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西田宗千佳のトレンドノート:PayPay100億円キャンペーン中! なぜ「モバイル決済」に各社が夢中になるのか

西田宗千佳

2018/12/05(最終更新日:2018/12/05)


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 12月4日から、ソフトバンクとヤフーが共同設立した決済会社の運営するモバイル決済「PayPay」が、総額100億円分を還元する大規模キャンペーンをスタートした。

 キャンペーン期間中は、PayPayでの決済額の20%が還元され、さらに諸条件を合わせると、最大で「10回に1回」の確率で支払った金額が全額戻ってくる。

 全額といっても最大10万円までである、一人当たりの還元額には上限があるなどいくつか条件はあるものの、これまでにないほどの好条件であることは間違いない。

 PayPayに隠れてしまっているものの、他社もこの時期にキャンペーンを展開しており、「モバイル決済戦争」が本格化した様相だ。

 QRコードを使ったモバイル決済には各社が参入し、大きな動きになっている。

 なぜここまで競争が過熱しているのか? 改めて解説してみよう。

「行動データ」や「決済連動」を狙って各社が虎視眈々

 本記事でいう「モバイル決済」とは、主に以下のような特徴を備えたもののことを言う。

・スマートフォン上のアプリで決済を行う
・クレジットカードや銀行口座、プリペイドなどの形でお金をやりとりし、現金を介さない
・画面に表示された「QRコード」などの二次元バーコードを利用する

 実際には、携帯電話の非接触IC機能を使ったいわゆる「おサイフケータイ」系に代表されるサービス、「Suica」や「QUICPay」などや、海外のプラットフォーマーが展開する「Apple Pay」「Google Pay」といったもの、さらには携帯電話の利用料金と一緒に支払う「キャリア決済」もモバイル決済に含まれるのだが、現在拡大しているのは、それらとはまた別の「バーコード決済系」のサービスである。

 バーコードであろうと非接触ICであろうと、目的は変わらない。

 現金を経ずに決済することで消費者が「小銭を出さずに済む」ようになり、販売店は「現金の出納に伴う経理処理」を軽減できる。

 サービスを展開する側には、もちろん別の目的がある。

 決済手数料も魅力だろうが、その割合はどんどん薄くなっていくだろうから、それだけが目的、というわけではない。

 むしろ大きいのは、決済に伴って「消費動向」の情報が握れることだ。

 当然匿名化して使われるが、決済サービスの会社には、「どんな人がどういう物を買ったのか」という情報が集まる。

 それは、広告を打つにも、次の商品のためのマーケティングを行うにも、とても重要なものだ。

 また、決済動向を把握しているということは、その人の与信状況も予測できる、ということでもある。

 すでに現在も、「楽天カード」を持つ楽天は、決済および金融関係の売り上げで安定的な基盤を築いており、消費者データ蓄積の面でも大きな実績を上げている。

 「消費者データ蓄積」というとポイントサービスが強かったが、決済そのものでできるなら、より精度は上がる。

 そして、決済で大きなシェアを取れれば、もちろんそれだけビジネス規模は大きくなる。

 携帯電話やメッセージングなど、他のサービスとの関連も大きくなっていくので、この種のサービスを手がける企業としては、やはり「やるべき」ものに思えるのだろう。

「今、キャッシュレスができないところ」へ広げるのがバーコード決済の役割

 一方で、決済方法はすでに多数ある。実のところ、QRコードを使ったモバイル決済は、他の決済手段に比べ「使いづらい」のが実情だ。

 例えば、ICカードやスマホを使う非接触決済は、決済機(店のレジや自販機)にそれらの機器をかざせばいい。指紋認証や顔認証が必要になることはあるが、さほどの手間ではない。

 一方、スマホのアプリを使うモバイル決済では、「スマホを持つ」「電源を入れて特定のアプリを立ち上げる」「バーコードを表示させる」「決済機にかざす」という手間を踏む必要がある。

 場合によっては、「店舗側が示すバーコードをスマホで読む」「金額を入力して決済」といった手順になることもある。

 どちらにしろ、決済の前に「アプリを使わないといけない」のは手間だ。

 Suicaなどが普及しているのに、なぜQRコードを使ったモバイル決済を普及させる必要があるのか? 理由は大きくわけて2つある。

 ひとつめは「店舗側のコスト負担が劇的に小さい」ことだ。

 小さな店舗や飲食店の場合、Suicaなどはもちろん、クレジットカード決済にも対応していないことが多い。

 理由は、決済手数料が大きいことと、決済に必要な機材のコストが高いことだ。

 特にICカード決済については後者の影響が大きい。

 コンビニなどの流通大手ならともかく、商いの規模が小さい小売店では、少なくとも数十万円以上のコストがかかる決済手段を導入するのは難しい。

 そもそも店舗側の視点でいえば、決済は決済であり「利益を生む存在ではない」わけで、出費には積極的になれない事情がある。

 一方、二次元バーコードを使うモバイル決済は、非常に導入コストが低い。

 手元にスマホがあれば、アプリを入れるだけでそれが決済端末になるからだ。

 決済手数料についても、クレジットカードや非接触IC決済よりも低額に抑えられている上に、「当面は決済手数料0%」を謳う事業者も多い。

 要は、モバイル決済の役割とは、「いま開拓できていない店舗を決済可能な場所にすること」であり、その結果として「利用者を増やす」ことにある。

「100億円キャンペーン」はモバイル決済にとってプラスかマイナスか

 そういう意味では、PayPayの「100億円キャンペーン」は、うまいやり方のようでありつつ、本来の目的からはズレたやり方でもある。

 周知という意味では効果抜群だ。

 CMなどを一生懸命展開するより、ずっと認知が上がる。

 さらにCMも積極展開しているのだから、「PayPay」の名を知らない人は、今の日本には少数派になっただろう。

 これまでこの種の決済に興味がなかった人でも、ポイント還元につられて利用してみる……という人が増えているのは間違いない。

 しかも、100億円はあくまで「ポイントで還元」であり、結局はいつか、自社サービスの中で使われる。単純に「100億円広告に使った」のとは異なる。

  一方で、キャンペーンの旨味を最大限に生かすには、「大規模量販店で、金額が大きいものを買う」のがベスト

 そもそもPayPayのような決済の導入に向く小規模店舗での日常的な決済には、まだあまり使われていないだろう。

 そして、そうしたキャンペーンを目ざとく見つけるのは、決済に興味がない人々ではなく、リテラシーの比較的高い人々だ。

 12月4日のサービス開始日には、利用者が想定を超えて増えた結果、サービスが混み合い、決済ミスや決済待ちが多発した。

 プロモーションとしては成功、ということなのだろうが、「決済の裾野を広げる」意味では、あまりいい傾向ではない。

 短期に100億円の還元原資が枯渇すると、裾野を広げる意味ではマイナスだ。

 とはいえ、こんなことは運営側は百も承知だろう。

 このくらいの大規模な展開をしないとライバルを出し抜けない、というのがなによりの本音だと思う。

 結果的に、「現金を使わないことのメリット」が広がってくれれば、業界全体としてはプラスなのだけれど。


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