1. 【WWDC】西田宗千佳の「トレンドノート」:今年の秋からiPad Proがすごいぞ

【WWDC】西田宗千佳の「トレンドノート」:今年の秋からiPad Proがすごいぞ

 6月5日(現地時間)、アップルは、米カリフォルニア州サンノゼにて、開発者会議「WWDC」を開催した。

 初日に行われた基調講演では、音楽を軸にしたスマートスピーカー「HomePod」やVR対応Macなど様々な発表が行われたが、いい意味で「そこまで変わったか」という驚きを持って迎えられたのが、時期iOSである「11」と、iPadの組み合わせである。

 同時に発表され、日本でも来週から出荷される10.5インチ・12.9インチのiPad Proと組み合わせると、なかなか面白い事になりそうだ。ではどこが「面白い」のか、ちょっと解説してみたい。

iPadは「ファイル操作」改善でジレンマを解消

 iPadはジレンマを抱えた商品だった。

 タブレットの中では完成度が高く、毎年着実に進化しているものの、それを冷ややかに見ている人も多かった。

「結局iPadじゃ仕事はできないでしょ?」と思われているのだ。

 それは、初期の失望から来る反動も大きいだろう。

 iPadが登場した時は、軽くバッテリー動作時間も長く、比較的安価であることから、「これをノートPCの代わりに」という声も多かった。実際、そういう趣旨の記事もあった。

 だが実際には、初期はアプリも少なく、そうした使い方なら結局ノートPCの方がいい……という結論になった。それは事実である。

 もっとも大きな問題は、iOSが「ファイルを操作する」という概念を持っていないことにあった。人にファイルを渡して作業する、ということは仕事の基本だ。だが、iOSは「ファイル管理をなくして簡単に使える」ことを想定していたので、PC的な使い方とは齟齬が生まれやすかった。

 一方で、iPadはどんどん高度化した。特に、ペンに対応した「iPad Pro」が登場してからは、PCに勝るとも劣らない性能と機能を活かして「コンテンツ製作にも」というアピールがなされた。

 実際、そういう使い方は十分にできるし、アプリも増えたのでPC的な使い方は可能になってきていた。しかしそれでも、iPadとPCの差に悩んだ経験のある人は、必ずこう言ったのだ。

「でも、iPadでしょ?」と。

 確かにそうなのだ。

 アップルは低価格PCとの競合を、MacではなくiPadに担わせる戦略を採っている。だからこそiPad Proがどんどん良くなっていくのだが、「ファイル操作が苦手」というPCとの違いが、戦略との齟齬を産んでいた。これがジレンマである。

 だが、今秋に登場する「iOS11」からは、このジレンマがきれいに解消される。なぜなら、PCやMacと同じような「ファイル操作」の概念と機能が、iOSに本格的に搭載されるからだ。
秋公開の「iOS11」では、iPadでのファイル操作機能が劇的に改善する。
 この辺は、動画を観ていただくのが一番わかりやすいだろう。アプリの間でファイルを「ドラッグ&ドロップ」し、ファイル操作用アプリ「Files」でフォルダにまとめ、必要なものを探す……というアプローチは、まさにPCと同じ。

 だが、うまくタッチ操作を活かし、マウス操作に負けない使い勝手を実現している。この機能は一部iPhoneでも使えるが、やはり、画面の大きなiPadで特に有効なものである。


 iOS11でのファイル操作を動画で。PCと同じことを、タッチを使って快適に実現している。


 iPad Pro用の純正キーボードである「Smart Keyboard」についても、従来は「英語キー配列」しかない、という問題があったものの、ようやく日本語キー配列のものが登場する。

 本格的に日本で「PCと同じ事をするためのiPadを買う」のが現実的になってきた。

同じ山に逆から昇るアップルとマイクロソフト

 とはいうものの、こう思う人もいるのではないだろうか。

「どうせやるなら、Macをタッチ対応にしてくれればいいのに。Windowsはそうしている」

 確かに、それも良くある意見だ。

 だが、こう考えてはどうだろうか?

 Macは立って使うのが難しい。タッチをUIの中に自然に組み込むには、かなりの改修が必要だ。カメラもインカメラだけで、外を撮るカメラはない。LTEも内蔵していないし、GPSもモーションセンサーもない。

 タッチセンサーやペンも含めた「新しいデバイス」は、皆、スマートフォンやタブレットに内蔵されている。PCは「座ってキーボードを打つ」には非常に向いているのだが、それ以外の用途が弱い。

 マイクロソフトはWindows 8以降、苦労して「PCに新しい要素を加えよう」としてきた。結果、Windows 8では塗炭の苦しみを味わい、Windows 10でようやく形になってきた。だが、スマートフォンの市場は得られず、スマートフォンやタブレットで生まれている「新しいアプリ」の市場にはキャッチアップできていない。

 一方でアップルは、iPhoneで新しい市場の覇者となったので、その応用技術であるiPadで「新しい個人用コンピュータ」を狙った。完成しているMacに無理にタッチをつけて操作性を落とすより、新しいOSであるiOSに要素を付け加えて完成度を高めた方がいい……と判断したわけである。

 これは、「新しいデバイスを搭載した個人向けコンピュータ市場」という山に、別々の方向から登っているようなものだ。マイクロソフトはPCから、アップルはスマホから登り、いまようやく頂上が見えてきた。

 iOS11でのiPadの進化は、Windows 10 PCの魅力の高まりと、無関係ではなく、うまく競争した結果なのである。

 どちらにしろ、消費者である我々にはウェルカムな進化であり、変化と言えるのではないだろうか。

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