1. 西田宗千佳の「トレンドノート」:ヘビーなネットユーザーが熱狂する「Mastodon」とはなにか

西田宗千佳の「トレンドノート」:ヘビーなネットユーザーが熱狂する「Mastodon」とはなにか

 4月に入って、急速に盛り上がってきたサービスに「Mastodon(マストドン)」がある。画面をみれば、どうもTwitterに近い感じを受けるし「ポストTwitter」的ないい方もされる。

 このサービスの本質はなにか、そして、ヘビーなネットユーザーが熱狂する理由はなにかを、まだ使ったことのない人に向けて語ってみたい。

「1つの企業」に集まらない分散SNSとは

 Mastodonとはなにか? Twitterと違って500文字まで書けたり、公開する範囲を変えられたりと、Twitterを意識した改善が多数行われているのは事実なのだが、それらはさほど大きな意味を持たない。技術的に重要なのは「分散SNS」ということになるのだが、これではピンとこない、という人の方が多いだろう。

 TwitterやFacebookのようなSNSは、ひとつのサービスに人々が登録し、「1つの企業が提供する場」の中で交流するもの、といっていい。1企業が提供するものだから、その企業がサービスを安定して提供する限り、利用者の側も安心して使っていられる。企業としては、ユーザーがあつまることで広告価値が生まれるから、「快適な場」を提供し、安心して長く使ってもらえるようにすることそのものが、有利にビジネスを進めるために重要な戦略となっている。

 一方で、既存のSNSの限界は「1社が提供する」ことそのものにある。その企業が属する国や文化の壁は小さくない。彼らがユーザーに対して「あなたにはサービスを使って欲しくない」と思えば、簡単に追い出すことができる。SNSは自分のアイデンティティが関わる場であるにも関わらず、「自分の判断」や「自国の文化・風習」よりも、他の判断が優先されてしまうことがある。

 要は、アメリカの顔色を見ながら使わねばならない部分があるのだ。また、運営企業が突如破綻すると、サービスが使えなくなる危険性もある。Mastodonが注目される背景には、Twitter社の業績不振があることは間違いない。日本でTwitterを使っている人の中に、漠然と「いつTwitterが使えなくなるか不安だ」という意識があるのだろう。

 そこで登場したのがMastodonである。Mastodonはオープンソースで開発されており、サーバー構築用のソフトはすべて無償公開されている。誰でも好きなように、Mastodonのサーバーを作れる。Mastodonのサービスを提供するサーバーのことを「インスタンス」と飛ぶが、Mastodonのインスタンス同士は連携し、別のサーバーにいる人同士をフォローしたり対話したりもできる。

 だから、1つのインスタンスに大量の人が集まることにこだわる必然性は薄い。1社によらず、複数のSNSが連携するように存在することから「分散型SNS」と言われるのだ。

 そのため、Mastodonのサーバーは世界中に存在する。日本でサーバーができはじめたのも、ほんの10日ほど前からである。Twitterに似た雰囲気を持つMastodonは、あれよあれよという間に、日本のヘビーなネットユーザーに広がった。

 たった数日で、Mastodonを日本で一番つかっているのは日本人、ということになり、世界最大のユーザー数をもつインスタンスである「mstdn.jp」も、日本の個人が作ったものだ。(4月21日、mstdn.jpを作った大学院生のnullkalさんは、ドワンゴに入社することが決まった)。

「価値観に応じて分散できる」自由さが評価

「なら、そのインスタンスにアカウントを作ればいいのか」

 そんな風に思うかも知れない。

 だが、それではMastodonの本質を理解したことにはならない。

 すでに述べたように、Mastodonは分散型のSNSである。1つのインスタンスにたくさんの人が集まる必然性はない。では、なぜインスタンスが存在するかといえば、「同じインスタンスにいる人は同じ価値観を共有している」という考え方を採れるからである。

 日本でいち早くMastodonのインスタンスを作った企業として、Pixivとドワンゴが挙げられる。両社とも、濃い支持者を持つコミュニティを持っており、そのコミュニティに属する人々が使いやすい空気を持つSNSとして、独自にインスタンスを作った……という形になっている。

 インスタンスの中で濃いコミュニティを形成しつつ、他のインスタンスの人々もフォローし、対話ができる……。群島がつながったような構造こそがMastodonの特徴である。だから、個人が自分の趣味を打ち出してインスタンスを作ったり、企業が公式アカウントと関連アカウントを自分のインスタンスで運営したり……という形で広がりつつある。

 趣味や組織、主義主張などで分かれる、という構造は、SNS以前に流行った、2ちゃんねるや個人ウェブサイトの掲示板システムを思わせる。それが横のつながりも持てるようになった……というのが、Mastodonが注目される本当の理由である。

 もちろん、問題はたくさんある。

 現在のMastodonにはアカウントを消す機能がない。また、各インスタンスの管理者は、最悪の場合、利用者のアカウントをのぞくことも可能だ。悪意ある人物がMastodonのインスタンスを作り、そこで利用者の個人情報を集めて悪用する……という可能性もゼロではない。

 だから、利用する場合には自分が信用できるインスタンスで、他のサービスとはまったく違うパスワードを設定して運用する必要がある。

 また、群島的・分散的SNSという価値は、あくまで「可能性」の存在でしかない。普通に使う人にとっては、「まだ人の少ないTwitter」という印象だろう。一方で、人が少ないが成長期にあるコミュニティは、混沌としていて動きが速く、独特の面白さがある。昔からネットを楽しんできたヘビーユーザーにとっては、ある種の懐かしさを感じる光景でもある。

 可能性と初期の混沌ゆえの面白さが、今のMastodonブームの正体、といってもいい。この盛り上がりは日本の、しかも先進ユーザーにおける局所的なもので、他のSNSを駆逐して広がる……と断言できる状況にはない。

 しかし、人の本質が多様性であるならば、多様性を軸にしたSNSへ活動の場が移るのは必然でもある。今後、分散SNSならではの価値観の多様さが定着すれば、Twitterよりも自由な存在として使われるようになるかもしれない。むしろ。Twitterなどと一緒に使うクライアントアプリが出てきて、両方を混ぜて使うシーンが出てくるかも知れない。

 現在のMastodonは進化の途中だが、今後「巨象の群れ」になる可能性は高い。

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