1. 【書き起こし】「貧困は金銭の欠如で必要なのはベーシックインカムの保障」ルトガー・ブレグマンの提唱

【書き起こし】「貧困は金銭の欠如で必要なのはベーシックインカムの保障」ルトガー・ブレグマンの提唱

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 貧困層に対していいイメージを持つ人は少ない。「へ―ビースモーカー、アルコール中毒は多く、犯罪率が高い、職業選択を間違えた頭の悪い人々」多くの人はそう考えるだろう。

 しかしそうやって「貧困の原因は人だ」と貧困に無縁の人が勝手に判断してもいいのだろうか。貧困の原因はもっと別の何かにあるのかもしれない。

 歴史家、ルトガー・ブレグマン氏は貧困の原因を突き詰めた。そして「ベーシックインカム(BI)の保障」という解決方法を提唱したのである。

 今回はそんなブレグマン氏によるTEDスピーチ『貧困は人格の欠如ではなく、金銭の欠乏である』を書き起こす。

「貧困の原因は人格欠如ではなく、金銭の欠如」

本日は簡単な質問から始めようと思います。「なぜ貧困層はお粗末な決断をするのでしょう?」

手厳しい質問であることはわかっています。しかし、データを見てください。

貧困であるほど人は借金をし、貯蓄と運動量は少なく、喫煙率も飲酒率も高く、健康的な食事をしない。これはなぜでしょう。

一般的な解は元イギリスの首相マーガレット・サッチャー氏によって総括されました。

彼女はこう言う。「貧困は人格の欠如によって起きます」と。

(会場笑)

ここにいるみなさんが、ここまで無遠慮なことを言うとは思いませんが、「貧困層に問題がある」という考え方を持っているのはサッチャー氏だけではありません。

「貧困層の人々は自らの過ちに責任を負うべきだ」と考える人もいます。「彼らがよりよい決断をするために手助けするべきです」と異議を唱える人もいるでしょう。

しかし根本的な前提は一緒なのです。

「貧困層自身に問題がある」「彼らを変えることさえできれば」「生き方を教えることさえできれば」「彼らが聞く耳を持ちさえすれば」とみんな言います。

正直、私も長い間そう考えていました。

貧困について持っている全知識が誤っていると発見したのはたった数年前。

貧困層の判断の原理とベーシックインカム

ことの発端は米心理学者らによる記事を偶然読んだときです。彼らはインドまで――およそ8,000マイル――興味深い研究のため旅をしました。その研究対象はサトウキビ農家でした。

彼らは年収の60%を収穫後一度に得ているのです。これは彼らがある時期は比較的貧しく、またある時期は比較的に裕福だということを意味します。

研究者たちはサトウキビ農家に収穫前後、IQテストをさせました。彼らが発見したことは、私にとって完全に予想外なもの。収穫前の方が、彼らのスコアは遥かに低かったのです。

貧困の生活はIQを14下げるのに関係していた。参考までに言いますと、それは徹夜することやアルコール中毒の影響に匹敵します。

欠乏の心理

数か月後、プリンストン大学のエルダー・シャフィール教授とこの研究に携わった研究者のうち1人が僕の住むオランダに来ると聞きました。

貧困がテーマの彼による革新的な学説について話すべく、僕たちはアムステルダムで会った。その内容は二言で説明できます。欠乏の心理。

人は何かが不足していると認知したとき、行動が変わることが判明しました。それが何かはあまり関係がありません。時間でも、お金でも、食物でも。

タスクが多すぎたり、昼食を後回しにして血糖値がガタ落ちしたとき。みんなこのような経験をしたことがあると思います。これは直近の欠如へ焦点を狭めます――今すぐ食べなきゃならないサンドイッチやあと5分で始まる会議、明日支払わなければならないお金とかにね。

つまり、欠乏の心理によって人は長期的な視点を失ってしまう。

これは10個の重いタスクを処理している新しいコンピューターで比較できます。徐々に遅くなり、エラーが起きるようになり、最終的にフリーズする。それは低品質のコンピューターだからではなく、一度に処理することが多すぎるから。

貧困層の人々は同じ問題を抱えています。彼らは愚かゆえに愚かしい選択をしているのではなく、誰もが愚かしい選択をするであろう状況下で生きているからそうするのです。

そのとき、なぜ多くの貧困対策がうまくいかないか理解しました。例えば教育への投資は、しばしば完全に無力です。貧困は知識のなさが原因ではありません。

金銭管理講座の効果についての201件の研究を分析したところ、それはほとんど無意味であることがわかりました。誤解しないでください、これは貧困層の方々が何も学ばないというわけではないのです。彼らがそれで賢くなるのは間違いありません。

しかしそれでは不十分。もしくはシャフィール教授が私に言った通り、それは「泳ぎ方を教えて、荒海に投げ入れるようなもの」。

そこに座り、困惑していた自分を今でも覚えています。そして「これらのことは何十年も前に解明できたことだ」と思いました。心理学者たちは脳スキャンのような複雑なことをしたわけではありません。

彼らはただ農家のIQを計っただけ。そしてIQテストは100年以上前に考案されました。

作家、ジョージ・オーウェルの発見

前も貧困の心理について読んだことがあることに気付きました。

世界一偉大な著者の1人ジョージ・オーウェル氏は1920年代にはじめて貧困を経験しました。「貧困の本質は、将来を根絶やしにすることにある」彼はこう書きました。

また彼は貧困について驚き、次のようにも書いてます。「収入が一定水準を下回るやいなや、人々は“貧困層”に説教や祈りをささげることを当然の権利が如く行う」

これらの言葉は、現代にもまったく当てはまります。

ベーシックインカムの保障

大事なのは「何をすればいいか」。現代の経済学者らはいくつかの解決策を持っています。

というのも、書類を手伝ったり、公共料金支払いのリマインダーとしてメールを送ること。現代の経済学者らの間で、このような解決策はとても人気です。その理由の大部分はほとんどコストがかからないから。

思うに、このような解決案は現代を象徴しています。それは対症療法は行っても、根本的な原因は見ないようにしていること。

そこで私は思いました。「貧困層の環境を変えればいいのではないか?」と。

コンピューターの例えに戻ってみましょう。増設メモリーを取り付けるだけで簡単に問題解決できるのに、なぜソフトウェアをいじり回し続けようか?

そう伝えると、シャフィール教授はあっけらかんとした表情を見せました。数秒経って、彼は「なるほど。貧困を根絶やしにするため、更に多くのお金を渡したいのだね。それもいいかもしれない。でも残念ながらアムステルダムにある左翼的政策は、合衆国では通用しないのだ」と言います。

しかしこれは本当に古臭い、左翼の考え方でしょうか? 歴史上偉大な思想家たちが提唱した案を思い出します。哲学者トマス・モアは500年以上前に、『ユートピア』でこのような考え方をほのめかしました。

トマス・モアの支持者らは右翼から左翼まで――公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング(キング牧師)から経済学者ミルトン・フリードマンにわたる。

そしてこれは非常に単純な考えです。「ベーシックインカムの保障」

これがなんですって? とても簡単。最低限生活に必要な衣食住費や教育費などを払うのに十分な所得を毎月給付すること。

それは無条件に給付されるもので、得るために必要な条件や用途の指定はありません。ベーシックインカムは親切心ではなく、権利です。それに付随する不名誉はまったくありません。

貧困の本質を学ぶうちに次のように考えざるえませんでした。「これが我々が待ち望んだ考えなのだろうか?」「これほど簡単でいいのだろうか?」

それから3年間、ベーシックインカムについてあらゆる文献を読み漁りました。世界中で行われた実験について、たくさん調べました。

貧困を根絶やしを実際にした街の話に出くわすまで、そう長くはありませんでした。しかし、ほとんどの人がそれについて忘れていたのです。


貧困のない街ドーフィン

この話はカナダ、ドーフィンで始まります。1974年、誰も貧困ラインに落ちないよう、小さな街ドーフィンの全市民がベーシックインカムを保障されました。

実験が始まった当初、大勢の学者たちがこの街を訪れます。4年の間、すべてが順調でした。しかしその後、新たな政権が実権を握り、新内閣はこの高額な実験をほぼ無意味に感じたのです。

実験結果を分析する予算がないのが明らかになったとき、研究者たちは研究結果のファイルを約2,000箱の中にしまいこんでしまったのです。

忘れ去りし実験の結果

それから25年が過ぎ去り、カナダのエヴリン・フォアジェイ教授が記録を発見しました。3年間、彼女はあらゆる種類の統計分析にかけます。しかしどれだけやろうと、毎回結果は変わりませんでした。実験は大成功だったのです。

エヴリン・フォアジェイ教授はドーフィンの市民が富を得ただけではなく、より賢く、健康になったことを発見しました。

子どもの成績は大幅に向上しました。8.5%も減少したのが入院率。家庭内暴力の件数は精神病の訴え件数と共に減りました。

そしてそうなっても人々は仕事を辞めなかったのです。仕事量がやや下がったのは、新米母親と学生のみ。学生たちは学校でより長い時間を過ごしたからです。

それから、数えきれない実験が他に世界中――アメリカ合衆国からインドまで――で行われ、似たような結果がえられました。

新たなアイデアの提唱

私が学んだのは以下の教訓。

「貧困に関して言うと、我々“富裕層”は、最善を知ったかぶりするのをやめるべきです。会ったこともない貧困層の人々に靴やぬいぐるみを送るのをやめましょう」

保護者のようにあれこれ言う役人が動かす巨大産業を撤廃し、単純に彼らの給料を彼らが援助すべき貧困層に渡せばいいのです。

(会場拍手)

お金のすばらしいところは、専門家気取りが勝手に貧困層に必要だと予想するものよりも、実際に必要なものを人々が買えることにあります。

想像してみてください、すばらしき科学者、起業家、ジョージ・オーウェルのような作家が今にも貧困で衰死しようとしているのです。貧困を決定的に取り除いたとして、どれだけの才能、エネルギーを解き放てるか想像してみてください。

ベーシックインカムが「人のためのベンチャーキャピタル」のような作用を及ぼすことを信じています。それをしないのは非常にもったいない。だって貧困はとても高くつきますから。

例えば、アメリカで子供の貧困にかかる費用をご覧ください。医療費、学校の中退率、そして犯罪率の高さから推定500億ドルが毎年の出資になります。これは人の潜在能力のとんでもない無駄遣いです。

ベーシックインカムのコスト

誰もが目をそらす、賛否両論な本題に入りましょう。ベーシックインカム保障の費用なんてどこにあるというのでしょうか?

しかし実際は、みなさんが考えるよりも格段に安いのです。ドーフィンでは、負の所得税が導入されました。これは貧困ラインを下回った瞬間、収入に所得がプラスされるという意味です。

現代の経済学者の全力の予想によると、負の所得税を導入したシナリオでは175億ドルかければ、アメリカの貧困層全員を貧困ラインより上にできます。この金額はアメリカの軍事費の1/4、たった1%のGDPです。

貧困の根絶やしは実現可能です。これを我々の目標に掲げるべきでしょう。

(会場拍手)

狭い考え方やちょっとした後押しの時代は終わりました。急進的で、新たな考え方の時代が来た、と私は本当に信じています。

そしてベーシックインカムというのは、ただの政策以上のものです。それは「働く」ということの本質をついています。

そういった意味で、ベーシックインカムは貧困層を解放するだけでなく、我々全員を解放するものなのです。

「働くこと」の本質

現在、自分の仕事に意義や意味を見いだせている人は非常に少ない。142ヵ国の従業員230,000名を対象とした調査によると、仕事が好きな人はたった13%しかいませんでした。

別の調査では、37%相当の英会社員が存在理由のない職についていると思っていることがわかりました。まるで映画『ファイト・クラブ(1999)』でのブラッド・ピットの発言のようです。「必要もないガラクタを買うために、嫌いな仕事をする人があまりに多すぎる」

(会場笑)

間違えないでほしい。アメリカの先生や清掃員、介護士の話をしているわけではありません。彼らが仕事をやめたら、大問題です。

私が話しているのは、立派な経歴を持つ高給のサラリーマンのこと。

子供に「職を得なきゃならない」と伝えるばかりに無駄になる才能について考えてみてください。

また、Facebookで働く天才数学者が嘆いたことについて考えてみてください。「私の世代で最も賢い人々は、いかにユーザーに広告をクリックさせるかについて考えている」

私は歴史学者です。そして歴史から学べることがあるならば、それは「変革は起きうる」ということです。

人が作った現代の社会や経済に、避けられないことなどありません。アイディアは世界を変えうるし、実際に変えます。

ルトガー・ブレグマンの「夢」

ここ数年は特に、従来の考え方に固執してはいけなくて、新しいアイディアが必要とされていることが明瞭になったと思います。

格差の広がり、外国人嫌悪の傾向、気候変動について悲観的な人は多いでしょう。しかし、反対するだけでは不十分です。何に賛成か考えなければなりません。

マーティン・ルーサー・キングは「私には悪夢がある」とは言ってません

(会場爆笑)

彼には夢があったのです。

(会場拍手)

そこで、私にも夢があります。

「職の価値は給料ではなく、人をどれだけ幸福にしたか、意義を与えたかによって計られる未来を信じています。教育の意味は不必要な職業への準備のためではなく、すばらしき人生のためにある未来を信じています。貧困と縁のない生活が特権でなく、我々全員が得るべき権利である未来を信じます」

さあ、やっとここまできました。検証済みで、証拠もあり、手段もあります。

トーマス・モアがベーシックインカムについて初めて筆を取った500年以上経った今、ジョージ・オーウェルが貧困の本質について発見してから100年以上経った今、我々全員が世界観を変えなければなりません。

貧困は人格欠如からではなく、金銭の欠如なのですから。

ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

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