1. 西田宗千佳のトレンドノート:アップルはAIでの競争を、賢さより「自動化」「開発者との協力関係」で攻める

西田宗千佳のトレンドノート:アップルはAIでの競争を、賢さより「自動化」「開発者との協力関係」で攻める

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WWDCの会場であるサンノゼ・コンベンションセンター

 6月4日から8日まで、アメリカ・サンノゼでは、アップルの年次開発者会議「WWDC」が開催されている。

 WWDCの基調講演では、その年の秋に無償公開される「iOS」「watchOS」「tvOS」「macOS」の最新バージョンの内容が、開発者に向けて公開される。

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次のiOSは「12」になる

 昨年まで、WWDCの基調講演では、OSの新機能だけでなく、なにがしかの「新ハード」も発表になっていた。今年はハードの発表がないため、地味な印象を受けたかもしれない。

 だが、興味深い機能はいくつも発表されている。その中でも本記事では、音声アシスタント「Siri」に関する機能を紹介する。アップルが秋に無償公開する「iOS12」に搭載する機能からは、AIについて、アップルが他社とは異なる方針を持っていることが見えてくる。

激化するAI競争、アップルは少し遅れ気味で「戦略変更」

 現在、スマートフォンは「AI」を使った機能改革のさなかにある。スマートスピーカーで注目を集めている音声アシスタントも、元々はスマートフォン向けに開発されたものが発展し、色々な家電に入ろうとしている状況だ。

 そんなスマホ向けのAIといえば、Googleのものは「Googleアシスタント」。そして、iPhoneのものは「Siri」である。

 現状、SiriはGoogleアシスタントに対し、機能の面で劣っている……という評価が下されることが多くなっている。筆者も、「今現在」という条件ならば、Googleの方が優れていると思う。だからそこ、アップルは今回のWWDCで、SiriのAIの「賢さ」についてなんらかの改善を発表するものだと思っていた。

 だが、それはなかった。「Siriの声の応答が自然になりました」「Siriがより賢くなりました」というアナウンスは、今回のWWDCでは行われていない。

 しかしである。Siriは進化しなかったわけではない。そして、iPhoneの音声操作が便利にならなかったわけでもない。むしろ、大きな機能ジャンプをした……とも言える。「より賢くなった」というアナウンスでないのに、機能的には便利なものになる、という矛盾にも似た状況こそ、アップルが選んだ「今のSiriの進化の方向性」なのだ。

「いつもの」作業を自動化するショートカット機能

 では、その内容を詳しく説明しよう。

 iOS12では、次のようなことが行えるようになる。

 例えば、毎日朝、同じコーヒーを注文するとしよう。Siriに「いつものコーヒー」と話しかけると、コーヒーショップの注文・決済アプリが立ち上がり、いつも飲んでいる珈琲が、サイズ・トッピングのカスタマイズなどを入れた形で注文される。

 月に一度、同じ消耗品を買う場合には、「消耗品を買う」といえば、前回買った消耗品がそのまますべて、通販サイトに登録される。

 会社から自宅に帰るとする。「帰宅する」とSiriに言えば、帰る時に聞いているネットラジオを再生し、家族に「あと何分で帰る」とメッセージを送り、家の温度を適温に変える。

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「いつものコーヒーを買いますか?」とアプリが聞いてくる。コーヒーの注文内容もそのまま引き継がれ、ワンタッチで購入可能である
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「帰宅」をテーマにしたショートカット。自宅の位置・仕事場までの距離を測り、ナビを「ドライビングモード」にし、「何分後に帰る」というメッセージを送る。これらが皆自動で行える

 これらのことは、今でもスマホとアプリを使えばできる。だが、毎回同じアプリを立ち上げ、同じ項目を選ぶ……という作業を繰り返す必要がある。いかにも面倒だ。

 そこで登場するのが、iOS12に搭載される「ショートカット」という機能。ショートカットは、「アプリを開いて特定の操作をする」という行為を自動化するものだ。

 アイコンを並べて「作業の流れ」を作り、それに「名前」を付けると、その名前の作業を呼び出すことで、登録した一連の動作を「自動的に行う」ことができるようになっている。登録したショートカットの名前をSiriに登録すれば、Siriに対してそのショートカット名を言うだけで実行してくれる仕組みになっている。

 こうした連続動作は、主にPCを中心に、昔から試みられてきたものだ。iPhoneにも「Workflow」というアプリがあったのだが、2017年春にアップルが開発元を買収し、OSの基本機能として再提案した格好になる。

 確かに便利だが、「アプリを自動運転する」だけでは、別にAIは関係ない。それに、「アプリを操作したい順に並べる」という作業は、意外と難しいものだ。その作業はある種の「プログラミング」に近く、やったことの内比とにはハードルが高い。だから、ショートカットをアプリから設定するのは、かなり「高度なことをやりたい人」向けのもの……という印象が拭えない。

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ショートカットの設定画面。プログラマーならまったく難しくないことだが、未経験者にはハードルが高く見える

アプリの利用履歴から「次にやること」を示す「Siriアシスタント」

 しかし、アップルももちろん、それはよくわかっていた。

 そこで同時に搭載されたのが「Siriサジェスチョン」という機能だ。iPhone・iPadは、「自分がいつ、どこで使われたか」「どんなアプリが使われたのか」という情報を覚えている。

 もちろん、プライバシーには配慮されており、その情報が自分と自分が使うアプリ以外には見えないようになっている。また、iPhoneにやってくるメッセージやカレンダー情報を読み取れば、その内容から、「このメッセージに従って電話をすべきだ」「この予定を忘れてはいけない」といったことも推測可能になる。

 そうした個人的な「アプリを使うべきタイミング」に関する情報を使い、Siriは「こういうことを、あなたはしたいのではないですか?」と提案を行うようになった。これが「Siriサジェスチョン」だ。

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Siriサジェスチョン。画面は、受信したメッセージの内容に基づき、利用者に電話をかけさせることを促すサンプルアプリの例

 これと先ほどの「ショートカット」、さらには、ショートカットを使う前提で作られたアプリを組み合わせると、非常に便利なことが行えるようになる。

 例えば、あるショッピングアプリで「先月と同じ消耗品を買った」場合、「今回買った商品をまたまとめて買う行為を、ショートカットとして登録しますか?」と聞いてくる場合がある。

 ここで許諾し、ショートカット名を「毎月の買い物」とする。そうすれば我々は、Siriに「毎月の買い物」というだけで、「必要な商品をまとめてカートにいれ、購入後の決済を待つ」ところまでを自動化できる。

 また、旅行のための交通機関や宿を予約するアプリの場合、予約結果をショートカットに登録することで、声で呼びかけるだけで、飛行機のチケットやホテルの予約など、複数の要素を簡単に確認できるようになる。

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旅行予約アプリでの利用例。ショートカットで旅程を呼び出し、簡単に情報を確認できる。アプリとSiriへの登録がうまくいっている証拠だ

 これらは、アプリが「Siriサジェスチョンと共に動くべき動作」と「ショートカットを作るための情報」を持っているからできることである。

 iOS12に最適化されたアプリの場合、自分でショートカットを並べることなく、アプリとSiriが言う通りにボタンを押すだけで、各種の「自動作業」「自動処理」が可能になる。


本当に便利になるには「デベロッパー」の協力が不可欠

 ここで重要なことがある。

 Siriサジェスチョンがやっていることは巧みなものだが、AIとしては決して優秀ではない。だが「理想的なAI」ではないものの、人間の動き・心理を把握して作られたビジョンであり、Siriを実態以上に「賢い」ものに見せることが可能になる。

 すなわち、アップルは「AIの進化」を目標にするのではなく、「AIでより簡単に使える」ことの方を狙ったのだ。こうした「理想よりも実を採る」という路線は、実に今のアップルらしい。

 一方、Siriサジェスチョンとショートカットの連携が理想通りに動くには、開発者が早急に、該当するアプリを作る必要がある。今回、「開発者会議」であるWWDCでこの機能がアピールされた理由は、開発者に対して「あなた方の知見が必要である」と知らしめる必要があったからではないか……。筆者には思えてならない。

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