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西田宗千佳のトレンドノート:Surface Goはなぜ「日本だけ高く感じる」のか

西田宗千佳

2018/07/13(最終更新日:2018/07/13)


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Surface Go。Surface Proをそのまま小さくしたようなデザイン。機能的にも、CPUが若干弱くなったくらいで、ほぼそのまま引き継いでいる

 7月11日、マイクロソフトは、Surfaceシリーズの最新モデルである「Surface Go」を発表した。

 この製品は、かなり注目すべきものだ。iPadとほぼ同じ10インチディスプレイを搭載し、重量も520gとほぼ同等。それでいて、あくまで「Windows搭載PC」だ。CPU性能もストレージ容量も控えめな性能だが実用上は十分。しかも、アメリカでの販売価格は399ドルから(キーボード、ペン別売)と、かなり安い。

Surface Goインプレッション

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Surface Proと比較。一回り小さくなったが、実はキーのサイズや間隔はあまり変わっていない
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小型化したので、弱点だった「膝の上での使い勝手」も男性ならなんとか……というレベルに
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実質のライバル、iPad Pro(10.5インチ)との比較。サイズ的にはかなりよく似たものであることがわかる

 ただ、日本でのSurface Goには、一点気になることが出てきてしまった。店頭販売価格が、最廉価モデルで「6万4800円から」と、アメリカに比べ、かなり高くなってしまったことだ。

 それでもお買い得であり、価値ある製品であることに変わりはないが、「安いのにSurfaceとしての価値はそのまま」というインパクトは、アメリカに比べると弱まっている。

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日本での販売価格。Officeをプレインストールとしたため、その分価格が高くなってしまった

 もちろん、日本マイクロソフトが不当に高くしているわけではない。アメリカのモデルと違い、日本のSurface Goには「Microsoft Office Home & Business 2016」がプレインストールされているからだ。

 簡単に言えば、その分だけ日本版の販売価格は高くなっているのである。

プレインストールじゃないとPCは売れない?

 なぜ日本のSurface GoはMicrosoft Officeがプレインストールになっているのか? それはもちろん「その方が売れるから」だ。

 日本で店頭販売されるPCは、Microsoft Officeがプレインストール、ないしはバンドルされている比率が非常に高い。

 統計として表に出ている数字はないが「店頭販売モデルに限れば、Microsoft Officeのあり・なしは売れ行きに大きな差となって反映される」という話は、多数のPCメーカー関係者から耳にしている。今回マイクロソフトがSurface GoにMicrosoft Officeをプレインストールして出荷することとしたのも、「市場を見ての判断」としている。

 5年以上前、具体的には「Office 2013」以前には、Microsoft Officeは「買い切り」に近いイメージだった。ソフトのバージョンアップパッケージがあって、それを購入して機能アップを図る……という使い方だ。ひょっとすると、まだそのイメージを持っている人もいるかもしれない。

 とはいえ、そうした姿はすでに過去のものだ。OSもMicrosoft Officeも「サービス」に近いものになり、常に最新のものを使うのが基本になっている。Microsoft Officeの場合、買い切りのバージョンの他に、利用料支払い型の「サブスクリプション」形式である「Office 365」がある。個人向けとしては、2台のPCまたはMacで使える「Office 365 Solo」が、年間1万2774円で提供されている。

 日本の店頭向けPCでは、通称「Office Premium」と呼ばれる製品がバンドルされることが多かった。買い切り的なパッケージにOffice 365をセットにしたようなもの、と考えればいいだろう。まず、各Officeアプリが「購入したPCだけで使える」ライセンスとして付属する。こちらは買い切りなので、サブスクリプションのように「支払いが止まると使えなくなる」ことはない。

 ただ、「実質買い切り」なのに、サービスのようにアップデートが保証され、さらには、1年後には支払いが必要になるサービスもある……という形態がわかりにくく、誤解も多数あるということで、2018年2月からは「Office Home & Business 2016」というライセンスパッケージが、プレインストール向けの基本になった。

 こちらは買い切りと同じく「アップグレード保証なし」「Office 365サービスの付属もない」ものだ。Surface Goに付属するのもこれであり、今年春以降のPCでは増えている形態だという。

 ただ、Office Home & Business 2016の場合には、希望者にはOffice 365 Soloのディスカウント提供とライセンスの切り換えがあり、「サービス型がいい」という人は、そちらを利用するのがいいだろう。

任せず「判断する」市場への成熟が必要

 過去より、「PCにはOfficeがプレインストールされているのがお得」と言われてきた。

 だが、現在は、本当にそうなのだろうか?

 そのPCだけをずっと使い続ける場合、追加出費のないプレインストール形態はわかりやすく、お得だ。そこは今も変わらない。アップデートも「しない」ならそれでいい。

 しかし、PCが2台以上あって好きに選んで使いたい場合、話は変わってくる。2台ならサブスクプリションの方が安くなる場合があるからだ。PCを買い換える時にも、サブスクリプション形式ならば、プレインストールモデルを選ぶ必要はなくなり、結果的に費用が安く済む。Macを初めとした海外製のパソコンには、Officeが付属しないものもある。そうした製品を買う場合には、追加でOfficeを買うと高くつく。

 別にPCだけの話ではない。iPadのようなタブレットでOfficeを使う場合にも、基本的にはOffice 365への登録が必要になる。オンラインストレージである「OneDrive」の1TB分の利用権もある。

 プレインストールがお得な人もいれば、そうでない人もいる、というのが実際のところだ。だが、こうした話はたしかに複雑でわかりにくい。日本において「サブスクリプション」というサービスの理解がなかなか進んでいなかった、という部分もあるだろう。

 ソフトウエアは不変の道具ではなく「サービス」であり、その利用コストを払う、というイメージが湧きづらい部分があるのは否めない。

 こうした事情から、店頭では「説明しなくてもいい」「説明が簡単である」という理由から、プレインストールモデルが選ばれる率が多いのである。

 だがそろそろ、そういう硬直した状況に変化を与えてもいいのではないか。PCを買う時、我々はもう少し適切な判断を下して買うようにすべきである。サービスとサブスクリプションの関係は、その上で必須のものだ。顧客がきちんと学習し、その上で「どちらかを選ぶ」のがあるべき姿だと思うし、メーカーと流通は、そうした態勢に対応すべきだ。

 日本では「PCはあまり使わないし、高いからいらない」と言われることがある。それはもったいない。PCの価格を下げ、エントリーポイントを下げる意味でも、「サブスクリプションの活用」は重要だと考える。家庭にあるPCすべてが高価なプレインストールモデル、という形ではなく、サブスクリプションを活用した方がコストは抑えられるはずだ。

 Surface Goが日本だけ高い、と怒るのは簡単なのだが、本質はそこにある。


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