1. 西田宗千佳の「トレンドノート」:iPhoneは電話会社を「無理矢理変えた」

西田宗千佳の「トレンドノート」:iPhoneは電話会社を「無理矢理変えた」

 6月29日(アメリカ時間)、iPhoneは発売から十周年を迎えた。アップルのティム・クックCEOは、6月29日午前9時41分(アメリカ太平洋時間、日本では6月30日午前1時41分)に、自身のTwitterアカウントにて、初代iPhoneの写真を入れた記念のツイートを行っている。
 iPhoneとそのフォロワーであるスマートフォンはなにを変えたのか? 以前、ハードウエアの側面に注目して説明したが、今回は情報とサービスの面に着目し、改めて考えてみたい。

iPhoneは「好きな場所でウェブを使う自由」をもたらした

 言うまでもないことだが、現在のインターネットの世界では、スマートフォン向けの情報が圧倒的に多くなっている。PCでの利用は基本であり依然大切なものだが、日々の利用において、スマートフォン向けのものが中心であることに疑いはない。

 スマートフォン登場以降、ネットの使い方の中でもっとも大きく変化したのは「検索行動」である。現在、目的地への移動中や移動後に、目的地の情報を検索するのは当たり前のことだろう。

 だが、昔はそうではなかった。PCで調べた上で移動するのが多かった。それが、iモードが登場し、携帯電話でのインターネット利用が楽になっていくと次第に変化していった。それが完全に変わったのは、やはりスマートフォンの登場以後だろう。

 2007年にiPhoneが登場した時、最初に使った人々が注目したのは「ウェブブラウザ」だった。筆者も初代iPhoneを使った時、まず魅せられたのは、ウェブブラウザであるSafariの快適さだった。

 PCとほぼ同じものがどこにても、しかも快適に見られたことに、まず衝撃を受けた。いまや、スマホさえあれば知らない土地に行くのも怖くない。地図も地域情報も、ネットから検索できるからだ。

 それまでの携帯電話では、狭い画面と低速なネット接続に特化した、特別な携帯電話向けのサイトを使うことが主流だった。それでは不便なので、限定的にPC向けサイトが閲覧できる機能を備えたフィーチャーフォンが登場してはいたが、機能的に満足できるものではなかった。

 iPhone登場以前にも「スマートフォン」を名乗る機器は多く、それらのほとんどは「PCと同じようにウェブが見られる」「PCのメールが自由に使える」ことを売り文句にしていたものの、やはり使い勝手の面では問題が多かった。

 それがiPhoneでは、かなり劇的に改善された。Flashを使ったサイトが見れない、PCのサイトは拡大が必要、といった制限はもちろんあったが(これは今も変わらない)、快適なスクロールと拡大縮小機能のおかげで操作性も良く、表示も格段に美しかったので、それまでの製品に比べ、格段の進歩が感じられた。

 日本で発売されなかった初代モデルこそ、通信速度の問題もあって厳しい部分があったが、日本でも発売になった「iPhone 3G」からは、非常に実用的な製品になった。iPhoneを追いかけるように登場したAndroidも、iPhoneと同じように快適にウェブが見られる機器として登場し、その後は競い合って今の形へと進化してきている。

iPhoneの「通信量爆発」が携帯電話会社を変えた

 一方で、iPhoneは、携帯電話事業者に大きな変化を「強いた」存在でもある。

 フィーチャーフォンは、自由にインターネットが使える製品ではなかった。それは性能の話だけではない。携帯電話事業者側で、「端末から使える通信の量」を慎重に計算し、制限をかけた上で機器とサービスが提供されるものだったからだ。

 今もスマホには「月間での通信量制限」がある。しかし、フィーチャーフォン時代には、内部ではもっと厳しいルールが存在した。公式サイトのデータ量や、1アプリが使える通信量に制限をかけた上で、製品が備えている機能についても、通信量が多くなりすぎないよう、商品企画の段階から配慮するのが当然だった。

 携帯電話事業の根本は、いかに通信回線を効率よく維持するかにある。多くのユーザーが快適にサービスを使い、自社の通信インフラにかかる負担を軽減する意味でも、通信量に配慮した設計を行うことが基本だったため、このような構造になっていた。

 しかし、iPhoneやAndroidはこのルールの外にあった。PCがそうであるように、端末からのデータ利用は基本的に「自由」だった。だから快適にネットが使えたのだが、その分、通信量は増大した。一般に、iPhone以前のフィーチャーフォンとスマホでは、通信量は10倍から30倍違う、と言われている。

 携帯電話事業者も、未来がiPhoneのようなスマートフォンにある、ということは、もうずっと前からわかっていた。だが、インフラ技術の進化や投資との兼ね合いもあり、早急に導入するつもりはなかった……というのが、10年前の状況である。

 しかし、携帯電話事業者のルールの外にいたアップルがiPhoneという機器を生み出し、ヒットした。Androidも登場し、スマートフォンが数年以内に主流になることは見えてきた。

 どこでも通話ができるだけでなく、どこでも快適な速度で通信ができるようにすることを求められた携帯電話事業者は、彼らの想定よりも早い速度で、通信インフラの整備を進めなければならない状況になった。それが何年分のことなのかは、人によって意見が分かれる。だが、少なくともiPhoneやAndroidスマートフォンの登場が、モバイルインターネット・インフラの充実を大きく加速したことは間違いない。

 現在、我々はウェブブラウザだけでなく「アプリ」を多用する。アプリはウェブの機能をより簡単に、多様に使えるようにしたもの、といってもいい。PCではウェブサービスが、スマホではアプリが進化したのは、その形や使い方に合わせた最適化の結果、と言える。

 見え方は変わったものの、「自由にネットが使える」という意味では変わりはない。その中では、文字や写真のやりとりはもちろん、動画を見ることも定着した。数年前からは、高速な回線を誰もが使えることを前提に、サービスの側が進化をするフェーズに入っている。

無料アプリが集める「データ」の正体

 一方我々は、アプリがどのような情報をやりとりしているのか、かなり無頓着になっている。文字や写真、動画といった「目に見えるもの」はいい。だが実際には、アプリはより多くの情報を、サービス事業者に提供するようになっている。

 6月29日、ソフトバンクのグループ企業であるAgoopは、「混雑マップ」というアプリを公開した。このアプリは、日本だけでなく世界中の指定した場所がどのくらい「混雑するのか」をデータ解析で割り出し、地図に重ねて見せてくれるものだ。これから行く場所がどのくらい混んでいるか、どこを通るべきかを簡単に知れる、とても便利なアプリだ。
 だがこの「混雑情報」、どこからやってくるのだろうか?また、Agoopはなぜこのような有用なアプリを無料公開しているのだろうか?

 実はAgoopは、「ラーメンチェッカー」や「病院チェッカー」「電波のつながりチェッカー」など、同種のアプリを多数公開している。これらは、今いる場所の近くの情報を無料で教えてくれる有用なものだ。しかし一方で、同時に、「その場所での電波の状況や、通信状況」も測り、データを吸い上げている。どの場所にどのくらいの人がいて、そこで通信がどのくらい快適かを知るために、アプリが情報を収集しているのである。

 この情報は、主にソフトバンクの携帯電話サービスのインフラ構築に使われている。エリアの「穴」をこの種のアプリで調べ、効率的なインフラ構築に生かしているのだ。4年ほど前から、ソフトバンクの通信インフラは改善が進んだのだが、それにはAgoopの解析技術が大きく関与している。通信業界関係者を除けば、このことを知っている人は非常に少ないだろう。

 例示したアプリを使う時には「情報を収集する」旨の情報が出てくるし、名前や電話番号などの個人情報は取得していない、と明示されている。納得できなければ許諾せず、使わない、という判断もできる。意外ではあるが、わかって使う分には問題はないだろう。

 だが、こうした情報はわかりにくい。なにも考えずに「許諾」を押している人も多いのではないだろうか。ゲームアプリではプレイ時間や履歴が記録されているし、動画アプリでも「どんな動画を見ているか」の嗜好が集められている。基本的にはサービスの改善のために使われるが、思わぬ情報が先方に渡り、プライバシーの侵害につながることもある。過去にも、利用者にわからないように個人情報を集めていたアプリもあった。スマホは個人情報の塊だから、データの扱いには慎重になった方が良い。

 我々はスマホで、場所と時間の両方に、大きな自由を手に入れた。一方で、考えねばならないことも増えている。スマホが10年を経てより進化していけば、この点はさらに重要なものとなるだろう。

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