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西田宗千佳のトレンドノート:アップルの今は「X」より「8」「Watch」から見えてくる

西田宗千佳

2017/10/05(最終更新日:2017/10/05)


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発表会場となった、アップル新本社「Apple Park」内の「Steve Jobs Theater」。

 9月13日、日本でも新しいiPhoneを含む、アップルの秋の新製品が発表になった。筆者はいま、米カリフォルニア州サンノゼで、発表会の取材中だ。

 会場として、アップルが建設していた新キャンパス「Apple Park」にある「Steve Jobs Theater」が使われたこともあり、例年以上に楽しみにしていた取材でもあった。

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発表会は、スティーブ・ジョブズの企業精神を解説するところからスタート。

 アップルの新製品というと、どうしても「最新・最高スペックのiPhone」に注目が集まる。今年は「iPhone X」「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」と3モデルが揃ったが、やはり世間の注目は「X」に集中にしているようだ。

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iPhone最上位機種となる「iPhone X」。有機ELディスプレイを採用し、ホームボタンが廃止されている。
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9月22日に発売される「iPhone 8」と「iPhone 8 Plus」。裏面までガラスボディになったが、iPhoneの基本的なデザインは踏襲している。


 確かに、Xはディスプレイも変わり、デザインも変わり、注目の製品である。だが、ちょっと高い。初期には品薄……との噂もあり、全員がいきなり購入、というわけにはいかないだろう。

  だがご安心を。今回の新製品は、X以外も面白いのだ。その中でも特に、「iPhone 8シリーズ」と「Apple Watch Series 3」に絞ってご紹介しよう。

見た目は保守、でも中身が次世代な「iPhone 8」

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 iPhone Xは、ディスプレイを広げ、ホームボタンをなくし、それをカバーするために、高精度な顔認識技術である「Face ID」を搭載した。画面を見るだけでサッとロックが解除される……という操作感は、なかなかに快適だった。

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iPhone Xには高度な顔認証機能のための特別なカメラが搭載された。そのため、顔を立体構造として認識する。

 一方、それらの要素がないiPhone 8は「古い技術で作られた製品」のように見えて来る。

 だが、決してそうではない。

 もちろんカメラ性能も含め、iPhone Xの方が優れる点は多々ある。だが、こと「中身」=プロセッサーなどで見れば、iPhone XとiPhone 8シリーズは同じものを使っている。そして、それは「今回の新モデル」であり、多数の新要素を搭載している。

 今秋のiPhoneで採用されたプロセッサーは「A11 Bionic」と言う。Bionic(生物的)が示す意味は、声や顔、映像といった「周囲の状況」を認識して動作するために必要な能力を備えた……ということである。

 具体的には、ニューラルネットワーク処理専用の機構である「A11 Bionic neural engine」を搭載したことがポイントだ。

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iPhone 8・Xのプロセッサーには、いわゆるAI的処理を軽減する専用機構が搭載された。

 ニューラルネットワーク処理とは、最近「AI」の文脈で語られる、音声認識・顔認識・画像認識などに必須の処理である。Phone XのFace IDも、A11 Bionic neural engineを使って顔の高速・高精度認識を行うことで実現している。

 これからのスマホでは、音声認識・顔認識・画像認識をより多用するようになる。人間がこまかくスマホの画面を触らなくても、ある程度「忖度して」動くことも求められる。どちらにしろ、「AI的」な処理が増えるため、その処理を軽減する機能がプロセッサーに必要になってくる。

  今回iPhoneは、8とX両方にその要素を入れてきた。これは今後に向けた重要な布石だ。アプリ開発者がAI的な要素を使う際、A11 Bionic neural engineの存在を前提にすることで、より高度でユニークな機能が登場する可能性が高まるからだ。

 iPhone Xをアップルは「スマートフォンの未来」と呼んでいる。だが、未来への投資は色々な方向性がある。UIの大きな変更を伴う要素もあれば、背後に隠れて広がっていく「基盤」のようなものもある。

 A11 Bionic neural engineは、基盤のような存在の典型例。だからこそ、今年のiPhoneは、昨年までのモデルとはちょっと違う存在になる可能性が高い。

iPhoneを忘れても電話ができる、「Apple Watch」本当の価値

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Apple Watch Series 3。こちらもiPhone 8と同じく、9月22日発売。

 もうひとつ、大きな変化だったのが「Apple Watch」だ。これまで、Apple Watchを含めた大半のスマートウォッチは、スマホとBluetoothでつなげて使っていた。

 だが新型の「Series 3」では、Apple Watch内に携帯電話ネットワークへの接続機能を持った「セルラーモデル」が登場する。すなわち、「iPhoneが近くになくても動く」ようになるのだ。

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セルラーモデルでは竜頭(マジッククラウン)の色が赤になる。

 例えば、家にiPhoneを置いたまま、アップルウォッチだけをつけてジョギングに出たとしよう。今までは当然、電話に出ることもメッセージをうけることもできなかった。

 Apple Watch内の時計やタイマー、アプリなどは動いたが、通信が必要になる機能は、通話の着信も含め、当然、iPhoneが近くにないと使えなかった。

 だがSeries 3のセルラーモデルでは、iPhoneを家に忘れていたとしても、iPhoneに電話がかかってくると、自分がつけているApple Watchに着信する。

 音楽も同様だ。これまではApple Watch内に音楽を転送しておくか、iPhoneから音楽を聞くしかなかった。

 だが、Series 3のセルラーモデルでは、アップルのストリーミング・ミュージックサービスである「Apple Music」に、Apple Watchから直接アクセスするため、Apple Watchを腕につけ、Bluetoothのヘッドホンをつければ、それだけで音楽が聴ける。iPhoneを身につけておく必要はないのだ。

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Apple Watch Series 3ではApple Musicに直接アクセス。腕に付けた時計とヘッドホンだけで、いつでも好きな曲が楽しめる。

 こうなると、「Apple WatchがiPhoneの代わりになる」というという印象を持つ人もいそうだ。だが、事実は逆である。

 iPhoneがあってそれを日常的に使っている人が、「諸事情でiPhoneを持たずにいる時でも、iPhoneの持つ便利さを活用したい」場合にこそApple Watchは役に立つ。別の言い方をすれば、Apple Watchでのセルラー対応は、過去のBluetooth接続の「距離を伸ばした」ような使い勝手といえる。

 「iPhoneが近くにないと便利ではない」というApple Watchの欠点を解決したのがセルラーモデル、というのが正確だろう。本気でフィットネスをしている人は「iPhoneが邪魔だ」と思うことがあったろうし、そうでない人にとっても、活用の自由度が高まることになってプラスだ。

 このため、Apple Watch Series 3では、電話番号を「携帯電話事業者」の側で、iPhoneのものと紐付け、一体で扱う仕組みが導入されている。NTTドコモは「ワンナンバー」、KDDIは「ナンバーシェア」という名前でサービスを提供し、ソフトバンクも同様のものを準備中と思われる。

 これを使うと、iPhone向けの着信がApple Watchに転送される他、Apple Watchでの通信料金・通話料金が、iPhoneのものと合算されるようになる。番号共有のサービス利用料は350円から500円なので、「スマホの回線を1つ増やす」よりは低い出費で抑えられる。こうしたサービスを携帯電話事業者が用意するのは、それだけApple Watchに期待を抱いているからだろう。

 もちろん、これでいきなりApple Watchが大ブレイクするか、というほど簡単な話ではあるまい。やはりフィットネスやスポーツなどのニーズをもった人が中心の、底堅い市場になると思われる。セルラーモデルが便利になったとはいえ、日常的にiPhoneを肌身離さず持ち歩く人には、あまり意味がない。

 しかし、今の我々の生活を考えると、アップルの思想には合点がいく。我々は生活の中で、「スマホの能力に依存」するようになっている。iPhoneが遠くにあっても、iPhoneのもつ一部の機能を使えるApple Watchには、「スマホがない時」の不便さを埋める能力がある、とはいえないか。

 アップルはアメリカにて、年末にスマートスピーカー「HomePod」の発売も予定している。これも、リビングにおける「スマホを手に持っていない時の音楽体験」を変える目的をもった製品だ。

 iPhoneという強い製品のコンパニオンとして、生活のすき間を埋めるパーツを増やすのが、今のアップルの戦略なのである。


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