1. 第2次大戦の沖縄戦線でモルヒネと点滴のみを武器に戦場を駆け抜けた米軍兵士がいた?

第2次大戦の沖縄戦線でモルヒネと点滴のみを武器に戦場を駆け抜けた米軍兵士がいた?

 第2次世界大戦をテーマにしたいわゆる戦争映画には、傑作と呼ばれる作品が数多い。

 ノルマンディー上陸作戦に於いてたった1人の同胞を救出しようとする米軍中隊のミッションを描いた「プライベート・ライアン」(98、アカデミー賞5部門受賞)、ナチスドイツの迫害を逃れ生き延びたユダヤ人ピアニストの実体験に基づく「戦場のピアニスト」(02、アカデミー賞3部門受賞)、硫黄島の戦いを日米両サイドから検証する「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」(06)etc。

沖縄、前田高地で日米両軍が激突する!

 今年のアカデミー賞で編集賞と録音賞に輝いた「ハクソー・リッジ」は、クリント・イーストウッド監督が実際に来日して硫黄島でロケを敢行した「硫黄島からの手紙」と同じく、物語の舞台は主に日本の沖縄。

 第2次大戦の激戦地として知られる沖縄、前田高地で展開する、物量で勝るアメリカ軍と敗色濃厚な日本軍による文字通りの死闘を、強烈なリアリズムで綴る戦争ドラマだ。

侵攻を拒む“ハクソー・リッジ(ノコギリ崖)”

 しかし、「ハクソー〜」が過去の戦争映画と少し違うのは、沖縄従軍を志願した主人公のアメリカ兵が、断固として武器を一切手にしない点。

 衛生兵として戦地に赴いた彼、デズモンド・ドス(実在の人物)は、上官から「武器を持つか? さもなくば除隊するか?」と二者択一を迫られても尚、救命にのみ徹することを主張。

 軍法会議でも彼の主張は認められ、ドスは治療のために必要なモルヒネと点滴を携えて、前田高地の手前にそびえる断崖絶壁、人呼んで“ハクソー・リッジ(ノコギリ崖)”に吊された縄梯子を上っていく。

主人公はキリストの教えに従った

ドス役でオスカー候補となったアンドリュー・ガーフィールド。
 そもそもドスが衛生兵を志願した理由は、故郷ヴァージニアでの少年時代、勢い余って兄の頭を煉瓦で殴打してしまった時、自宅の壁に貼られていた“汝、殺すべからず”というキリストの教訓を、それ以来、幼心に強く刻みつけたから。

 第1次大戦から無事帰還したものの、戦場で友を失った喪失感を母親に暴力を振るうことで埋めようとする父親を殺そうとして、寸前で思い止まったのも、キリストの教えを守ったからだった。

 だが、断崖を上がった先には地獄の戦場がドスを待ち受けていた。米軍は機関銃や爆弾や大砲で戦力低下が著しい敵を殲滅しようと試みるが、爆破による煙で視覚不良の中、其処此処に掘った塹壕から姿なき応戦を展開し、時折塹壕から外に飛び出してくる神出鬼没の日本軍に苦慮。やがて、兵士たちの間に言いようのない絶望感が漂い始める。

目を背けたくなる戦場の地獄絵!!

演出中の監督、メル・ギブソン。
 監督のメル・ギブソンは戦場の地獄絵を可能な限り生々しく再現することで、そこでの救命活動がいかに過酷だったかを観客に伝えようとする。

 そのため、被弾した兵士の頭が血を吹いて破裂したり、両脚を失った体が地面を引き摺られていく様子、また、その地面に転がる臓物や遺体に群がる鼠の大群など、目を背けたくなるような場面が相次ぐ。

救出した全75名の中に2人の日本人が!

 そんな惨状を目の当たりにしながらも、ドスは絶命間近の戦友に近づき、言葉で勇気づけながらモルヒネを投与し、担架に乗せて崖の上から、1人、また1人と自軍の救命テントへと下ろしていく。その数は実に75名。内2人は日本兵だった。

 これが第2次大戦の歴史に刻まれた紛れもない事実であることに驚く。同時に、信仰が人間にもたらすパワーの強大さにも。そして、人が信念に基づき行動する時、敵と味方、人種の違いを区別することなど、ほぼ無意味だということを痛感させられる。

主演は再びアンドリュー・ガーフィールド

 偶然にも、ドスを演じるアンドリュー・ガーフィールドは「沈黙-サイレンス-」(06)でキリシタン弾圧が行われていた江戸時代の日本に渡ってきたポルトガル人宣教師を演じていて、そちらは今年1月に日本公開済み。

 宗教弾圧に続いて、人間の信念を描いたハリウッド映画が、どちらも日本を舞台にしているのは、主演が同じ俳優であるのと同じく、単なる偶然なのだろうか?

ハリウッド映画はリアリズムにシフトか?

 因みに、今年9月に日本公開が決定してる「ダンケルク」(クリストファー・ノーラン監督、トム・ハーディ主演)は、やはり第2次大戦中のフランス、ダンケルクで、ドイツ軍に包囲された英米仏連合軍兵士、約40万人を救出するため、イギリス軍の輸送船や民間船が動員された史実に基づくリアル戦記。

 「ハクソー・リッジ」から「ダンケルク」へ、ハリウッド映画がスーパーヒーロー映画からリアリズムにシフトしているとの論調が、すでに各メディアで目立ち始めている。

【作品情報】
「ハクソー・リッジ」
6月24日(土)、TOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー
© Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

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