光武社長:そのときの時流をしっかりと把握・理解し、これからの時流を少しでも早く感じ取れるように常にアンテナを張っています。
そうしていると、自然とその時流に欠かせない人物とのご縁があり、白黒で見えていたビジョンが、カラーで見えてくるようになります。
その成功へのビジョンが白黒で終わるか、カラーに変化するかが判断基準となります。
-----挑戦し続ける経営により、どのような効果や苦労がありましたか?
光武社長:挑戦し続けることにより社内に新しい風が吹き、新しい考え方に次々と取り組めるようになり、そのための改善・改革が自然と発生していきます。
挑戦は私のモットーですので、苦労と感じたことはありません。
-----合言葉である「伝統の中からの革新」を実現するために、普段から心がけている考え方・行動を教えてください。
光武社長:京セラ名誉顧問の稲盛和夫氏が作った京セラフィロソフィーという哲学をベースとした“光武フィロソフィー”を作成し、それに沿って、会社・社会人としての考え方を実行しています。
その中でも特に、「独創性を重んじる」「成功するまで諦めない」「動機善なりや、私心なかりしか」といった言葉を常に自問自答しています。
伝統を重んじながらも、時流を敏感にキャッチし、次世代を見据えて革新に挑み続ける光武酒造場。
QRコードだけの日本酒という、一見シンプルだが、海外の人々にも思いやこだわりを届けることができる新しいカタチの商品により、日本酒がどのように世界に、そして次世代に広がっていくのか、楽しみだ。
出典元:光武酒造場
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