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お金儲けは悪いことですか?——村上世彰氏がコーポレート・ガバナンスの重要性を綴る『生涯投資家』

Rikaco Miyazaki

2017/07/13(最終更新日:2017/07/13)


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 「お金儲けは悪いことですか?」——時は10年以上前に遡る。

 2006年6月、ニッポン放送株をめぐるインサイダー取引を行った容疑でメディアを賑わせた村上ファンドの代表・村上世彰氏が逮捕、有罪判決を受けた。

 そんな2000年代を代表するような投資家・村上氏は、灘高校から東京大学法学部へ進み、通商産業省(現在の経済産業省)に入省した超エリート。

 彼が「最初で最後の告白」として筆を執った『生涯投資家』では、村上氏がファンドを通じて世に浸透させたかった“コーポレート・ガバナンス”のことについて綴られている。

投資家の視点から考える「日本の問題点」

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 大学卒業後、通産省に入省した村上氏は16年間「公僕」として、日本の経済がどうしたら国民にとってよい方向になるのか?を真剣に考えてきた。

 四半世紀伸び悩む日本のGDPや上場企業の資本効率の水準の低さから「日本は投資の対象として厳しい状況にある」と村上氏は指摘している。

 投資対象として厳しい状況にある日本には、以下のような課題点があると村上氏は示している。

“コーポレート・ガバナンス”の浸透が遅れている

 村上氏が「村上ファンド」を立ち上げた大きな理由であるコーポレート・ガバナンス。

 一言で説明すると「株主が企業を監視・監督するための制度」のこと。

 投資先の企業で健全な経営が行われているか? 企業価値を上げる=株主価値の最大化を目指す経営がなされているか? このようなポイントで投資家が企業を監視するのだ。

 コーポレート・ガバナンスが必要な理由として、村上氏は「投資家は自らの投資に対するリターンを最大化するために、経営者に事業運営を委託している」と述べている。

 つまり、経営がきちんとなされているのかを監督するのも投資家の大きな役割ということなのだ。

 経営者が築いてきた過去の業績を批判する、投資家が「もの言う」ことが日本企業の改革には必要だ、と村上氏は訴える。

投資家と企業は同じ方へ向かって進むパートナーだと認識していない

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 日本とアメリカが保有している純資産はほぼ同レベル。しかし、株価には3〜4倍もの評価の差がある。

 差が出る理由について村上氏は、そこには投資家の「期待値の差」が出ていて、企業の投資家への「リターンの差」が日本とアメリカでは大きいから、としている。

 企業と投資家、企業価値と株主価値を対立的に捉えず、相互コミュニケーションをとるパートナーとして会社を共創していかなければならないのだ。

投資先からのリターンがあったら新たな投資先に

 日本の大企業の体質で度々で問題視される「内部留保」

 アメリカでは手元に積み上がった資金や投資された資金は、M&Aなどの事業投資を行って企業価値を向上させるために積極的に使われるそうだ。

 使い道がなければ株主に還元し、必要になったら市場から調達……このように「手元に残さない」経営で資金を循環させて、上場企業の業績を拡大させていく。 

 村上氏は「何も生み出さないままの状態で資金を寝かせてしまえば、そのまま塩漬けになって、成長のために資金を必要している企業に行き届かない」と記す。

 塩漬けになった資金によって市場は停滞し、経済全体が沈滞……そのためにもコーポレート・ガバナンスを浸透させて、投資家と企業が良きパートナーになる必要があるのだ。

経済を循環させるために必要な“コーポレート・ガバナンス”

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 日本の問題点から、村上氏が訴えたいのは「日本の経済を活性化、成長させるためには資金の循環が必要」ということ。

 村上氏は資金循環のために日本ができることをいくつか提言している。

賃上げ実行企業へインセンティブ付与

 村上氏は最近の税制大綱の中に盛り込まれた「企業の賃上げに対する法人税優遇措置の一部拡大」について、より積極的に行われるべきだ、と断言している。

 闇雲に昇級させるのではなく、企業価値の向上に貢献してくれる将来性を見込んでのことだ。

 従業員にインセンティブとしての昇給やストックオプションの給付、実際に貢献した従業員への大胆な還元は、結果として企業の成長に繋がる

内部留保に課税すべき

 村上氏は2つ目に、一定の水準を超えた内部留保する企業には米国のように課税すべきだ、と提言。

 内部留保があっても赤字決算を続けているような企業には課税せず「3年連続で利益の50%以上を剰余金にする」などにしてみては?と村上氏は述べる。

 企業が、計画のないまま資金を手元に溜めておくことのないようにする施策だ。

 村上氏は著書の中で、上記のように幾度も内部留保について苦言を呈している。

ガイドライン制定ではなく、実行者に“コーポレート・ガバナンス”の認識を促す

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 村上氏は、コーポレート・ガバナンスを適用しましょう!とガイドラインを制定したところで、企業は重い腰をあげて渋々と形式に従うだけだ、と意見している。

 村上氏は「重要なのは、実行すべき主体である企業の経営者たちにその意義を理解してもらうこと」と述べている。

 そこで提案したのは、巨額のお金を抱える日銀及び年金が“株主”として、日本という国が上場企業に対して何を期待しているのか?と、「もの言う」こと。

 日銀や年金といった公的機関が投資先のコーポレート・ガバナンスを評価する仕組みであれば、企業経営者も受け入れやすいはずだ、と村上氏は語る。

 村上氏が「生涯投資家」で訴えたいことは、一貫している。

 「資金を循環させることが、日本の景気回復と経済成長には重要」「資金循環をさせる役割を担うのが“コーポレート・ガバナンス”」ということ。

 村上氏の経済成長を促す策は、通産省の官僚をしていた時代から変わらない。

 投資家である父のDNAを受け継ぎ、「国家を勉強するため」に通産省の官僚になった村上氏は、きっと誰よりも「お金」に詳しい専門家だ。

 「コーポレート・ガバナンスってそもそも何?」「投資がどんなことかわからない」

 ——「経済」のことに無頓着な方も、『生涯投資家』を読めば日本の経済成長にとってのコーポレート・ガバナンスの必要性を理解できる。

 村上ファンドの一件で時の人となった村上世彰氏の自伝としても、コーポレート・ガバナンスの勉強としても楽しめる一冊だ。

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