1. 西田宗千佳のトレンドノート:東京ゲームショウから考える「日本とeスポーツ」

西田宗千佳のトレンドノート:東京ゲームショウから考える「日本とeスポーツ」

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メインステージを「eSports X」と命名。eスポーツの盛り上げを中核に据えた。

 今回の東京ゲームショウで、主催者側が大きな目玉として考えていたのが「eスポーツ」である。例年用意されるイベントステージを「eSports X」と名称を変え、ゲームの対戦プレイイベントなどを中心に据える形になっていた。

 なぜ今「eスポーツ」なのだろう? 業界はなぜeスポーツに注目するのだろうか? それを日本からの視点で、改めて語ってみたい。

eスポーツは「見る」ことをフックしたゲーム産業の形

 現在のeスポーツは海外から起こったトレンドだ。対戦を軸にしたゲームは、「観戦」しても面白い。対戦ゲームが強い人、強いチームが戦う様を見るのは、同じゲームをしている人にとって参考になるし面白い。

 一方で、そのゲームをプレイしていない人にとっても意外なほど楽しめる。だからeスポーツとして盛り上がるのは「勝ち負け」がはっきりしていてシンプルで、戦う人同士の関係がルール上公平であるものが常である。

 要はゲームを「プレイする」ことだけでなく「見る」「見せる」ことも産業化していくことが、eスポーツの本質だ。

 海外では数百万円・数千万円の賞金がかかるイベントも多く、そこでは「プロ」としてゲームと接する人々も出てきた。

 日本ではゲームのプロが生まれていることにばかり注目があつまりガチだが、それは「見る人が増え、産業価値が高まった」結果に過ぎず、「プロゲーマーが生まれる」ことがeスポーツの本質ではない。

 すでに述べたように、eスポーツは海外では大きな賞金がかかるイベントが開催されるまでに成長している。日本は立ち後れており、それが、今回の東京ゲームショウでeスポーツを大きくフィーチャーした理由になっている。

なぜ日本でeスポーツが生まれなかったのか

 だが一方で、「eスポーツ的なもの」は日本にも昔からあり、むしろ発祥国のひとつとすら言える。eスポーツの1ジャンルとなっている「対戦格闘ゲーム」は日本で生まれ育ったものであり、1990年代にはすでに全国大会のような大規模な大会があり、それを映像ソフトにして販売するビジネスもあった。

 だが、結局それは大きなビジネスにはならず、eスポーツは海外から花開いた。

 その理由は、日本における動きは結局、「ゲームの販売促進」の延長線上を抜けられなかったことにある。

 ゲームを見てそのゲームをプレイしたくなる、買いたくなるのは当然である。

 だから日本での過去の事例は、ゲームを製作したメーカーが主導で行う例が多かった。だがその場合、「販売促進」なので、出せる予算は「1社が出せる広告費の範疇」という制限が生まれる。

 では、多数のスポンサーを募ったり、参加者から集めた参加費を賞金に回したりできるか、というと、これも難しい。日本の場合「賭博」とみなされる可能性が高いからだ。

 また、「ゲームを買って練習した人が強くなる=有利」という特性があることから、賞金をかけることが「景品などで顧客を誘引した」とみなされ、不当景品類及び不当表示防止法(通称・景表法)の制限を受ける……との懸念もある。

 結果的に、日本においては、賞金を取り合うプロ同士の試合、というものは成立しなかった。2000年代以降、対戦型のゲームが一時的に退潮したことも関係しているだろう。

 それに対して海外では、規制条件が日本と異なったために、大規模な大会を「ゲーム会社以外の主催」によって開催するのが難しくなかった。

 また、FPS(一人称視点型シューティングゲーム)やRTS(リアルタイム形式での戦略ゲーム)などの対戦要素が高いゲームが海外で続々とヒットし、そのことがeスポーツを生む源泉になったのは間違いない。

ゲーミングPCの勃興と日本のeスポーツ

 もうひとつ、eスポーツがヒットする背景には、「ゲームをするプラットフォームとしてのPC」の存在感も大きく関係している。日本では家庭用ゲーム機の利用率が高く、PCでゲームをする人はさほど多くなかった。

 しかし、eスポーツの多くはPC用のゲームから生まれている。欧米でも中国でも韓国でも、対戦を軸にした新しいゲームの多くがPCから生まれており、結果的に、PCゲームの普及率がeスポーツの流れに大きな影響を与えている。

 また、YouTubeのような動画共有サイトで対戦動画が流れることは、eスポーツの隆盛にきわめて大きな影響がある。「見る」ことから始まるものなので、気軽に見られる環境があることは必須なのだ。

 今は家庭用ゲーム機でもプレイ動画の共有や視聴が簡単に行えるようになっているが、それでも、プレイ動画の製作・視聴の中心はPCにある。だから、eスポーツにおいて、PCの存在は無視できないものだ。

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HPのブース。同社のゲーミングPC「OMEN」を大々的にフィーチャーしていた。

 だが日本においても、ゲームのためのPCのニーズは確実に上がりつつある。快適なゲームのために快適なPCを用意するのは、快適にテニスをプレイするために道具を揃えるのに近い。

 PC事業の中でも、ゲーミングPCは唯一といっていいほど伸びているジャンルで、東京ゲームショウにも、Razerやデル、HPといった企業がゲーミングPCをアピールしていたし、eスポーツ的なゲームをアピールする企業も、ブースにPCをずらりと並べ、対戦環境を整えていた。

 アメリカのゲームイベントでは当たり前の光景なのだが、日本でも数年前の東京ゲームショウから目立ちはじめ、eスポーツを軸に据えた今年は、より強く目立つようになった印象がある。

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戦車による対戦ゲーム「World of Tanks」のブースには、PCメーカー・マウスのゲーミングPCが多数並べられた。こうした共同マーケティングも多い。

 日本でのeスポーツは、産業としてはまだまだ拙い。法制度も含め、課題は多数ある。「ゲームを見る」ことがスポーツ興行のように成り立つとは言いづらい状況だ。

 だが、「見る」ことからゲームに触れ、プレイしないがゲームを楽しんでいる……という人が出てきたのは間違いなく、そこには新しいゲーム業界の形がある。

 今回の東京ゲームショウで、なにかが大きく変わったとは思えない。あくまで「仕掛け」に過ぎない。だが、日本でもeスポーツ的な「見ることをフックにしたゲーム産業の形」に消費者が向かっていることは間違いなく、そこには熱気もある。それを今後、各企業がどう活かしていくかに注目だ。

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