1. 西田宗千佳のトレンドノート:「iPadOS」登場でiPadは「パソコン代わり」になるのか

西田宗千佳のトレンドノート:「iPadOS」登場でiPadは「パソコン代わり」になるのか

6月3日から7日まで、アメリカ・サンノゼでは、アップルの年次開発者会議「WWDC 2019」が開催された。WWDCでは毎年、秋に公開になる同社製品で使われているOS群の新機能が公開される。

今年もその点は変わらず、各製品で今秋からどのような点が強化されるのかが語られた。 

iOSから「iPadOS」が独立 

特に大きな変化があったのがiPad向けのOSだ。これまではiPhoneと同じ「iOS」というくくりだったが、iPadとの差が大きくなってきたこともあり、今後のことも考え、iPad向けには「iPadOS」という別のOSが作られることになった。

といっても、コア技術がiOSと同じであることに変わりはない。iPhoneのアプリがそのまま動く、という要素にも変わりはない。だが、今後はユーザーインターフェースを含めた部分が、iPhoneとは大きく違っていく、ということだ。現在も違いはかなり多いが、それがさらに加速する。 

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iPad用のOSは名称が「iPadOS」になる。

狙いのひとつは、パソコンのように「様々な仕事ができるようにしていく」ことだ。

これまでiPadを含めたほとんどのタブレットでは、「同じアプリを複数画面開く」ことに制限があった。パソコンの場合、ワードの文書を2つ以上開いて、その内容を確認しながら作業をするのは日常茶飯事だが、それが難しい。「ワード文書が開けるアプリを2つ以上用意し、別々のアプリで開く」という裏技で解決できるのだが、正直簡単でわかりやすくはない。

しかし、秋に登場するiPadOS 13をインストールすると、対応アプリでは、1アプリで複数の画面を開ける。だから、「ワードの文書を2つ以上開いて、その内容を確認しながら作業をする」ことが普通に可能になる。

アプリのマルチタスクも改良され、「他のアプリの内容を見ながらなにかをする」のがもっと簡単になる。また、これは秋にはiPhoneもそうなるのだが、SDカードやUSBメモリーに対応し、パソコンと普通にファイルのやりとりができるようになる。この点はAndroidでは出来ていたことだが、iPhone・iPadでも可能になる。 

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iPadOS 13では、1つのアプリを2つ以上同時に開けるようになる。ワード文書を見比べながら作業するのも簡単だ。
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アプリのマルチタスク動作もより簡単に使えるものになる。  
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USBメモリーでのファイルのやりとりにもようやく対応。

「iPadだけが残った」がゆえのジレンマ 

2010年にiPadが登場した時、世の中には低価格パソコンである「ネットブック」ブームがあった。仕事をするには辛くとも、ネットをいつでもどこでも使える機器が求められていた。そこに、「手軽にネットが使える機器」として生まれたのがiPadだ。 

iPadはパソコンよりも軽く、持ち運びも容易だ。だから、パソコンのように使いたい……という声は以前から、いや、iPadが生まれた2010年から存在した。だが、パソコンとiPadは厳然として違うものであり続けた。

初期の理由と現在の理由は違う。初期の理由は「性能が不足していた」からだ。ウェブの閲覧やアプリの利用には十分な性能を持ち、パソコンより快適に動作しているように見えたiPadだが、それはソフトウエアの最適化による部分が大きい。パソコンと同じ使い方をするには、それに適した作りが必要になる。

しかし現在は、スマホやタブレットとパソコンを性能で分けるのはナンセンスな話になってきた。ペンやカメラ、GPSの活用では、パソコンよりタブレットの方がずっと進んでいる。iPad Proは、ペンの精度などの面でもパソコン用のタブレットと遜色ない。

アップルは数年前から、iPadの位置付けを次第に「パソコンとは違うが、なにかを作ることもできる機器」へと変えようとしている。性能面での向上が大きな理由だが、もうひとつの理由は、「タブレット」という市場の変化だ。

iPadがタブレット市場を拡大し、Androidを使ったタブレットもどんどん生まれた。だが、タブレット市場が健全に成長したかというとそうではない。200ドルくらいの低価格なものに注目が集まった結果、性能が高くて使いやすいものは売れづらくなってしまった。

結果的に、Androidでタブレットを作るメーカーは次第に減っていった。ハイエンドなAndroidタブレットはファーウェイやサムスンが少々作る程度で、残りは低価格なAmazonのFireタブレットになった。「ハイエンドタブレット」という市場は、結果的にiPadが占める市場になっていった。タブレット市場全体はここ数年マイナス成長で、iPadだけが増加、という市場になっていた。

iPhoneに代表されるスマホが生活必需品になり、パソコンが仕事のための必需品であり続ける一方で、タブレットはその間にいた。あれば便利なのだが生活には必須ではない。

その辺の感覚は、海外で飛行機のフライト待ちをするとよく分かる。日常的に飛行機に乗るような、ラウンジにいる人々はiPadを持っている比率が非常に高いが、ラウンジに入れないような、頻繁には飛行機に乗らない人々が持っているのはまれだ。「便利だと思う人は買うが、必須ではない」という姿が、こんなところからも見えて来る。 

低価格パソコンの代わりに広がり、「Macのコンパニオン」にも

それでも、アップルから見れば、iPadは「Macほどは高くない製品」だ。もっともスペックの高いiPad ProはMacに近い価格だが、それでも、低価格なMacBookやMacBook Air並だ。「プロの道具」としてMacBook Proと比較すれば厳然とした価格差がある。

Macは他のパソコンに対して相対的に高く、10万円を超える製品が中心になっている。一方、教育用や日常的な利用のために、5万円から10万円で買える「パソコン的なもの」は必要とされている。

アップルがこの数年狙っているのは、iPadをそういう位置付けにもっていくことだ。プログラマーやデザイナーは、プロの道具としてMacが必要である。一方、そうでない人はiPadでもいい。また、プロの場合、MacとiPadを組み合わせて使うと、さらに快適に作業ができる……。

次のmacOSである「macOS Catalina」には「Sidecar」という機能が搭載される。これは、iPadをMacのサブディスプレイにするもの。ペンなどの機能もそのまま使えるので、iPad Proを「高精度なMac用ペンタブレット」にすることだって可能だ。Macで作業をする人にとっても、iPadは「ある種のコンパニオンデバイス」として、持つ価値のあるものになる。 

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「macOS Catalina」に搭載される「Sidecar」。iPadがMacのサブディスプレイとして使えるようになる。

これが、アップルの狙いだ。実際、同じことができるようになっているなら、低価格なパソコンよりもiPadの方が快適で使いやすい。これまではOSの機能の問題で説得力を持たなかったが、iPadOS 13からは、そうした方向性がようやく実現する。アップルとしても、なかなか難しい仕事だったのだろう。

実際のところ、使い勝手はまだわからない。特に、日本語入力の精度など、パソコンとiOS/iPadOSの差はまだある。

だが、秋に向けて、iPadの価値がより高まるのは間違いない。低価格なパソコンや他のタブレットを考えている人も、秋のiPadOSがどのくらいのものになるのかを確かめて、じっくり検討することをおすすめする。

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