1. 「成功を成功と感じたら成長は止まる」好調なDeNAゲーム事業を支える宣伝部長・今西陽介のマーケティング戦略

「成功を成功と感じたら成長は止まる」好調なDeNAゲーム事業を支える宣伝部長・今西陽介のマーケティング戦略

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1999年の創業以来、新たな事業領域に挑戦しつづけてきたディー・エヌ・エー(以下DeNA)。中でも、主力事業として同社の屋台骨を支えているのがゲーム事業だ。

その宣伝部のリーダーとして、約60名ものチームを束ねるのが今西陽介さん。彼が考える、理想のマーケターとは? DeNAゲーム宣伝部が好調な理由や今西さんの人となりについて、インタビューを通して紐解いていく。

株式会社ディー・エヌ・エー ゲーム・エンターテインメント事業本部 宣伝部部長 今西陽介氏

新卒で食品メーカーに入社し営業を担当。約15年前にDeNAに入社し、営業、PR、プロデューサー、ファッションのバイヤーなどさまざまな職種を経験する。現在は宣伝部の部長としてゲーム事業のマーケティングを担う。

「誰が言ったかより、何を言ったか」が大事

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──今西さんの現在のポジションについて教えてください。

ゲームアプリのマーケティングを管轄する宣伝部の責任者です。アプリのゲームマーケティングと言っても、アプリ上のオンライン施策だけではありません。リアルイベントを含めたオフラインマーケティングにも力を入れています。

新しくリリースするゲームアプリを知っていただく、ダウンロードしてもらい遊んでいただく、アプリを使い続けて「ファン」になっていただくまでの仕組みを作るという3段階すべてに携わっています。

──今西さんが入社したのは、約15年前ですよね。当時と比べるとDeNAは大きく成長しています。当時と今とで雰囲気に違いはありますか?

私が入社した時は100人弱の規模でしたから、今は25倍くらいの人数になっています。ただ、雰囲気自体はそんなに変わっていないんですよね。

当社は、今も昔も「誰が言ったかより、何を言ったか」を重要視しています。役職や年齢関係なく「正しいことを言う人が正しい」という文化、自由に意見を言い合える社風が根付いているんです。

ですから新入社員も、 私に対してめちゃくちゃ意見を言いますし、私も彼らの意見を聞くようにしています。社内政治のようなものはなく、自分自身が追うべきことに向かって成果を出せる環境です。仕事をする上で役職が上の人の言うことをやるだけでは、仕事がつまらないものになりますし、そんな仕事では絶対に成長もしません。自分で考えて自分で動く事が重要です。

──前職は食品メーカーでしたよね。IT企業に入って驚いたこと、苦労したことは?

苦労したのは、私より優秀な人しかいなかったことですかね(笑)。

ただ、これって仕事をするうえで非常に幸せなことでもあります。ビジネスマンは、賢い人や目線が高い人、仕事ができる人と一緒に仕事することによって急速に成長しますから。最初は周りと自分を比べて苦労したこともありましたが、そういう環境だったから今の自分があるのかなと思っています。私も頑張るしかありませんでしたからね。

今でも、DeNAの新入社員は私より断然すごいんですよ。役職や年齢を問わずに意見を言い合えるのも、優秀な人たちがいっぱいいるからかもしれません。年上だから、社歴が長いからと言って、偉そうに振る舞ってもしょうがないじゃないですか。彼らから学ぶことはたくさんあるので、素直に受け入れています。

ゲーム宣伝部を動かす4つの重要な役割

──自由に意見を言い合える風土とはいえ、2,500人規模になるとチーム作りが大切になってきますよね。現在、宣伝部ではどのような組織づくりをされているのでしょうか。

現在ゲーム宣伝部には、大きく分けて4つの役割があります。

DeNAゲーム宣伝部の役割

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1つ目の「宣伝プロデュースグループ」は、マーケティング戦略の作成から実行、振り返り分析までを行い、PDCAを回して次回の施策を改善するというマーケティングの全責任を負うリーダーの役割です。いろいろなマーケティングの知識を必要とするゼネラリストですね。

2つ目の「デジタルマーケティンググループ」は、Facebook、Google、Twitterなどの運用型広告を中心に活用し、デジタルの力でユーザー数を最大化するミッションを担っています。また、広告出稿だけではなく、ASOなどCVRを上げる施策も全てデジタルマーケティンググループで行っております。

3つ目の「コミュニティマネジメントグループ」は、「お客様のファン化」に関する取り組みを行なう部隊です。日本の人口は今後減少していくと予測されているため、新規のお客様を増やし続けるには限界があります。そのためお客様にファンになっていただき、使い続けてもらうことが重要です。そのための施策として、TwitterやLINEなどのSNS運用、オフラインイベントの開催によってお客様と直接コミュニケーションを行なっています。

4つ目の「パブリックリレーショングループ」は、社内外のメディアパートナー様へゲームのPR活動を行なう部署です。メディア対応だけでなく、アライアンスパートナーと交渉するPRチームとなっています。

──こうして見ると、宣伝部の仕事って幅広いんですね。

世の中に出る情報は、ホームページの細かい文言も含めてすべて責任を持つのが宣伝部だと思っています。各分野を横断する宣伝プロデューサーがそれぞれにおいてスペシャリティを出し続けるのは限界があるので、特に重要なデジタルマーケティング、コミュニティマネジメント、パブリックリレーションについては戦略的に役割を分けています。

──どれぐらいの人数が在籍しているのでしょうか。

現在は約60名在籍しています。ほかの企業に比べると相当多い規模ですよね。中小企業の社長みたいになっています(笑)。

メンバーのバックグラウンドはいろいろですね。ゲーム会社出身は半数ぐらい。広告代理店や省庁出身の人もいます。ゲームにだけ詳しくても、ひとつの手法に凝り固まったマーケティングしかできません。いろいろな業界の人がいたほうが、いろいろな視点のマーケティング手法が集まってくるんですよ。

──人員配置を考えるのも大変そうですね。社員の適性はどのように判断していますか?

共通して言えるのは、数字に強いかどうか。アプリのマーケティングって、施策を行なった結果が1時間後にわかるんです。それを見て、一喜一憂できるのは数字に強い人ですね。

数字が好きな人はデジタルマーケター、数字よりもお客様とコミュニケーションを取るのに長けた人はコミュニティマネージャーというふうに配置しています。

7割は手堅く、残りの3割はチャレンジを

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──他社にはないDeNA宣伝部の強み、魅力は何だと思いますか?

「チャレンジする文化」ですね。宣伝部のメンバーには、「マーケティングの仕事が10あるとしたら、7割は手堅いことをしましょう。3割は遊びましょう」と言っています。常にチャレンジすることが大切だと思います。

当然、チャレンジして失敗することもありますが、それを単純に「ダメだったね」と一刀両断しないようにもしています。原因を追究して、次にトライする時に成功確率が上がるものはどんどんトライすればいい。他社の真似ばかりでは発見もありませんし、ヒットも生まれません。なにより、マーケティングの仕事を楽しめませんよね。

──キャリアが短くてもチャレンジさせてもらえるのでしょうか。

もちろんです。新入社員でも一定の裁量権は与えています。結局のところ、人間の成長は「いかに意思決定をしたか」にかかっていると思うんです。若い頃にたくさん考え、たくさん決断した人ほど、大きく成長します。特にお金に関する決断は、とても重要だと思っています。

──今西さんのようなマネージャーにとっては、若手に裁量権を与えることで苦労も増えるのでは?

でも、1年後を考えるとそのほうがいいんです。メンバーが成長するほど、自分の仕事はラクになりますから。ひとりでできる仕事には限界があるので、チームで戦うためにいろいろな人に成長機会を与えるのが私の仕事なんです。

部下がミスした時には、部下の責任にせず自分でカバーするようにしています。

──宣伝部全体としてモットーにしてることはありますか?

「お金」よりも「頭」を使い、新しいことにチャレンジを続けることです。もちろんお金を使ったらダメというわけではありません。重要なのは、「予算があるから使う」という前提を捨て去ること。お金を使うことがゴールになっているケースもありますが、そういう考え方は徹底的に排除します。

マーケティング施策においては、お金を使えば良いものができるのは当たり前です。例えばイベントを行なう際、「1,000万円で1,000人集める」のと「500万円で1,000人集める」のとでは脳みその使いどころが全く違います。お金を使わなくても良いものを作ること、究極を言えば宣伝費ゼロでサービスを世の中に浸透させることがマーケティングの仕事だと思っています。

──ほかの事業部との連携で気をつけていることをお教えください。

「愛」と「気遣い」だと思ってます。マーケティングは基本的に間接部門なので、開発チームとは一定の壁があることが多いようです。開発者とマーケティングではやりたいことが違うこともあるので、ハレーションを起こしてしまうんですね。

その状況で開発チームに認められるには、開発者よりもそのサービスに詳しくなるのが一番の近道です。「こいつ、わかってるな」となった瞬間から信頼が生まれ、仕事がしやすくなります。私の場合、開発チーム全員の中で、私がいちばんレベルが高くなるようにゲームをやり込んでいます。開発者以上にゲームに詳しかったり、のめりこんでいたりする姿勢が周囲を惹きつけると思うので。これは知識だけでなく、やる気の問題なので誰でも明日から出来る話しなので、こういうものは全てやり切った状態を作るのが重要かと思ってます。

気遣いという面では、マーケティングの専門用語を使わず、懇切丁寧に説明することを心掛けています。IT業界は、気が付くと横文字ばかりしゃべっていますよね(笑)。難しい用語で煙に巻くと、その瞬間に信頼関係をなくすのでやめたほうがいいなと思います。




マーケターに大切なのはロジカルとパッションのバランス

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──ここからはパーソナルなお話を。今西さんが考えるマーケターの理想像、そのために必要なスキルについて教えてください。

理想とするのは、ロジカル(論理的思考)とパッション(情熱)のバランスが良いタイプです。

マーケティングという仕事は、お客様の求めてる潜在的なニーズを理解し、ターゲットを設定し、どのように届けるかを決めて、売れ続ける仕組みを考えることではないかと思います。これは、数字を見て、科学的に次の一手を考えて実行に移すロジカルな作業です。

ただし、科学的根拠を話すだけでは関係者がスムーズに動くことはありません。社内でパッションが伝わらなければ、顔の見えないお客様の心を動かすこともないでしょう。だからこそ、ロジカルとパッションのバランスが重要だと思うんです。

──そう考えるようになったきっかけは?

10年ぐらい前になりますが、「モバコレ」という子会社を立ち上げるプロジェクトに参加しました。千趣会様とDeNAの合弁会社で、ギャルファッションのECサイトを作って通販売上を上げていくというミッションです。私はそこに5年間在籍し、DeNA側の代表としてバイヤー責任者をしていました。

ファッションに関してはド素人でしたが、素人なりに考えたのがロジカルとパッションのバランスでした。ファッション業界は、基本的に「かっこいい」「かわいい」という感覚を重視します。そこで、どうしてこれがかわいいと思われるのか、なぜ売れるのかという要因を言語化し、再現性を持たせるようにしたんです。それがロジカル×パッションを磨いていくきっかけになりました。

──とはいえ、ロジカルとパッションをバランスよく身に着けるのは大変ですよね。

私は5:5のタイプですが、必ずしもひとりでバランスを取ることはありません。9:1の人は1:9の人と一緒に仕事をすれば、チームとしてバランスが取れますよね。たとえが適切かはわかりませんが、合コンと同じ(笑)。

5人イケメンを揃えても、うまく行くとは限らないじゃないですか。例えば、イケメンや気遣いできる人、癒し系、場を回せる仕切り役、お笑い担当などチーム内でのバランスが重要だと思います。

──その采配をするのが今西さんですよね。スポーツチームの監督みたいです。

近いものがあると思います。人の相性もそうですし、「この人はこういう言葉をかけたらテンションが上がって力を発揮する」ということもすごく考えます。

──仕事をする上で大切にしていることは?

自分が何よりも楽しめるかどうか、ですね。自分が楽しめていないプロジェクトは、周りも楽しめません。常に先頭に立って、誰よりも楽しんでいる雰囲気をつくることが大事だと思います。

──逆に、「これだけはやりたくない」ということは?

「できない言い訳を考えること」ですかね。

こういうマインドだと、物事に取り組む前に既に100%失敗することが決まってるようなものです。こうすれば達成出来るとか、前向きなマインドが大切です。

──「これは難しい」「ハードル高いな」と思うことはないのでしょうか。

リスクマネジメントはしないといけませんから、常に最悪のシナリオは考えています。ただ、メンバーに対しては、それをあえて口に出さないようにしてます。自分でリスクを考える視点は大切なので、メンバーが考えて出来たリスクについてインプットしたり、別の視点をディスカッションするようにしてます。

ネガティブな発言は、チームの意欲も削ぐ可能性もあるので、使いどころはよく考えます。

──では、今西さんがこれまでに経験した一番の成功体験と一番の失敗体験を教えてください。

実は私、成功を成功と感じないようにしているんです。成功すれば喜びますが、満足したり過信したりすればそこで成長が止まります。成功したとしても「ここをこうしていたら、もっとうまく行っていたのかな」ということを第一に考えるタイプなんです。

そういう意味では一番の成功体験はなくて、失敗がほとんどです。負けず嫌いなのかもしれませんね。プロジェクトメンバーに対しても、「時間を戻せるならこうできたよね」という振り返りは必ずしてもらうようにしています。

ただ一方で、メンバーには設定してた目標に対してクリアしていたら、まずきちんとチームで喜びを共有し合い指揮を高めるのはすごい大切です。その後に、もっと成功するには何が必要か議論開始です。

失敗した時も、きちんと振り返り、失敗しないための知見を貯めていき、成功確率を上げていくよう心掛けています。もともと切り替えが早いタイプなんですよね。嫌なことは寝たら忘れる(笑)。過去をくよくよ振り返るよりも未来を変えることが重要なので、そちらに意識を向けるようにしています。

あとは、単純に仕事が好きなだけかもしれませんね。やりたいことが見つかれば、副業で楽しんでバランスを取っています。

──ライフワークバランスはどうなっているんでしょう。

10時に出社して、19時には帰ってますよ。大事なのは、優先順位のつけ方だけだと思います。「これはずっとやっていた作業だから続けなきゃ」という幻想に捉われず、無駄なことはどんどん辞めていく。辞めても大したことない作業って、たくさんありますから。

会議なども典型的になくして良いものだと思います。会議は意志決定する場なんで、定例会議などとしてやってるものは積極的に見直したりするのが大切です。

エレベーターで「開」ボタンを押さないヤツはダメ!

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──今西さんが「この人はすごい!」と一目置く人はいますか?

少し前にバズっていましたが、大谷翔平選手が高校1年生の時に作った目標達成表(マンダラチャート)を見た時はすごいと思いましたね。

「体づくり」「メンタル」などの項目の中には「運」もあって、「ゴミ拾い」や「挨拶」「道具を大切に使う」といった目標も設定されているんです。彼のようにとんでもない実力の持ち主でも、そういった基本的なことを大切にしているのかと感銘を受けました。

実は私も、挨拶や礼儀にはうるさいほうなんです。常日頃から言っているのは、エレベーターでボタンの前に立っているのに、「開く」ボタンを押さずにスマホを触り続けててはダメです。よく観察すると、ほとんどの人はスマホ触ってますね。

気遣いをすることで見える景色も変わりますし、その積み重ねで周囲の信頼度も上がるはずです。エレベーターの「開」を押す派100人と押さない派100人だったら、前者のグループのほうが絶対に仕事ができると思っています。「当たり前のことは当たり前に気遣おう」と、口を酸っぱくして言っています。

──気遣いができる=視野が広いということですよね。

そうです。マーケティングの仕事では、視野が広いことがとても重要です。マーケティング職の人は、マーケティングの仕事だけしていても絶対に成果がでません。横断部門なので、開発チームとの接点も多い部署です。だからこそ気遣いが大事なんです。

──では、最後の質問を。今西さんがこれまでに影響を受けた本、映画、ゲームはありますか?

影響を受けたのは、小学生の頃に読んだ横山光輝の『三国志』です!(笑)

『三国志』にはさまざまな武将が登場しますが、権力があっても人の上に立つ資質、人徳がなければ大成しません。戦いにおいても、数が多い陣営が勝つとは限りません。マーケティングと同じで、「戦略ひとつで人生は変わる」というメッセージが詰まっているんです。

──『三国志』は予想外な選定です!好きな武将は誰ですか?

うーん、趙雲ですかね。主君の子供を抱えて、敵が100万人ぐらいいる中を駆け抜けるなどいろいろな武勇伝があります。三国志のゲームをプレイする際もいつも使ってます(笑)。

あとは劉備ですね。圧倒的に人徳が高く、自分自身の能力も高いんですが、彼に惹かれた様々な能力を持つ武将が集まってきます。チームでどう勝っていくかを考えられる人なんだと思います。周りの人たちが「この人を助けないと!」と思うような信頼関係を築いています。

助けたいと思わせる何かって、社会人にとって重要なんです。いかに人を楽しませ、好かれるか。私はマネージャーなので嫌われる局面もあるかもしれませんが、好かれるのと嫌われるののバランスを取っていきたいですね。

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