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失敗作か否か?全米で賛否両論「ブレードランナー2049」レビュー

清藤秀人

2017/10/13(最終更新日:2017/10/13)


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 今、映画界は「ブレードランナー2049」の全米興収が予想外に低かったことから、「失敗作か否か」という話題で持ちきりだ。

 失敗の理由としては、1982年にリドリー・スコットが監督した前作「ブレードランナー」を観ている層が40代以上の男性に限られている点、それを読み切れなかった配給元が幅広い世代をターゲットにしたプロモーションを展開しなかった点、そして、163分という上映時間、などが指摘されている。

渦巻く否定論VS肯定論

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 当然、反論も噴出。全米公開初日の10月6日からの3日間での興収は36億円超で首位デビューした「ブレラン」は、世界興収ですでに55億円を突破し、爆発的な数字ではないにしろ、今秋の話題作としての役割を全うしているし、そもそも前作はマニア受けする傑作ではあるけれどヒット作ではなかった(最終全米興収36億円)という数字面からの擁護論。

 そして、出口調査による観客の満足度が、A+からFまでの段階評価でA-の高評価だった一般観客の反響。さらに、批評家たちによる「前作を超えたかも?」「オスカー確実!!」という絶賛の嵐。

 果たして、「ブレードランナー2049」は単に限られた世代向けの長尺映画なのか? それとも、観た人の多くが満足し、プロたちが熱狂するようなSF映画の傑作なのか? それを判別するために、まず概要を記してみたい。

2049年のL.A.でデッカードは生きていた!

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 かつて、タラレル社は人間に代わる労働力として人造人間、レプリカントを開発するが、度重なる反乱が発生したために製造は中止され、タラレル社は倒産する。

 2020年、企業家ウォレスが台頭して従順な新型レプリカントを製造し、不具合が多い旧型は抹殺の対象となる。そこで、彼らを追う捜査官に指名されたのがブレードランナーだ。

 時は移って2049年のロサンゼルス。LAPDで働く主人公のKは、自らが新型のレプリカントでありながら、反逆し、地下に潜った旧型レプリカントを狩るのが仕事のブレードランナーである。ある日、Kは逃亡中の旧型、モートンを射殺し、彼が潜んでいた農場を空からドローンで撮影した映像を所属部署に持ち帰る。

 帰宅したKを待っていたのは、所有者の好みでいかようにも変身するデジタルキャラクターのジョイだ。彼女と語らいながら仕事の疲れを癒やしていたKに、本部からボイスメッセージが届く。

 ドローンが撮影した映像に映っていた不審な箱を回収したところ、中から30年前に埋葬されたと思しきレプリカントの骨が発見されたという。

 それは、人間とレプリカントの関係性を壊しかねない危険因子だった。Kは骨のルーツを探るため、ウォレスのオフィスに保存されていたタラレル社のアーカイブにアクセスしてみた。すると、30年前に姿を消したブレードランナー、デッカードと旧型レプリカントのテスト音声が復元される!

前作の復習は必要か?

 以上が「2049」の言わばモノローグだ。今作では製作総指揮を務めるリドリー・スコットから監督のバトンを受け継いだドゥニ・ヴィルヌーヴ(「メッセージ」ほか)は、前作に敬意を表しつつ、斬新なアイデアを幾つも投入して、全く新しい近未来ドラマを構築している。

 ストーリーもビジュアルも、前作を知る知らないに関わらず、映画ファンの目には新鮮に映るはずだ。なので、前作に関して知っておくべき点は、①人間(または企業)とレプリカントの攻防の起源を描いたもの。②デッカードは前作のラストで消息を絶っている。主に以上の2点だ。その他細部の関連性をチェックしておきたい人には、DVDでの視聴をお薦めする。




ライアン・ゴズリングがハマリ過ぎ

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 そう、「スター・ウォーズ」のハン・ソロと同じく、ここでもハリソン・フォードがハン・ソロ以上に映画マニアを魅了して止まない伝説のキャラクター、デッカードを35年ぶりに再演している。それも、人間とレプリカントの未来を左右する役目を背負って。

 しかし、続編で圧巻なのは、デッカードと対峙するKを演じるライアン・ゴズリングだ。ブレードランナーとして同じ仲間の処刑を生業にし、自宅ではデジタルの恋人と肌を寄せ合う味気ない人生を、当たり前のように受け止めるその姿は、生来の無表情とも相まって、映画の世界観にハマリすぎている。

 最終的には続編のテーマを体現するゴズリングのKが、そこで垣間見る人類の未来像は、SF映画の範疇を超えて深い感動を呼ぶに違いない。一部の批評家が「前作を超えていいのか?」という捻れた賞賛コメントを提供しているのはそのためだ。筆者も、それに賛同する者の1人である。

セット撮影でオスカーレース参戦か?

 前作を超えているのはKの物語だけではない。ソーラーパネルで埋め尽くされた2049年L.A.の俯瞰は、ビルの谷間から突き出た煙突から炎が立ち上がる前作の上を行く挑戦的なイメージだし、ウォレス・コーポレーションのまるで近未来の博物館のような室内は荘厳ですらある。

 それらは、CGI合成よりセットでの撮影を希望した監督、ヴィルヌーヴのこだわりが実現した結果だ。このフォーマットは、空中シーンで本物の戦闘機を飛ばしたクリストファー・ノーランの「ダンケルク」と並んで、今年のハリウッド映画を代表する視覚効果ではないだろうか。失敗作どころか、本当に「オスカー確実」かも知れない。

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【作品情報】
「ブレードランナー2049」
10月27日(金) 丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト:https://www.bladerunner2049.jp/
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


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