1. 西田宗千佳のトレンドノート:YouTube見放題を投入するソフトバンクの意図と「通信料金値下げ」議論の関係

西田宗千佳のトレンドノート:YouTube見放題を投入するソフトバンクの意図と「通信料金値下げ」議論の関係

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  8月29日ソフトバンクは、携帯電話に関する新料金プランを発表した。特徴はなんといっても「カウントフリー」。

  YouTubeやAbemaTVなどの動画サイト、Facebookにインスタグラム、LINEといったSNSを利用した際でも「ギガが減らない」ことにある。

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新しい携帯電話通話プランを発表。特徴は、8つのサービスが使い放題になる「カウントフリー」だ。


  折しも政府からは、「携帯電話の料金を下げよ」との声も聞こえてきている。ソフトバンクの切り出した「奇策」の狙いを考えてみよう。

スマホ10年に「使い放題」で応えるソフトバンク

  「iPhoneの登場から10年、スマホの使い方も広がりましたが、一方で常に『ギガ』を気にしていて、楽しみ方が制限されている。我々が次に目指すのはストレスフリーだ」

  ソフトバンク・代表取締役 副社長執行役員 兼 COOの榛葉淳氏は、発表会でそう宣言した。

  ソフトバンクが発表したのは「ウルトラギガモンスター+」を軸にした料金施策である。概要は、次の写真を見ていただくのがわかりやすい。

  月額5,480円からで、50GB分の通信料を含みつつ、YouTube・AbemaTV・TVer・GYAO!・Huluという5つの動画サービスと、LINE・Facebook・インスタグラムという3つのSNSについては、さらに「データ通信量をカウントしない」形になる。

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ソフトバンクの「ウルトラギガモンスター+」。月額5,480円を支払うことで、50GB分の通信ができつつ、8つのサービスが「ギガを消費しない」ようになる。


  さらに、2019年4月7日までに「ウルトラギガモンスター+」に加入した場合、2019年4月のサービス終了時期まで、上記8つのサービス以外、すなわち「すべてのアプリやサービス」のデータ通信量がカウントされなくなる。

  PCなどをつないで使う、いわゆる「テザリング」で消費する容量も含む。すなわち、この間は完全な「使い放題」となるわけだ。

  5,480円から、というのは確かに高い。そこは、家族でソフトバンクに入ると割引を行う「家族割」で対応する。

  今回より、パケット通信をそこまで使わない人は料金を抑えられる、段階制の「ミニモンスター」(月額1,980円から)というプランも用意し、「家族全体で使うとお得になる」ことを強調する。

  家庭のネット回線をソフトバンク系の光回線に変えた場合、「ウルトラギガモンスター+」の料金は、初年度の場合で月額3,480円まで安くなる。

  割引条件まで入るとちょっとわかりにくくなるが、要はこういうことである。

  • 50GBの大容量パックに入ると圧倒的にお得
  • 家族全体で入るとお得

  すなわちソフトバンクの狙いは、有利な条件をそろえて、ひとりあたり・家族あたりの売り上げが高い「優良顧客」を増やし、囲い込むことにある、ということになる。

KDDIはNetflixとタッグ

  同じような策を採るところはほかにもある。奇しくもソフトバンクが発表を行った前日には、KDDIがNetflixと共同で展開する「Netflixプラン」のサービス開始を告知するイベントを行っている。

  KDDIの通称「Netflixプラン」は、正式には「auフラットプラン25 Netflixパック」という名前だ。

  25GB分の通信+1回5分以内の通話がかけ放題という通信プランに、Netflixのベーシックパック(月額800円、とauビデオパス(月額562円))という映像系サービスの利用料金をセットにしたパックである。

  通信を多用する有料の映像サービスをセットにし、「家計全体ではお得になる」(KDDI・ライフデザイン事業本部 エンターテインメントビジネス推進部長の宮地悟史氏)という立て付けである。

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KDDIは8月28日より、動画配信サービス「Netflix」とのセット割である「auフラットプラン25 Netflixパック」をスタートした。


  ここでも、KDDIは、自社への支払い自体を安く抑えているわけではない。通信パックとしては安い額ではないが、映像配信に支払う料金まで含めると「十分にお得」であり、スマホをより気軽に使えるものになっている。

  ソフトバンクが「カウントフリー」という爆弾を投げ込んできたので目立たなくなってしまったが、やり方としては悪くない。

「通信料金値下げ」圧力に「端末分離」で対応する携帯電話事業者

  携帯電話の料金については「高い」との批判・苦情もある。菅義偉官房長官は、「携帯電話料金には競争が起きておらず、4割下げる余地がある」と発言し、物議を醸した。

  管官房長官は「OECDの調査によると、日本の通信料金はOECD加盟国平均の2倍程度と高い水準にある、と報告を受けている。また、携帯電話事業の参入を新たに示した楽天は、既存事業者の半額程度の料金に設定することを計画して公表している」とその根拠を説明している。

  ただし、携帯電話事業者、特にNTTドコモ・KDDI・ソフトバンクという大手3社は、単純に携帯電話料金を下げる、という考え方を採っていない。

  KDDIのNetflixプランは「通信以外のサービスを安くすることで、家計出費全体では安くする」という考え方であり、ソフトバンクの「ウルトラギガモンスター+」は「たくさん通信を使う時のコストを劇的に下げる」ことで家計出費を抑えている。

  またソフトバンクは、今回、新プランの発表と同時に、非常に大きな決断をしている。それは「端末分離」という考え方だ。

  従来、携帯電話料金には、携帯電話端末の販売費用が含まれることが多かった。本来は5万円から10万円はする高価な端末を安価に、時にはゼロ円で提供する代わりに、通信料金に上乗せして毎月支払う……という手法だ。

  だが、このやり方では通信料金がわかりにくくなる。スマートフォンの買い換えサイクルは長くなっているし、安価な中古端末・SIMフリー端末などを調達することもできるようになった。

  そこで、通信料金と携帯電話端末の料金を分割し、「端末料金は割り引かない」「その代わり通信料金は割り引く」という、「端末分離」型のプランが登場することになった。

  NTTドコモの「docomo with」は、特定の端末を選んだ場合、通信料金が毎月1,500円割り引かれる。端末はどれも4万円以下の低価格なモデルだが、端末価格に割引きはない。だから通信料金が割引になる。その後、別の機種にSIMカードを差し替えて使ってもかまわない。

  KDDIの「auピタットプラン」「auフラットプラン」も、月々の端末代金は値引きせず、通信料金は最大3割値下げするものだ。前述のNetflixパックも「フラットプラン」のひとつである。

  ソフトバンクは今回、「ウルトラギガモンスター+」と「ミニモンスター」の導入に伴い、端末分離を基本とした。「月月割」と呼ばれた、端末購入料金を割り引く施策は基本的に対象外になり、これから特別なものになっていく。

  大手3社は、サービス価値の向上と端末分離による通信料金の割引で、政府が求める「さらなる値下げ」を乗り切ろうとしているのである。


重要なのは「自らの意思で選べる」ようになること

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  管官房長官の発言は、「料金が下がるなら結構なこと」のようにも思われる。だが、通信業界内では、この発言は評判が悪い。「根拠とする調査の精度が悪い」「海外と条件が違う」「すでに低価格なサービスはある」というのがその根拠である。

  実際、端末分離で価格は見かけ上若干下がるし、安さが重要ならば、MVNOなどの格安なサービスを使えばいい。

  KDDIがUQ Mobileとビッグローブ、ソフトバンクがY! mobileとLINEモバイルを傘下に置いているのも、そうした事業者が実質的な「低価格向けのサブブランド」と位置づけているからだ。

  ただ、こうした施策があっても、消費者の目から見れば、通信料金はまだわかりづらい。MVNOなどの仕組みを学ばないと安くできない、というのは(世知辛い話だが)事実だ。サービスの透明化とMVNOによる低価格サービスの認知は、さらに進めていかねばならない。

  とはいえ、筆者としてはもうひとつの道もあるように思う。それは「価値をきちんと認めてもらう」ことだ。無理矢理払わされている感覚があるから文句が出るのだ。

  価値と価格のバランスをきちんと周知することで、「良いサービスに適切な費用を払う」意識も生まれる。

  割引やクーポンで釣るのではなく、「こういうポリシーなので安くなる」「こういうポリシーなので高いが安心して使える」などの認知を高めていくべきなのだ。

  そうやって「選べる」ことが最大の競争であり、消費者保護になるだろう。

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