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西田宗千佳のトレンドノート:レノボ「Mirage Solo」が拓く「めんどくさくないVR」の世界

U-NOTE編集部

2018/04/26(最終更新日:2018/04/26)


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西田宗千佳のトレンドノート:レノボ「Mirage Solo」が拓く「めんどくさくないVR」の世界 1番目の画像

 4月24日、レノボはVR用ヘッドセットである「Mirage Solo」を発表した。価格は5万1200円(税別)。VRというと「Oculus Rift」や「HTC Vive」のようなPC用かPlayStation 4で動かす「PlayStation VR」が有名で、そうでないと安価なスマートフォン用……という感じだった。

 だが「Mirage Solo」は、今年トレンドとなる「一体型HMD」の流れをリードするもので注目の製品だ。一体型HMDがVRをどう変えるのか、解説してみよう。

VRは「自分のためだけの世界」を与えてくれる

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レノボの一体型VR機器「Mirage Solo」。一緒に映っているのは、同日発売の「180度撮影カメラ」、である「Mirage Camera」(3万5800円、税別)

 VRは、我々に新鮮な体験を与えてくれる。「世界に没入する」といういい方をするが、それは正確ではない。「自分のために専用の世界を用意する」といった方がいいだろう。

 ウォークマンとヘッドホンの登場で、我々はいつでも、世界の音を自分が好きな音楽に切り換えてしまう技術を得た。VRはその映像版だ。狭い部屋にいても、HMDをかぶれば我々は広大な世界に出て行くことができるし、自分専用の映画館を手に入れることもできる。

 もちろん、今はまだその初期段階だ。映像の解像度も粗いし、複雑なこともできるわけではない。ネットを介した人とのコミュニケーションは限定的だし、世界を「歩き回る」のも難しい。自分の動きと映像の動きの差から、人によっては「酔い」を感じることもある。

  ただ、そうした部分は技術によって改善できることであり、アプリやサービスができれば幅が広がり、問題が少なくなっていく部分でもある。個人向けにVR機器が登場し始めたのは2016年頃だが、その当時のアプリ・コンテンツと今のものを比較しても、その差はかなり大きなものになってきている。

 まだ進化の初期であり、その変化が著しいだけに「新しいメディアが変化していく様」を楽しめるのも、今のVRの面白さであり、魅力だ。20年後、「今使ってるVR、最初はこんな感じでね……」と思い出話が出来るのは、今実際に楽しんだ人だけの特権である。

「めんどくさい」を誘発するVRの「ケーブル」問題

 一方で、深刻な問題もある。

 めんどくさいのだ。

「いきなり低レベルになったな」と思うかもしれない。でも、これがとても大切な話なのである。

 VRに期待して「PlayStation VR」などを買ったものの、そのうち飽きて使わなくなっている……という人は、残念ながら少なくない。面白い体験・良い体験であることは皆が認めるが、初期の熱狂を過ぎると、VRを使うまでの「儀式」、使っている最中の「配慮」が面倒になってくる。

 諸悪の根源は「ケーブル」だ。PCやゲーム機から伸びる長いケーブルにつながったHMDはかさばり、セッティングが面倒で、使っている最中も不快である。

 高品質で遅延のない映像を担保するには、高性能なPCなどとケーブルをつかって接続するのがもっともシンプルで安定した解決方法なのだが、それが快適さを削いでいる。快適でないと「めんどくさい」と感じて、それが積み上がると使わなくなり、よほど特別な体験がある時でないと思い出さなくなり、埃をかぶる。強い思い入れのある人以外にとっては、明確なマイナスのサイクルである。

 いままでに「ケーブルのないVR」がなかったか、というと、もちろんあった。しかも安価なものが。それが、俗にいう「スマホVR」。誰もがもっているスマホを簡易なレンズだけのついたHMDに差し込んで使う。これなら安価だし、ケーブルもなくて万々歳……とはいかない。今度は品質の問題が出るのだ。

 使いづらい上に画質も悪く、なにより安定しない。数分間映像を見るだけならいいが、1時間・2時間とVRの世界に「浸る」には甚だ心許ない。スマホのバッテリーはすぐ切れるし、熱で暴走したりもする。アプリも少ない上に、その少ないアプリの品質も、PCやPS4向けのVRに比べ、著しく低い。

ついにやってきた「一体型HMD」の時代、完成度も良好

 ……というところまでが前置きだ。長くて申し訳ない。

 こうしたVRの抱える問題を解決する方法は、すでにわかっている。「PCやスマホを併用しない、専用・一体型のVR機器」を開発することだ。ケーブルも付加機器もないので、かぶればすぐにVRが使える。設定もほとんどない。

 専用設計になるので、スマホVRのように熱で動作が不安定になることもない。レンズとディスプレイを最適化して設計できるので、そもそも、スマホVRとは比較にならないほど映像をクリアなものにできる。いいことづくめだ。

 数年前からそのことは指摘されてきたが、技術的にはいろいろ難題もある。小型の機器では性能面に問題があること(なにしろ、高価なPCですら性能はまだ不足しているくらいなのだ)、空間の中で自分の位置を把握する(要は、自分はどんな姿勢で、部屋のどこに、どちらを向いているのか、ということ)ためのセンサー開発が難しいことなどがあり、「低価格で使える」「品質の良い」一体型VR機器開発は難航し、いいものが出てこなかった。

 だが、今年はメジャーな企業からいくつもの「一体型VR機器」が出てくる。今回紹介した「Mirage Solo」はその先駆けである。

 実際、発表会での短時間の体験でも、これまでのVR機器との差は明白。とにかく簡単で気軽だ。画質の面では、PCやPS4のVRにかなわない。だがそれでも、これまでのスマホVRよりはずっといい。特にVR動画や写真を見るなら、性能的はこれでも十分だ。Mirage Soloの中身はほぼ「今のハイエンドスマホ」といっていいもので、性能面ではPC用VRにかなわない。

 だが、今のハイエンドスマホの能力は、すでに低価格なPC・過去のPCと大差ない。性能を引き出せる環境さえ整えば、相当なVRコンテンツが作れるはずだ。なにより、レンズとディスプレイの専用設計によってPC用VRと変わらない「快適な見え方」が、ようやく安価な製品にもやってきたことが大きい。

 NetflixやAbema TV、そしてもちろんYouTubeはMirage Soloに対応するので、「映画館のような大画面をひとり占めし、気楽に映像を見る」にはとても向いた製品である。

 同様の機能を備えた製品は、最低でも年内に2種類登場予定であり、今後の競争に期待を抱かせる。


個人向けにはまだ高価だが企業向けなら爆発的な普及の可能性も

 とはいえ、だ。

 Mirage Soloが個人にバンバン売れていきなり大ヒットになるか……というと、そうは思っていない。問題は価格だ。

 PC用VRは、10万円以上のハイエンドPC+5万円くらいのHMDをセットで使う必要があり、いい体験を担保するには20万円くらいの予算が必要になる。PSVRも、HMDとPS4を両方用意するなら、7万円強の予算が必要だ。

 手軽に見えるスマホVRも、VRに耐えるハイエンドスマホはそもそも高く、最低でも7、8万円は覚悟する必要がある。HMDだけならそれほど高くないが、VRはそもそも「まだお金のかかるもの」なのだ。

 それに対し、Mirage Soloは、5万1200円(税抜)だ。「これで完結する」価格であり、比較論でいえば「高くない」のだが、個人の絶対的な金銭感覚でいえば「お手軽」とはいえない。なにができるかよくわからないVRに、いきなり5万円投資する人が多いわけではないだろう。

 だが、これが「企業目線」となると別だ。

 VRを企業研修やアクティビティ(要は、遊園地やゲームセンター、カラオケボックス用の設備)として使いたい……という企業は非常に多い。実は今も、PC用VRの主戦場はそこだ。性能は限定的だが使い勝手が良く、管理も用意な一体型HMDは、企業向けのソリューションとして非常に有用。企業導入のコストと考えれば、「1台5万円」は高いものではない。今後みなさんも、企業研修などでVRを体験する機会が増えるかもしれない。

 そこまで考えると、今回のレノボの発表は、「VR産業の底上げ」という意味で、きわめて大きな意義を持っているのである。


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