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西田宗千佳のトレンドノート:ポケモンGO 1周年 ほんとうにすごかったのはどこか

西田宗千佳

2017/10/05(最終更新日:2017/10/05)


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西田宗千佳のトレンドノート:ポケモンGO 1周年 ほんとうにすごかったのはどこか 1番目の画像
 7月6日、ポケモンGOがサービスを開始して1周年を迎えた。

 日本でのサービス開始は7月22日からだったので、体感的には少しずれているようだが、海外から始まった圧倒的な熱狂は、みなさんの記憶にも新しいことだろう。

 一方で、「もうポケモンGOはやっていない」という人も多いのではないだろうか。なんであんなに流行ったのか、そして、どこがすごかったのか、総括できていないところがある。

 そこで今回は1周年を機会に、ポケモンGOのどこがすごかったのか、その本質を考えてみたい。

ポケモンGOは映像以外の意味で「AR」だった

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 ポケモンGOは「AR(拡張現実、Augmented Reality)ゲーム」だと言われる。ポケモンGOには、スマホのカメラを使って撮影した実景の中にポケモンが現れる「ARモード」があり、それがビジュアル的に注目されたため、ポケモンGO=ARブーム、と捉えられた部分がある。

 しかし、実際にポケモンGOをプレイしたことがある方ならわかるように、ARモードはほんの「おまけ」でしかない。ほとんどのプレイヤーはARモードを使っていない。飽きてくるし、結局邪魔だからだ。

 だが、ポケモンGOにAR的な意味で価値が薄いゲームか……というと、そうではない。「映像的なAR」とは別の意味で、非常に重要な気づきを我々に与えてくれる存在であり、一般的な意味とは別の理由で「AR的」である。

 それはなにか、というと「位置情報を使う」ということだ。

 ポケモンGOをプレイ中、我々は、画面上の地図と現実の風景を見比べながら歩く。画面上のポケストップやジムに向かって歩き、画面の中に現れるポケモンを捕まえる。ある公園にレアなポケモンが出る、と聞いて、そこへと行ってみた経験がある……という人もいるだろう。

 ここで重要なのは、現実の世界にはポケストップもないしポケモンもいない、ということだ。「なにをあたりまえのことを」と思うかも知れない。でも我々は、その「本当にはいないもの」を目指して動く。

 これはどういうことかというと、ネットワーク上にある「ポケモンGOの地図」の上には、現実の地形・建物の情報に加え、まったく別の「ポケモンGOの世界の情報」が重なって存在している、ということだ。

 ネットワークの向こうの「ポケモンGOの世界の地図」には、どのポケモンがどこに住んでいる、という情報が存在する。そこに我々が移動することで、本来は見えないポケモンが画面の中に現れるのだ。

 この時、ポケモンGOの画面の中で我々がポケモンと対峙している様は、けっして絵空事ではない。目の前にはいなくても、実際にそこに「ポケモンはいる」のである。

 これはまさに「現実が拡張している」=ARである、ということに他ならない。ARによって現実を拡張することの本質は、その場所に、現実には存在しないものを、位置情報を手がかりにネット上の情報で補って「画面上で見せている」ということなのだ。映像として重ねて見せるのはひとつの手法に過ぎない。

 そう考えると、ポケモンGOで起きた様々なトラブルがどういう意味をもっていたのかも理解できてくる。

 閑静な住宅地や公園などにポケモンを探す人があふれ、騒動になったのを覚えていらっしゃるだろうか。人が集まれば騒ぎになるので確かに迷惑なかもしれないが、これも、「ポケモンがいる場所が、現実の拡張として存在する」と考えると面白い見方ができる。

 ポケモンGOをやっている人には「そこにポケモンがいる」という情報・感覚・価値観が共有されているのに、プレイしていない人、底で暮らす人には「突然やってきた多くの人々」に過ぎず、価値観の共有ができないからだ。

 こうした現象が生まれることも、またポケモンGOのような存在の本質なのである。

パートナーへの「集客」をお金にしたビジネスモデル

 ビジネスモデルの面を考えると、位置情報を使って「本来存在しない価値を追加する」ことは、大きな意味を持っている。ポケモンGOは、そこを非常にうまく活用している。

 みなさんもご存じのように、ポケモンGOは無料でダウンロードし、プレイすることができる。必要に応じてアイテムを入手するための「ポケコイン」を買えるが、それは必須ではない。他のスマホゲームに比べると、「課金しないと不利になる」要素は低い。

 実はポケモンGOには、もうひとつ大きなビジネスモデルがある。それは、「パートナーからの収入」だ。

 ポケモンGOでは、店舗などとパートナーシップを組み、そこから収益を得ている。店舗をアイテムやポケモンが集まる「ポケストップ」、ポケモンを戦わせる「ジム」にすることで、集客が見込めるからだ。日本では、日本マクドナルドやソフトバンク、セブンイレブンに伊藤園といった企業がパートナーになっている。

 これらのパートナーからの収入は「CVPモデル」と言われており、顧客がポケストップとして登録された店舗に来て、そのポケストップを使うと、1日1人あたり、最大で0.50ドル(実際にはより低い場合も多い)を、ポケモンGOの運営元であるナイアンティックに支払う契約になっている。

 店舗は来店者を増やすため、様々なことをしている。ポケモンGOによるCVPモデルの強みは「可視化」だ。

 ポケストップへの来客=売り上げ、ではない(なぜなら、ポケストップを使っても、店で買い物をしない場合も多いため)のだが、「ポケモンGOでの来店者への投資から、どれだけの売り上げが見込めるか」を簡単に把握できる。

 しかも、ポケモンGOというコンテンツは強い誘引力をもっている。クーポンやマス広告などと比較し、店毎に価値を計った上で投資していくことが可能だ。

 ナイアンティックによれば、2017年5月末までに、のべ5億人がCVPモデルを採用したパートナーの元を訪れているという。少なく見積もっても数十億円、おそらくは百億円を超える収入が、パートナーからナイアンティックにもたらされている計算になる。

 これも、位置情報を使い、顧客を引きつける「拡張された現実」を用意した結果だ。

 ここまでうまくいった位置情報アプリは他にない。実際問題、ポケモンのような強いキャラクターと、ナイアンティックの持つGoogle由来の強力な地図技術がないと、同じことはできない。

 そういう可能性を見せたことが、ポケモンGOの最大の価値だったのである。

©2017 Niantic, Inc. ©2017 Pokemon. ©1995-2017 Nintendo / Creatures Inc. / GAME FREAK inc.

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