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「俺このままじゃダメかも」と思った。モンストの生みの親、ミクシィ新社長・木村こうきが語る「エンタメ経営論」

U-NOTE編集部

2018/07/02(最終更新日:2018/07/02)


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「俺このままじゃダメかも」と思った。モンストの生みの親、ミクシィ新社長・木村こうきが語る「エンタメ経営論」 1番目の画像

日本でいち早くソーシャルネットワークの可能性に気づき、SNS「mixi」で成功を収めた株式会社ミクシィ。

その後、多くのSNS普及に伴い苦境を迎えてしまったミクシィを救ったのは、ゲームアプリ「モンスターストライク」(以下「モンスト」)の大ヒットだった。

そんなモンストの生みの親・木村こうきさんが、2018年6月ミクシィ新社長に就任。

モンストを始め、アニメ・カードゲーム・音楽・スポーツなど、次々とミクシィの事業拡大に貢献してきた木村さんの経歴やビジネスポリシー、そしてパーソナリティをロングインタビューで迫る。

「俺らも大人になったなあ」と感じる

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株式会社ミクシィ代表取締役社長/XFLAG スタジオ総監督・木村こうき。2008年、株式会社ミクシィに入社し、数多くのコミュニケーションゲームの企画をプロデュース。その後「モンスターストライク」プロジェクトを立ち上げ、2018年6月、代表取締役社長に就任。

——木村さんがミクシィに入社されて10年が経ちましたが、入社当時と今の社内の雰囲気に違いはありますか?

入社した頃は年齢も若かったですし、なんというか……良くも悪くも成熟はしていなかったかなと。だからこそ無謀なチャレンジも、いろいろできたのかもしれないですね。学校の延長のような雰囲気でした。

——今の社内を見てどう感じますか?

文化祭みたいにワイワイしながらモノ作りしているのは変わりません。当たるかどうかは分からないけど当たったらでかいだろうな、みたいなホームラン狙いのチャレンジは、引き続きしています。

ただ、僕や笠原(取締役会長執行役員)といった経営陣がそれぞれ40歳を過ぎて、徐々に円熟味を増してきたようなところはあるかもしれません。

収益とのバランスを見て、安定的な経営ができるよう考えながらやるようになったというか。「俺らも大人になったなあ」と。まあ、昔もちゃんと考えてたんでしょうけど。

——木村さんはミクシィ以前からモバイルコンテンツ制作に携わっておられましたが、ミクシィに入社されて最初に苦労したことはなんでしょうか。

うーん、苦労したこと……。当時から、エンジニアが強かった会社だと思うんです。それは発言力も含めて。

なのでやりたいことを伝えて、形にするまでのコミュニケーションが難しかった印象があります。

——普通はエンジニアとの力関係は違うものなんですか?

なにが普通かはわからないですけど、でも、“アサーティブコミュニケーション”がモノ作りには重要だと思っていて。いわゆる、公平であることですね。どっちかが強いとうまくいかない。

その点でいうと、エンジニアも企画側も双方がアグレッシブにやり合っていたなあと思います。だからこそ、衝突はありました。

——今の制作時のコンタクトを見て、どう思われますか?

今は大分、わかり合ってるんじゃないですかね。現場を見てもらうと一番わかりやすいんですが、企画もデザイナーもエンジニアも、役職関係なくみんなごちゃ混ぜになって席に座っているんですよ。

——作業効率を上げるために、部門が違う人でも常に会話できる状態になってるんですね。

はい。席替えは毎週のようにしています。「~さんと話す必要があるから移ります」ぐらいで。フリーアドレスではないんですけどね。フリーアドレスにする必要もないっていう。(笑)

数百人で毎朝顔を合わせる「XFLAG スタジオ」

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——チームで仕事をする際、円滑に進めるために意識して行っていることはありますか?

僕は、よくニックネームをつけますね。やっぱり、率直に言い合える状態にしておくのが重要だと思ってまして。だったら友人になっちゃうのが早いです。

ただ今の僕の立場だと、なかなか立場上、難しいところがあるかもしれないですけど。なのでまず相手に聞きますね、「君のあだ名は何?」って。

——仲を深めることを大事にされてるんですね。ほかに社内の方とのコミュニケーションはどうされていますか?  ランチに行ったり、一緒に飲みに行ったり?

ランチはそんなに行かないですね、お酒も飲めないんです、僕。

でも、社内にあるプロジェクトルームでよく一緒にゲームをします。「ウイイレ(ウイニングイレブン)」とか、「パワプロ(実況パワフルプロ野球)」とか、それぞれ持ち寄ってきて、みんなで混ざって。

——でも1000人規模で社員がいれば、顔も把握しきれないですし「なにやってる人なのかな?」って思う人もどうしても出てきちゃいませんか?

うちの特徴かもしれませんが、XFLAG スタジオというエンタメ部門のメンバーは朝礼をやっているんです。用がなくても、毎朝、数百人で集まってしゃべるんですよ。

前に台があって、「今日の日直は〇〇でーす」ってその日の日直が二人組であがるんですけど、ちょっと気の利いたやつはそこで漫才みたいなこともやってですね。「今週はこんな発表があります!」って。

——楽しそうですね。

まあ、どんどん関心は薄れてきちゃうと思うんです、人が増えてくると。

朝礼だって何百人も集めるのは、コストが高いと思われるかもしれません。でも、とにかく顔を見ることが大切だと思うんですね、親しみのホルモン、「オキシトシン」みたいな。

——オキシトシン?

はい。赤ちゃんを見たりすると出てくるって言われているホルモンですが、他人同士でも分泌するそうなんです。

顔が見えない相手だと、なかなか親しみがわきにくいので、可能な限り顔を合わせるのは社内で意識してやっていますね。

チャットで議論したらねえ……ドツボにハマるだけですから。(笑)

ユーザーを驚かせることが最優先

——木村さんが仕事をするうえで大切にされていることはなんですか?

僕はよく“ユーザーサプライズファースト”という言葉を使うんですけど。

例えば、仕事をしていると、つい目的を見失ってしまうことがあると思います。上司が部下に「これをやってくれ」ってミッションを渡すとするじゃないですか。

——はい。

そうしたときに、やはり“上司ファースト”といいますか、上司が言ってるからと自分が納得しないまま仕事を引き受けちゃうってこともあるでしょう。それだと「結局、なんのためにこの会議集まってんだっけ?」って気持ちがブレていっちゃうと思うんですね。

だからもう、僕たちはとことんユーザーサプライズファーストを信念にしていこうと。とにかくユーザーサプライズが最優先なので、ユーザーファーストになるなってよく言ってますね。

既存のお客様の声ばかり聞いていたらイノベーションは起きない。怒られてもいい、驚かしていこう。それは僕だけでなく会社として共通の目的です。

——既存のユーザーを楽しませたい気持ちは当然あると思いますが、そこを振り切らないといけないときもあるということですよね。

人間って、ほっとくとディフェンスに回っちゃう人の方が多いと思っていて。

だから、ユーザーサプライズファーストと掲げておくぐらいがちょうどいいっていうのはありますね。そうすると結果的にいい感じのバランスになります。


「俺このままじゃダメなのかも」と思った

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——社内でどう意思決定の承認を通されているのか気になります。反対意見があった場合のプレッシャーをどう乗り越えますか?

まあ、難しさは感じますね。反対されてるなか「これでいこう!」っていうのは、失敗したときの非難も含めて自分が背負うことでもあるので、プレッシャーはかかります。

僕は気持ちが弱い人間なんですが、よく自分に言い聞かせるのが、「人はいずれ死ぬ」と。じゃあこれをやりきって死ぬ人生とそうじゃない人生、どっちがいいんだ?と言い聞かせて。あとはなんか、死んだら恥ずかしくないし、って。

どうせ死んじゃうんでね。恥ずかしいもなにもないじゃないですか。

——「いずれ死ぬ」とか「死んだら恥ずかしくない」とか、そこまで考えて仕事する人は多くないと思います。そう思うようになったキッカケはなにかあるのでしょうか。

うーん……。結婚を機に色々変わったような感じがあるのかもしれないですね。なんかこう、昔は逃げてばっかりだったと思ってまして。自分自身が。

——はい。

同居していた祖父が、厳しい人だったんです。毎日のように「光陰矢の如し」とか言われ続けてですね。(笑)

とにかく勤勉に生きろと言われているなかで、「自分はなんてダメな人間なんだ」とずっと思っていました。

そこから、結婚が契機だったかどうかは定かではないですが、ある程度歳を重ねて、「俺このままじゃダメなのかも」って思った瞬間があったと思います。

——家庭を持ったことに対する責任感とか?

それも含めてです。ライフステージが変わったっていうことじゃないですかね。サービスを成功させて、もっとお給料をもらわなきゃと。世帯年収はこれで足りんのかな? とか、今俺ができることはなんなんだ? みたいな。そんなのはあったかもしれません。

——木村さんが影響を受けられた人はいますか?  

実家の近所に住んでいた、矢野創(やのはじめ)さんって方がいるんですよ。小中学校のときの僕の家庭教師でした。

現在はJAXA宇宙科学研究所に勤められているはずです。当時から、文才もあるし、科学もできるし「神童」って呼ばれていて、街では知らない人がいないくらいでした。まあ、僕はしょっちゅう居眠りしてましたけど。(笑)

——あはは。今矢野さんにお会いになる機会は?

ないですねえ。僕のこと覚えてるかなあ。

モンストで感じた“ヒットの手応え”

——モンストは現在(2018年3月時点)累計4500万人の利用者がいて、たくさんの人に愛されていますよね。そこから考えられる、プロジェクトを進めるうえで手応えを感じる瞬間や、ヒットの兆候のようなものはありますか?

社内で勝手に仲間が集まっていくようなサービスは、ヒットすることが多いんじゃないかなと思いますね。もし、モンストに人格があったとしたら、モンストという子は、すごく愛されたし、恵まれたと思っていて。

サイレントリリースといいますが、まず社内の人からテストで始めたんです。公に発表はしないで、そっと出す。その代わり面白かったら友人に広めていいよ、と。

それがバイラルで勝手にばーっと広まっていって、プロジェクトに参加したいと言ってくれる人が増えていきました。

——最初から手応えがあったんですね。

はい。社内ですごかったんですよ。企画部のあるメンバーが、「いやもう俺天才だわ~」って。なにが天才なのかというと、自分がプレイして上手いと。

——企画のアイデアじゃなくて。

そう、アイデアじゃなくて。(笑)

プレイヤーとしてです。「そんなことより早くステージ作ってよ!」って。なので、社内のメンバーがプロジェクトやサービスが大好きな状態っていうのは、ヒットの兆候なのかなと。

やっぱり、そんな風に自信を持っていないと、売っていけないというのもあるでしょうしね。なかなか自分が食ってまずいと思うものを人に勧められないですし。

——モンスト以外で心に残っている仕事はなんでしょうか。苦しかったなあと思うものもあれば教えていただけませんか?

『mixiパーク』(※)は思い出深いですね。結構……難しかったなあって。

パートナー会社と、オフィスを別々にして運営していたんですよね。そうすると、本来はユーザーの方を一緒に見てやるはずが、お互いのやりとりだけで精一杯になっちゃったみたいなところがありました。自分たちはコミュニケーションを創出する会社なのに、なんでコミュニケーションの部分でこんなに失敗してるんだろうって。

だからこそ、今度なにかを作るときは絶対にひと所に集まってやろうと。そのコンプレックスというか、挫折の気持ちをぶつけたのがモンストだったんだと思います。結果的に、今の何百人規模になっても朝礼で顔を合わせるってところに繋がっているんでしょうね。

※『mixiパーク』は、2012年9月~2013年3月に公開された、自分自身の立体的な似顔絵(キャラクター)を作成し、そのキャラクターを通じて『mixi』でつながる仲の良い友人とのコミュニケーションを楽しむサービス。

好きなこと以外に1秒も使うべきじゃない

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——お仕事にストイックな印象ですが、休みの日はどのように過ごされていますか?

もっぱら2歳になる子供の子守ですね。可愛くてしょうがないです。たまに、子供の成長と社員の成長を重ねてみてしまうときもありまして。

——例えばどういう?

子供は毎週見るたびに、ちょっとずつできることが増えていくわけですよね。ああそうか、と。

部下も見えないところで同じように成長してるんだろうなあ、なんて思って。だからもうちょっと気長に見てやるかって、そういうのはありますね。

——家にいらっしゃるときもよく仕事のことを考えますか?

考えます。仕事もプライベートも同じです。家で仕事のことを考えますし、逆に仕事中に子供のことを考えることもあるでしょうし。

よく言うじゃないですか、仕事とプライベートの比重とか。現在の若者の何パーセントがプライベートを優先してる、みたいな。あれ、聞かれたらまあ「プライベートは大切です」って言うけど、みんなそんなに区別していないんじゃないかと思うんですよね。

——そうなんでしょうか。スイッチがずっとオンだと疲れませんか?

なんの苦でもありません。好きなことしかやらないんですよ。YouTuberかお前、くらいの。(笑)

人生の時間は限られているので、好きなこと以外に1秒も使うべきじゃないと思っていて。だから嫌だと思ったらとっくに辞めてるんだろうなと。


世の中“うまくいかないテトリス”のような現象がいっぱいある

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——ミクシィはスポーツ事業も始めています。それも木村さんが好きだからですか?

そうですね。スポーツはもっと頑張れるんじゃないかみたいな気持ちがありまして。海外のスタジアムって、家族や友人とワイワイ盛り上がれる作りになっているんですよ。併設しているバーで試合が終わってもゆっくりしたり、VIPルームがあってリッチな体験もできたり。

でも日本の球場に遊びに行くと、試合が終わったらみんな寂しそうな顔して、ぞろぞろぞろ……って帰っていく姿が見えるんです。

僕は、エンターテインメントショーとしてスポーツが存在すると思っているので、やりきれていない現実を感じます。昨今、スポーツの縦社会が問題になっていますよね。

——はい。ニュースを見ると、そういう流れはあると思います。

エンターテインメントとしてのスポーツなのか、もしくは、縦社会や体育の延長としてのスポーツなのか。そんなことを思うと、いろいろ変えていきたいと思うんです。改革していくのが楽しみになってきて。

——変えていくことがモチベーションになっているのでしょうか。

変えるというより、本来あるべき姿に戻すって感じですかね。

例えばテトリスでブロックが綺麗に収まって一気に消せたら、すごくスッキリするじゃないですか。

でも、そこに全然ハマらないブロックが乗っかると「あー!」ってイライラしますよね? それに近い現象が世の中にはいっぱいあると思っていて、それをすっすっと整えたい。変えるのではなく、物事を正常化するようなイメージです。

——木村さんが影響を受けたゲームや小説などのエンタメを教えてください。

うーん、影響を受けた本はいっぱいありますけど……。こういう場合の回答は啓蒙的なやつがいいんだろうなあ。スティーブ・ジョブズの伝記『スティーブ・ジョブズ』は良かったですね。

ビジネス本に見られる〇〇戦略とかとはまた違った、物語性のあるもので。彼の破天荒な人生を見て、本当に自分はやりたいことを思いきりできているのか、考えさせられました。「この夏読むべき一冊!」です。

——あはは(笑)。でも、なぜ夏なんでしょう?

個人的に夏って、生と死を強く意識する時期だと思っていまして。緑が生い茂る様子はキラキラした生を象徴するし、花火が上がってそこから秋が訪れるのが、なんとなく死に向かっていくような……。

なので、生死と向き合って人生を考えるのに夏という季節はすごくいいと思っています。このタイミングで本を読むのはいいんじゃないですかね。

「いろんな人が救われるだろうと思われるものに対して、投資していきたい」

——今後、ミクシィはどういう方向性で進んでいきたいと考えますか?

私たちは、“コミュニケーション創出カンパニー”だと思っています。人間はコミュニケーションなしには生きていけません。

もし今この瞬間から、世間から隔離されて一生誰とも話せない状態になったら、まあまあしんどいですよね?

——とてもしんどいです。

人との直接的な繋がりは生きるうえで欠かせないものです。しかし、テクノロジーが発達して、オンライン上で知らない人とゲームで遊べるようになりました。そのぶん顔を合わせて遊ぶ頻度はこれからますます下がっていくのかもしれません。

であれば私たちは、スマートフォンという移動体通信の“移動”の部分にフォーカスする。オンラインではなく、みんなで持ち寄って遊ぶことができる。それを文化として復活させようと。

IT企業として技術を培っていきますが、そのすべてをコミュニケーションのために使いたいんです。もし、未来にこんなコミュニケーションの方法があったら、いろんな人が救われるだろうと思われるものに対して、投資していきたい。それが私たちの存在意義だと考えています。

インタビュー・文/チャン・ワタシ
写真/曽我美芽

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