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西田宗千佳のトレンドノート:災害時、携帯電話事業者に求められること

西田宗千佳

2018/07/19(最終更新日:2018/07/19)


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 6月28日から7月8日頃にかけて、西日本を中心に起きた水害では、多くの人々が被災した。被災した皆様には、甚大な被害を受けられた皆さまに対して、心よりお見舞いを申し上げます。

 水害だけでなく地震なども含めると、残念ながら、日本は「自然災害の多い国」である。今日自分は被害に遭わなかったとしても、近いうちに被災する可能性は高い。だから、「災害時、自分達はどう振る舞うべきか」「災害にはどう対処すべきか」ということは、社会を挙げて取り組まねばならない問題である。

 その中で、身近なインフラとしては「携帯電話(スマートフォン)」がある。2011年の東日本大震災以降、なにか起きた時の連絡手段として、携帯電話に求められる要素は増えている。水道・電気・ガスと同じように、社会的なインフラとなっているのは間違いない。

 ではそこで、携帯電話事業者はなにをしているのか? 利用者はどこを見て事業者を判断すべきなのか? 今回の水害で発表されたリリースを見ていて気付いたことがひとつあった。

MNVOでも「災害時の通信」はOKだが…

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現在のNTTドコモのトップページ。災害用伝言板へのアクセス先が用意されるなど、「生活を維持するインフラ」としての対応が十全になされている

 災害が起きた時、安否確認に電話・携帯電話が重要なのはいうまでもない。携帯電話ネットワークの維持と復旧は、携帯電話事業者にとってきわめて大きな「責務」である。インフラを持つ3大事業者は、そこで十分な努力を果たしている、と筆者は感じている。

 インフラの維持ももちろんだが、同時に「災害用伝言板」などの設置も行い、災害対応に努めている。

 最近聞かれるのが、「大手ではなく、格安スマホは大丈夫か?」ということ。格安スマホ、といういい方はあまり適切ではないので、ここではMVNO(仮想移動体通信事業者)と読み替えていただきたい。以下、文中ではMVNOで統一する。

 MVNOは、インフラを持つ携帯電話事業者からインフラを借り、携帯電話サービスを提供する事業者のことだ。要はいまのところ、「NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク以外」なのだが、MVNOは3社のインフラを借りた上で、さらにサービス内容を取捨選択して顧客に提供しているため、通信料金が安くなったり、シンプルになったりしている場合がほとんどだ。だから「格安スマホ」などと呼ばれる。

 MVNOは利用料金が安く、インフラを借りてサービスをしている。だから利用者としては、「災害時に、こうした事業者を使っていて大丈夫なのか?」という不安があるのも事実だろう。

 結論から言えば、通話・通信の基本的な部分については、災害時にも、たいていは問題がない。インフラは大手3社の持ち物であり、それが維持されている限りは、MVNOも大丈夫だからだ。実際には、MVNOと回線事業者をつなぐ部分に障害が起きると通信が出来なくなる。だが、そうした設備は全国で数カ所しかない。そこがピンポイントに被災すると問題が起きる可能性はある。

 そうした場所はたいてい大都市で、そもそも、インターネットインフラの維持にとって重要な場所。だから仮に被災した場合、インフラを持つ事業者も共に被災しているわけで、復旧は同様に、懸命に行われるだろう。そのような事情もあって、「MVNOだから災害に弱い」とは言い切れない。

 一方で、被災地との間での通信が増える状況については、MVNO側の設備のキャパシティが問題になる。MVNOは一般に、大手3社ほどインフラに余裕がない。そのため、「より混雑に弱い」可能性はある。

「被災後の対策」で生まれる大きな違い

 だが、現在の携帯電話が担う役割は、それだけで終わらない。むしろ、災害が起きて、そこから人々が避難した「後」の役割が大きくなっている。

  被災すれば人々は不安になる。様々な譲歩を求め、ネットへのアクセスも増える傾向にあるという。また特に現在は、テレビ局のニュースやラジオなども、災害時にはネットに公開されるようになってきている。ラジオやテレビのように「放送を受信する機器」を持ち出しているのならいいが、そうでない場合、スマートフォンでインターネットにつなぎ、そこから情報を得ることは多くなる。

 そのため、被災地でのスマートフォンでの通信量は多くなる傾向にある……と言われている。

 すなわち、被災後には「いつもより多く通信をする」可能性が高い。そこで、契約している通信量を使い切り、通信速度に制限がかかると、どうしても不安にかられることはあるだろう。

  そこで、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの3社は、災害救助法が適用された地域の利用者について、「通信量制限の緩和」に関する施策を発表するようになっている。今回の場合には、NTTドコモが「7月31日まで通信速度制限を解除」、KDDIが「10GB分のデータ通信を付与」、ソフトバンクが「8月31日までのデータの追加購入料金を無償化」する対策を打ち出している。

 ではこの面で、MVNOはどうなのだろうか?

 プレスリリースやお知らせが出ているか否かを、大手を中心に、筆者が調べてみた。結果は表の通りだ。

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今回の水害に伴い、災害救助法適用地域での顧客に「通信料金の対策」が行われたかを調べてみた。MVNOでは行われない例も多い

 MVNOとはいえず、「大手のサブブランド」であるUQ Mobileとワイモバイルについては、それぞれKDDIやソフトバンクに準ずる対応が行われている。これはわかりやすい。

 MVNOの中でも今回調べた範囲では、BIGLOBEモバイル・IIJmio・mineoの3社が、災害救助法が適応された地域の顧客に対して、通信料金・通信速度面での対応を行っている。このうちBIGLOBEはKDDIグループなので、KDDIに準じた対応をしている、とも判断できるが、IIJmioとmineoは、独自に対応を発表している。

 特にわかりやすいのがmineoだ。mineoはもともと災害時に被災者を支援する目的で「災害支援用フリータンク」という制度を設けている。同社では通信料を「タンク」という形で表しているが、災害救助法適応時には「災害支援用フリータンク」からデータ通信料を供出する……という形で制度化し、ウェブでも明示している。

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MVNOの中では、IIJmioと並び、mineoが災害救助法に基づいて対応した。元々mineoは「災害支援用フリータンク」という制度で対応することを明言している

 MVNOの通信インフラは、大手3社ほど余裕がない。余裕を多く作ることは運営コストの増大につながり、通信料金に跳ね返ってくるからだ。「被災時には大手と同じように通信費負担を軽減せよ」と無理強いするのは難しいだろう。そもそも、通信はきちんとできているのだから、「なんでも無償で提供せよ」とはいいづらい。

 だが、同じMVNOでも、こうした対応を「するところとしないところがある」ことは憶えておいてもいい。そして、通信料金やサービス内容に加え、サービスを選ぶ上で指針のひとつとして考えていただきたい。


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