宮崎県の繁華街「ニシタチ」をVR空間上に再現したオンラインイベント「バーチャルニシタチ夜市」が11月17日(火)・18日(水)の2日間にわたって開催された。
コロナ禍で中止になった街の風物詩をVR空間上で再現することで、苦境に立たされる“夜の街”の新たな形を提案する取り組みだ。
同イベントを企画し、VR空間を構築したのは、大学生の吉松大志さん。「夜市をバーチャル空間で再現する」というアイデアをどのように実現させたのか?吉松さんにその道のりや、行動力の源となった考え方について取材した。
VR夜市で、“夜の街”の新たな形を提案
ニシタチとは、宮崎市の中心部に位置する西橘通りを中心に隣接する通りを含めた、宮崎市最大の飲食店街。通りの両側にはあたたかい色の提灯がいくつも掛かっており、地元の人たちは愛を込めて同エリアを「ニシタチ」と呼んでいるという。
しかし、新型コロナウイルスの影響により、同エリアでも客足の減少やそれに伴う飲食店等の閉業が拡大。例年夏に開催されている祭り「ニシタチ夜市」も中止になってしまったそうだ。
そこで、宮崎大学の学生でありVR空間制作を手がける吉松大志さんが、「VR空間にニシタチを再現することで、苦境に立たされる“夜の街”の新たな形を提案できるのではないか」と、同企画を立案。夏休みのほとんどを費やし、バーチャルニシタチ通りを制作した。
同エリアのシンボルである“提灯”も再現し、特設ステージも用意。イベント期間中はVR上にて、VRニシタチ通りの自由散策や、同エリアゆかりのミュージシャンのミュージックビデオやDJプレイ、自主制作映画の上映等を実施したという。
挫折に挫けず、バーチャル制作を独学で開始
吉松大志さんは、1999年生まれの21歳。宮崎大学地域資源創成学部の3年生だ(休学中)。
2020年3月からバーチャルワールドの制作を独学でスタートし、同年4月には大学新入生向けに“バーチャル入学式”を開催。現在はバーチャル空間を活用した事業を手がけることを目的に、宮崎スタートアップハブに入居し、起業準備を進めているという。
-----今年3月にバーチャルワールドの制作を始めた経緯を教えてください。何かきっかけになるような出来事があったのですか?
吉松さん:バーチャルイベントを行っている企業の事例を見つけ、それを自分で真似してみたいと思ったことがきっかけです。
吉松さんはもともとeスポーツが大好きで、大学1年生の時からeスポーツ大会を企画・開催していたという。
“宮崎県をeスポーツで盛り上げよう”という目標を掲げ、今年4月から同県内で定期的にeスポーツ大会を開催するために休学していたが、新型コロナウイルスの影響で1年間かけた計画が全て白紙に。
困っている時に偶然、バーチャル上でeスポーツイベントを開催している企業の事例を見つけたという。
吉松さん:そこで「あっ!自分でワールドを作って、自分でやればいいんだ!」と気付き、ワールド制作を独学で始めました。
結局、バーチャル上でeスポーツ大会を開くことはシステム上・技術的な問題で不可能ということが後になって分かったのですが、ワールド制作がとても楽しく、続けていたところ、今回のような地域ぐるみのイベントを開催することになっていました。
実践優先で、理論も並行で学ぶ
吉松さんが独学でバーチャルワールドの制作を始めたのは今年の3月。わずか一カ月後の4月には「バーチャル入学式」を開催したという、スピード感ある展開に驚かされる。
-----独学でどのように学んだのですか?
吉松さん:よく学校の授業では「理論を学んでから実践に入りましょう」と学ぶスタンスだと思います。しかし、私はどちらかというとじっとすることが苦手で、「とにかく早く実践したい!」と考えるタイプです。
そういう性格もあり、「実践優先で、理論も並行で学ぶ」というスタンスで学んでいました。
具体的に使用したツールはインターネットのみだという。
吉松さん:「こんなオブジェクトを作るにはどうしたらいいんだろう?」と疑問に思ったら、1秒で検索して情報を集めて、それを真似する……その繰り返しでした。
これは自己分析して分かったことですが、インターネットだけでここまで学べた理由は、私がいわゆるZ世代で、物心がついたときからパソコンに触れていて結果的に情報収集能力に長けていたから、というのが主な理由だと思います。
そう考えると、小学生の時から一日中ずっとパソコンを使っていても怒らなかった両親の教育・環境に感謝したいですね。
協力者を得るには、楽しむ姿を見せること
バーチャルニシタチ夜市は、吉松さんの想いに賛同したQurumu合同会社が、同社が実施する宮崎県随一の繁華街「ニシタチ」を盛り上げる企画立案・情報発信の一環として開催した。
企業や地域との連携が不可欠なイベントを、どのように実現させたのか?
-----バーチャルニシタチ夜市の実現に向けて、どのように動きましたか?また、自分の思い・目標をどのように伝え、協力者を獲得しましたか?
吉松さん:私はもともと、Qurumu合同会社様のインターン生でした。今年の2月から約1カ月半、インターンとして学ばせていただいていました。
その関係もあって、自分の目標を伝えたところ、すぐに「やりましょう!」と乗ってくれました。
私は鹿児島出身ですが、ニシタチで食べ飲みしている間にニシタチが心地よい場所であることに気づき、ある種の価値を感じ始めていました。コロナで、ニシタチのお店が100店以上閉業になってしまったというニュースを聞いて、「自分になにかできることはないか」とずっと考えていました。「活気が失われつつあるニシタチに、私ができる恩返しをしたい」という思いを伝え、協力者を増やしていきました。
協力者を得るプロセスで何より意識したのは「自分が楽しんでいることを見せること」です。
自分が楽しんでいなければ人は寄ってこないので、内に秘めた思いを語りつつも、やはり最後は、企画していた楽しい姿を見せ続けました。これが私なりの協力者を増やす方法です。
ちょっとでも興味を持ったら、すぐに学ぶ
社会人になるのを待つのではなく、今できることに挑戦するフットワークの軽さと行動力は、どのように身についたのだろうか。
-----軽いフットワーク・素早い行動力のもとになっている考え方を教えてください。
吉松さん:「興味のあるうちに学ぶこと」が、私の基本的な生き方・考え方です。
私の21年間の小さな知見ではありますが、1個の興味・関心が人生レベルで長続きするというのは極稀だと思います。だから、「いずれ持てなくなるから、どんなに小さくても抱えた興味は学んで育ててみよう」というのが持論です。
小さな興味の種を見つけたら全部拾ってみて、飽きるまで育ててみる。飽きてしまったらそれでいいんだと思います、向き不向きもあるので。
私はその「ちょっとでも興味を持ったらすぐに学ぶ」というのを、パソコンという情報媒体を通して行う癖を身につけていたので、結果として「行動力」があるように見えるのだと思います。
-----最後に、吉松さんのこれからのビジョンを聞かせてください。
吉松さん:現在、このバーチャルワールド制作を事業として行う株式会社モーゲンテックの設立準備を行っています。
今回のコロナで、私たちはデジタル上のコミュニティの在り方を問われたと思います。
その答えの一つに私は「バーチャル」があると思っていて、その「バーチャル」を民主化することで、皆さんのデジタル上のコミュニティを形成することができるのではないかと考えています。
バーチャルを民主化し、誰もがバーチャルワールドを持ち、イベントを開けるような社会を創り出すことが、今の私が取り組んでいる挑戦であり、夢です。
発案したことを「もっと実力を付けてから」「機会を見てから」と先延ばしするのではなく、興味をエネルギーに素早く実行に移す吉松さん。
コロナ禍により多くの商店街や企業が苦境に立たされている中、吉松さんの提案するバーチャルを活用した新たな街の在り方が、どのように広がり、どんな効果を生み出していくのか、楽しみだ。
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