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西田宗千佳のトレンドノート:最新スマホの「カメラ」が示す、「スマホの先にある未来」

西田宗千佳

2018/10/18(最終更新日:2018/10/18)


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西田宗千佳のトレンドノート:最新スマホの「カメラ」が示す、「スマホの先にある未来」 1番目の画像

 今年もハイエンドスマホの新製品が出揃ってきた。

 携帯電話事業者の発表待ちだったり、一部後日の発表を予定しているメーカーもあるが、おおむね傾向はつかめる状況になったといえる。

 では、今年のスマホはどこがポイントなのか? それはやっぱり「カメラ」だ。

スマホカメラの本質的な変化が明確に

 でも、それはこの数年同じ傾向である。「今年のスマホはカメラがすごい」と言うフレーズは、そろそろ聞き飽きたのではないか。

 いや、今年はちょっと違うのだ。正確にいえば、「カメラについて、本質的な変化が明確になりはじめた」と言った方がいいだろうか。

 昨年来言われていたことだが、そのことがカメラの画質だけでなく、操作や用途にも大きく影響を与えている。

 それを体現しているのが、アップルの「iPhone XSシリーズ」とGoogleの「Pixel 3シリーズ」という、2大プラットフォーマーのフラッグシップ製品である。この2つは、スマホのカメラをどう変えようとしているのだろうか。

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アップルの「iPhone XS Max」。9月末に発売済み。10月26日には新機種「iPhone XR」の発売も控えている。
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Googleが11月1日に発売する「Pixel 3」。写真のスタンダードモデルの他、6.5インチディスプレイを備えた「Pixel 3 XL」もある。

カメラは「自然にいい写真が撮れる」機能に進化

 iPhone XSや10月26日発売の「iPhone XR」、そして、11月1日発売のPixel 3は、どれも「今年発売されるスマホとしては最高級のカメラ」を備えている。

 だが、それらの機器を買った人が最初に写真を撮った時、「さすがの画質! すごい!」と唸ることはおそらくないだろう。

 あ、いや、「たいして改善していない」という意味ではないのだ。その変化の方向が「自然な写真が簡単に、確実性高く撮れること」だからだ。

 光が強くて白く飛んでしまうような風景や、色調の再現が厳しい風景などで、思ったような写真を撮るのは難しいものだ。一眼レフなどで細かく調整しても簡単ではないし、スマホではどうしても限界があった。

 だが、過去の機種の写真と比べるとわかるのだが、今年のiPhoneやPixelはその辺の処理がうまい。

 しかも、撮る側はそのことを気にすることはない。あまりに普通に、難しいシーンの写真が撮れているからだ。作業も、単にシャッターを切るだけだ。ブレ防止に撮影後スマホを構え続けたり、特別なモード設定をする必要もない。

 こうした傾向は、iPhone XSの「スマートHDR」、Pixel 3の「HDR+」という機能で実現されている。

 カメラでは以前より、写真の中での光のダイナミックレンジ再現を高めるものとして「HDR」機能があった。だが、それらは「特別な時のもの」「撮影を面倒にするもの」というイメージはなかっただろうか。

 本当はそうではない。日常の風景は「カメラでは捉えきれない光」にあふれていて、それをなんとかフィルムやデータに押し込めているのが現状だ。

 HDRはそのための技術だが、「スマートHDR」や「HDR+」ではさらに進化させ、人々が意識しなくても「難しいシーンの写真をより自然に撮る」ことができる技術になった。

画像合成とAIで進化していくカメラ機能

 なぜこういうことができたのか? それは、撮影した映像を「写真にする」技術がゆるやかに変化してきた結果である。

 アップルにしろGoogleにしろ、使っているアプローチは同じだ。

 カメラのセンサーが高速に多数の映像を、「露出の違う状態」で捉え、それを合成し、「人が好ましいと思う状態」で写真にする。

 その時に使うのは「マシンラーニング」技術。巷では「AI」と呼ばれることの多いものだ。

 多数の写真から「人が好ましいと思う写真の備えた条件」を学習し、その結果を撮影した写真に反映しているからこそ、簡単に良い写真が撮れる。

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iPhone XSに搭載された「スマートHDR」は、画像を多数合成して光の表現を向上する。Googleの「HDR+」も同じようなアプローチだ。

  という風に説明すると、あることに気付くはずだ。我々は写真を「現実を写したもの」と思っている。だが、iPhone XSやPixel 3が作る写真は、ソフトウエアが作り上げ「人が好ましいと感じる画像」であり、現実そのままではない。

  とはいえ、写真とはもともとそういうものなのだ。撮影者の腕と機材、判断が反映された一つの像であり、特にデジカメでは、メーカー側の味付けも大きく反映される。

  中国系のスマホメーカーは、自撮りや「美白」にこだわる。アジアの顧客がそれを特に喜ぶからだ。

  写真の色使いにも、メーカーの意見が反映されている。iPhone XSとPixel 3の世代になり、強い演出ではなく「人が積み重ねた趣向」を学習した結果からコンピュータが写真を「作る」時代になった……。そんな風に考えることもできる。





「撮影」から「UIの進化」へ進むAI機能

  こうした進化は、コンピュータとしてのスマホが「AIをリアルタイムに処理するのに十分な能力を備えつつある」から起きたことだ。写真の画質向上にAIを、という傾向は数年前からあったのだが、それがリアルタイム性を高めた結果、使い勝手の自然さに繋がった、ということである。

  いま、そうした要素が「撮影機能」に使われているのは、ニーズも開発の方向性もはっきりしていて作りやすいからに他ならない。マシンラーニングによる「AI」は、もっと幅の広い技術だ。画像や音声の認識、行動の分析など、人のやりたいことを先回りしてスマホが代行するような機能に繋がっている。

  GoogleはPixel 3に「Googleレンズ」という機能を搭載した。これはカメラを「写真を撮るもの」ではなくセンサーとして使い、スマホが見た情報を処理して「人に使いやすい形」に変えるものだ。

  名刺を読み取って住所録に登録したり、花の名前を検索したり、紙に書かれた電話番号を読み取って電話をかけたりと、「人がキーを打たないとできなかった」ことを、カメラからの認識で代替する。こうした機能が増えていくと、スマホの使い方はさらに変わる。

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GoogleがPixel 3に搭載した「Googleレンズ」。カメラで捉えた映像を検索対象に変える。キーを入力する手間を大幅に削減してくれる。

 「スマホはもう進化しない」と思っていないだろうか。たしかに、登場から10年で、基本的な使い方は出来上がってしまった。しかし、AIの進化によって、スマホをもっと楽に使い、人のパートナーとしていくことは可能なはずだ。

  カメラの進化は、その前段階を示す出来事であり、本当の変化はこれから生まれる。そのためには「なにが消費者に喜ばれるのか」を分析する必要があり、各社はそこに苦慮している。

  産みの苦しみを超えるのがいつか、皆さんも予測してみてほしい。筆者は、そんなに遠い日ではないのでは、と思っている。


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