1. 「エモい」がわからない人へ。“140字の文学者”燃え殻さんのデビュー小説にその答えがありました。

「エモい」がわからない人へ。“140字の文学者”燃え殻さんのデビュー小説にその答えがありました。

「エモい」がわからない人へ。“140字の文学者”燃え殻さんのデビュー小説にその答えがありました。 1番目の画像
 私たちは、「大人」になれたのだろうか。

 10代までの誕生日は“20歳”という1つの区切りに近づくたびに、私は嬉しいような寂しいような気持ちで過ごした。

 ポジティブな気持ちで誕生日を迎えていた私も、20歳以降は友人に誕生日を盛大に祝ってもらったとしても、正直なところ胸の中では「もっと大人になっているイメージだった……」と失望感を覚えてしまっていた。

 大学を卒業して、社会人1年目の今も大人になれた気なんて少しもしない。モラトリアムの延長線上にいるような青二才の自分に嫌気が差すことなんて日常茶飯事だ。
 
 兎にも角にも、“大人”の定義というのは非常に曖昧だ。成人式を迎えたって、私の思考の中で漂う大人にはなれない。

 そんな曖昧な定義でもある“大人たち”を描いた『ボクたちはみんな大人になれなかった』が、6月30日(金)に発売された。

 発売後、SNSでは「本屋に行っても見当たらない……」と話題沸騰。あっという間に重版がかかった。

 そんな話題の小説の筆者は、普段はテレビ美術制作の仕事をしている燃え殻さん。同氏はTwitterでの抒情的な呟きが話題となり「140字の文学者」とも呼ばれ、現在では10万人近い数のフォロワーがいる。

 彼が初めて筆をとった小説は、ラブストーリーというジャンルの枠を超えていた。

 大人になりきれない人間を「キミは大丈夫だよ、おもしろいもん」と言って承認してくれるような、新時代の大人のバイブルとなりうる本書のあらすじを紹介しよう。

元カノの成分で出来上がっていく主人公に共感する

 本書は、デジタルコンテンツ配信サイト「Cakes」で筆者が連載していたモノに加筆修正を加えたもの。

 主人公「ボク」が最愛の元カノと別れてから17年後の現在。主人公はFacebookで元カノの名前を見つけ、思わず「友達申請」を送信してしまう。

 そんな現在と、彼女とまだ付き合っていた過去とを往復しながらストーリーは展開されていく。

 22歳の主人公はエクレア工場で働いていた。「どうすんだよ、これから」と職場に向かいながら途方に暮れる主人公に転機を与えたのが最愛の彼女だった。

出会いのきっかけはバイト情報誌の「文通コーナー」

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 アルバイト情報誌の最終ページにある文通コーナーをきっかけに出会った主人公と彼女。

 出会って間もなくして、主人公は彼女に恋に落ちる。

 主人公は彼女の前で自分が憧れる自分になるべく、「テレビ番組の美術制作アシスタント」への転職を決意する。

 今で言うところのブラック会社に勤めながらも、週1で訪れる彼女との時間に生きがいを感じながら毎日を必死に生きる主人公。

 転職後から抒情的な背景描写とともに、主人公の彼女との過去の幸せな時間が綴られていく。

 彼女に会わなかったら出会うことのなかった同僚、自分が苦手なタイプの美女、再会することのなかった前職の知り合い……現在の主人公にとって懐かしい人たちとのストーリーも見所だ。

複合的な感情に名前をつけるなら「エモい」がしっくりくる

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 1995年から始まる本書では、時代の流れとともに変化するガジェットやコミュニケーションツールも本書のポイントだ。

 携帯電話もない時代の待ち合わせから、LINEで連絡交換をする時代まで。

 アルバイト情報誌の文通コーナーで繋がったあの日から、FacebookというSNSツールで繋がる今日まで。

 本書はそんな過去と現在のコントラストをまざまざと見せつけてくる。

 1994年生まれの私は公衆電話も使っていたし、PHSは母親が使っていたことを記憶している。

 作中に出てくるMDプレイヤーも、姉からもらったのが嬉しくて出かけるたびに持ち歩いていた。

 主人公とは歳が20コ離れている私も、その時代描写に「エモい」気持ちになった。景色描写には寂しさを感じた。

 寂寥感、ノスタルジー、切なさ、やるせなさ、傷心……読了後、そんな感情がごちゃ混ぜになって1つの名前がつけられない。

 「エモい」という一言で片付けたくないが、そう言わざるを得ない複合的な感情だって存在するのだと、小説を読んだ後に腹落ちした。

 「エモい」の意味がわからない——理解する前に新しい言葉を一蹴する人、理解を諦める人にぜひ読んでもらいたい。

 理解はできなくても、きっと「エモい」の意味合いが少しは伝わるはずだ。

この時代に生まれたいなんて、だれも頼んでないだろ?

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 主人公は転職した会社でボロボロになるまで働いているが、「自分よりも好きになってしまった人」の言葉、彼女と過ごす時間のおかげで、なんとか毎日を生きる。

 工場でバイトしているときは生きることに失望していた主人公は1人の女性によって仕事を変えて、辛い仕事も乗り越えていく。

 「どうすんだよ、これから」と、未来の自分を不安視している読者もいるかもしれない。

 そんな不安な気持ちをスタートに生きた主人公を描く本書から、「幸せ」と「生きる意味」という永遠の命題に対する1つの答えを抜粋したい。

美味しいもの、美しいもの、面白いものに出会った時、これを知ったら絶対喜ぶという人が近くにいることを、ボクは幸せと呼びたい。

出典:『ボクたちはみんな大人になれなかった』より一部抜粋

この時代に生まれたいなんて、だれも頼んでないだろ? 自分で決められることなんて、今夜の酒の種類ぐらいなもんだ。

出典:『ボクたちはみんな大人になれなかった』より一部抜粋

 大人になれなかった主人公が行き着く先はどこなのか。

 あの日、美女が言いかけた、南極を目指した乗組員が妻から受け取った3文字とは何だったのか。

 エクレア工場でロボットのように働いていた主人公の仕事はどうなっているのか。

 エモーショナルな背景描写に引きずり込まれ、終盤には読者の涙を誘う小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』。

 帯の「大人泣き続出!」という煽り文句に、どこが泣き所なんだろう?と最初は思っていた私も、ラストシーンはハンカチなしでは読めなかった。

過去を反芻して、嗚咽して、「大人」の日常に戻る

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 「男は過去の自分に用がある。女は未来の自分に忙しい」——たしかに、最愛の彼女が主人公と別れを決めたあの瞬間、私も彼女に共感してしまった。

 「いつまでもこのままじゃいられない、先のことを考えなきゃ」と、未来にもがく女。「あの時こうしていれば……」と、過去のしがらみにとらわれる男。

 主人公と彼女の別れの日に私はなんだか既視感を覚えた。かさぶたが一気に捲られたような痛みを感じ、ほとんど無意識的に涙したのはきっと私だけではないはず。

 過去に揺蕩い続けている男性には、傷口にかける消毒液を。未来にかまけている女性は、蓋した傷痕のかさぶたを剥ぐピンセットを。どちらの性別にせよ、燃え殻さんには「痛いよ……」と訴えたくなる作品だと私は感じた。

 過去を反芻して、涙して、また普通の生活に戻る。そしてまた過ちを犯す。

 弱くたって、未成熟だって、たしかに私たちは必死に生きていると気づかせてくれる本書は、現代を生きる大人のためのバイブルと言っても過言ではない。

 UAや宇多田ヒカル、小沢健二の歌をBGMにして、好きな飲み物片手に、燃え殻さんの綴る叙情的な文章に溺れよう。

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