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THE IMPRESSION|鳥貴族 代表取締役社長・大倉忠司のビジネス哲学

U-NOTE編集部

2017/03/27(最終更新日:2017/03/27)


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 数ある居酒屋のなかでも、「国産国消」「全品280円(税抜)均一」を謳う「鳥貴族」の勢いが止まらない。1985年、大阪府東大阪市に1号店をオープンし、今年で創業32年を迎える同社は、2017年3月末時点で全国522店舗を構える一大飲食チェーンとなっている。

 そんな鳥貴族を一代で築き上げたのが、代表取締役社長である大倉忠司さんだ。「永遠の会社」を目指す大倉さんに、企業として目指すものや経営者として必要な資質など、ビジネス哲学を語ってもらった。

大倉忠司|TADASHI OKURA
株式会社鳥貴族  代表取締役社長
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1960年大阪府出身。株式会社鳥貴族の代表取締役。高校卒業後、調理師専門学校に入学。卒業後、大手ホテルに入社し、イタリアンレストランで2年間ウエイターを務める。82年退社して焼き鳥店に勤務後、85年に焼鳥屋「鳥貴族」第1号店をオープン。大阪で店舗数を拡大し、05年東京進出を果たす。

ビジネス哲学1:目標を設定してからするべきことを逆算で考える

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——25歳で1号店をオープンされていますが、そこに至るまでにはどんなことをされていたのでしょうか?

大倉:私が飲食業界で働こうと決めたのは高校2年生のときです。そのときに初めてのアルバイトがビアガーデンで、高校3年生のときにも同じところでアルバイトをしています。夏季限定でしたがその経験が、漠然と「飲食店で働くと幸せな人生になりそうだ」と思ったんです。

高校卒業後は調理師専門学校に進み、卒業後は学校の紹介でイタリアンレストランに勤務しました。転機となったのは、自宅の近所に焼鳥のチェーン店がオープンし、その店の常連になったことです。その後、店長が独立開業した店にも通い始め、レストランの仕事が休みの日に手伝ううちに、「うちで働かないか?」と声を掛けられるようになりました。

ずっと断り続けていたのですが、半年ほど経った時に「大倉君、俺はこの店をチェーン展開していきたい。一緒に大チェーンを作ろう」と言われたんです。この「大チェーン」という言葉に心惹かれたのと、この人についていけば自分も大きくなれるのではないかという期待で、2年間勤めたイタリアンレストランを辞めて焼鳥店に就職しました。

——もともと焼鳥店がやりたかったというわけではないんですね。異なるジャンルの飲食店に勤めたことで、何か変わったことはありましたか?

大倉:その店は最終的に7店舗ほどになったのですが、ナンバー2として働かせていただくようになって、経営の勉強が必要になりました。名だたる経営者の方々が書かれた本やチェーンストアに関する本を読んで勉強しましたね。なかでもチェーンストア経営研究団体・ペガサスクラブを設立された渥美俊一氏の本には影響を受けました。

経営について学ぶうちに、一生ついていこうと思っていた方との経営に関する考え方にズレが生じてきたんです。自分のアイデアが採用されることもあれば、されないこともある。それなら自分ですべて決められる環境を作りたいと思い、25歳のときに「鳥貴族」を創業しました。

——ご自身の経験から、起業を目指す人には普段どんなアドバイスをされているのですか?

大倉:私自身は「巨大チェーンを作る」という言葉に惚れてこの業界に入ったので、鳥貴族も最初から巨大チェーンになることを目指して起業しています。ですので、「全国チェーンにするためには何をすればいいのか?」と逆算をしながら経営方針を決めてきました。

この逆算をするには、「夢を描くこと」が大切だと思っています。そして、その夢を実現するための経営力が必要です。ただし、私利私欲に走った夢は諦めやすいのでいけません。それが世のため、人のため、ひいては社会のためであれば諦めないですし、協力者も増えていくんです。

ビジネス哲学2:新しい市場を開拓するために徹底的に“お客様目線”を追求する

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——これまでの焼鳥店との差別化はどのように図られたのですか?


大倉:当時の焼鳥店は中高年の男性のお客様がほとんどでした。カウンター中心で、煙がもくもくと漂っているイメージですね。しかし、新しい焼鳥屋で新しい市場を開拓しないと全国チェーンはできません。そこで、20代の若者や女性客が入れるような店を目指しました。

また、2号店以降はボックス席を中心にしたのも大きかったと思います。若い人はカウンター席を比較的嫌がり、自分たちだけで飲みたい人が多かったんです。ボックス席がなく、カウンターは空いていても入店を断られるという経験上、ボックス席中心の焼き鳥店にしていきました。

——税抜で280円という低価格の均一メニューはかなりのインパクトがあると思うのですが、この決断は勇気が必要だったのではないでしょうか?

大倉:最初の1年間は異なる価格でやっていたのですが、もともと均一でやるアイデアは温めていました。その時期は経営が非常に苦しくて、何かお客様にインパクトを与えることをしないと先が見えなかったですね。まずはお客様に喜んでいただこう、感動していただこうというところから始めました。

——東京に進出されたのが2005年ということは、創業から約20年が経っています。やはりこの東京進出は大きな賭けだったのでしょうか?

大倉:全国展開が夢だったので、東京は絶対に行かないといけない場所でした。しかし、実力や人財、資金力がなかなか追いつかなかったのです。東京に進出する頃はFC加盟店を入れて40数店舗でした。それがいまでは首都圏のほうが店舗数も増え、3月末には全部で522店舗になりました。

——数ある均一居酒屋のなかで、鳥貴族の強みはどこにあるとお考えですか?

大倉:リーマンショック以降は均一居酒屋が増えました。当時、客単価が3,500~4,000円の店が苦しくなったからです。そのなかで弊社は成長していたので目立ったと思います。自分達としては違和感がありましたが、「デフレの申し子」と言われたことで、お客様に来ていただけたのではと感じてします。

いざ参入しても低価格で利益が取れなくて撤退していった店が多いなか、すでに30年近く均一価格でやってきたので、一定のノウハウがあったのは強かったと思います。また、均一居酒屋の魅力の作り方や均一であることに志や想いがあったのも同業他社との違いです。当時参入した店は、仕方なく均一価格にしていたのかもしれません。しかし、それではとことん追求しないでしょうし、上手くいかないとすぐに転換してしまいます。お店で働くスタッフまでそれは伝わっていたと思いますね。

——たしかに最初から均一でされていたのは他社とは大きく異なりますね。創業から32年、経営者として一貫して譲れない部分はありますか?

大倉:お客様の立場で商売を見ていると自負しています。店側の都合で考えると本当のお客様の支持は得られません。お客様にとって、このメニューや価格がいいのかというところから始めているのです。

例えば、鳥貴族ではお通しを出しません。これは私が商売をする前に、勝手に料理が出て来てお金を取られることに疑問を感じたからです。店の立場としては、客単価が上がり、原価も安いのでいいことづくめです。しかし、弊社は絶えずお客様目線を大事にしたいと思っています。

ビジネス哲学3:経営の目的は社会貢献。利益はあくまでもその手段とする

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——大倉さんは鳥貴族を「永遠に続く会社にしたい」と以前からおっしゃっていますが、そのためにどんな取り組みをされているのですか?

大倉:まずは理念教育を徹底しています。永続、永遠の企業を目指しているので、社会に貢献できなければ永続できません。ということは、正しい会社、ホワイトな企業でないといけないんです。それには“正しい”集団でないといけないので、トップである私自身が言動、行動を律しないといけないと思っています。

——大倉さんにとっての「正しい」とはどういったことなのでしょうか?

大倉:簡単に言えば「善悪の判断」です。何かを決めるときに、これはお客様にとって善なのか、従業員にとって善なのか、もっと言えば社会にとって善なのかどうかを基準にしています。お客様にとっては善でも、従業員にとって悪なことはやらないと決めています。

私は常々、会社の経営目的は「社会貢献である」と言っています。利益はあくまでもそのための手段。これを勘違いしないでほしいと社員や店長にも言っています。しかし、社会貢献をするには利益が必要です。つまり、利益を追求することは善になるんです。

そうはいっても、目的を「利益」にするとおかしくなります。「社会貢献」というと抽象的なので、弊社においては「ステークホルダーの幸せ」と言っています。そのために利益を追求していきましょうと教育していますね。

——多くの企業が目先の利益に走りがちですが、大倉さんがその考えに至れたきっかけなどはあるのでしょうか?

大倉:いまになって振り返ると、最初の焼鳥店に勤めたときに、経営の勉強をしようと本で触れた、パナソニックの創業者・松下幸之助氏や、京セラの創業者・稲盛和夫氏といった方々の考えが影響しているのかもしれません。あと、育った環境もあるとは思います。

実家は大阪で町工場をやっていて、物心ついた頃から機械の音と油の匂いがする環境で育ってきました。世間的には安定を求める親が多いと思うのですが、私の両親は商売をすることに大賛成。焼き鳥店を始めるときにもよろこんでくれて、運転資金がなかった私のために実家を抵当に入れて、お金を借りる段取りをしてくれた。よく25歳の息子を信用したなと思いますね(笑)。

ビジネス哲学4:あら捜しは禁物。人も環境もいい部分を見ていくことが重要

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——社長という立場から、社員にはどのようなことをお求めになられていますか?

大倉:「みんなで幸せになりたい」というのが経営の根本にあります。社員にはいろんな考えや理念を基本にして経営方針を伝えますが、「こうすれば絶対に幸せになれる」と信じて話しているんです。そういう考えを持つことで幸せになれるし、その延長線上で会社も良くなると信じています。

私は創業してすぐに世襲しないということを決めました。みんなの会社にしていきたいですし、みんなが社長になれるチャンスがあるべきだと思ったから。鳥貴族を起業する前に、トップを狙えないのは寂しいと私自身も感じていたんです。何のために頑張るのかわからなくなりますし、生活のためだけに働くのは寂しい。いまも、誰もが平等にトップになれる会社にしたいと考えています。

——これからの鳥貴族をどんな企業にしていきたいとお考えですか?

大倉:「世界の鳥貴族」にしたいですし、ステークホルダーを永続的に幸せにできる会社にしたいと思っています。もちろん、社員においては“みんなで幸せになれる”企業になりたいですね。

そのためにいまの自分がするべきことは2つあります。それは、企業としての将来像や戦略を描くことと、理念を浸透させること。これらの使命を私はまっとうしていくつもりです。

——鳥貴族は海外進出もお考えだと著書で拝見しました。それは現在も変わらないですか?

大倉:以前は2017年にと言っていましたが、現在は2021年以降で海外進出を考えています。まず東名阪で1,000店舗を達成してからですね。いずれ日本国内も飽和状態になるので、リスクはあっても海外に展開しないと将来はないと思っています。

出店先として考えているのは先進国です。アジアは人口が多いものの外食市場が小さいので、ある程度市場が成熟している国がいいんです。先進国はインフラが整備されているので、チェーンストアとして出店しやすいというメリットもあります。鳥貴族はチェーンストアとして出店しないと価値が出しにくいですし、出店する国に貢献できないと長続きしないと思います。

——大倉さんの経営方針などをお聞きして気になったのですが、そのモチベーションの高さはどこから来るのですか?

大倉:社員からもよく聞かれるのですが、実はよくわからないんです。ひとつだけ言えることは、普段から人や物事のいい部分を見るようにしていますね。これは経営者として必要な資質だと感じています。

飲食業界にとっては少子化や人口減によってアルコール業態が縮小すると言われていますが、競合他社がそれによって飲食業界から離れるのは我々にとってのチャンスです。また、景気が悪いことも、280円均一のリーズナブルな価格でメニューを提供する弊社にはありがたいことです。

人間関係においてもこの考え方は必要で、こちらが相手のいい部分を見ていれば、相手もこちらを良く見てくれます。それによって協力者も増えやすくなります。仕事も同じで、好きだからこそ苦労を感じずに頑張れるんです。

——最後に、20~30代のビジネスマンがいまのうちにやるべきことをお聞かせください。

大倉:志を持つことと、物事のいい部分を見ることですね。多くの人はアラ捜しをしがちですが、いい部分を見つけていくことで、いい仕事ができ、素晴らしい人生が歩めると思っています。あと、私のビジネスマンとしての形成に役立ったのは経営に関する本。いろんな経営者の考え方に触れて共通項を見つけながら、自分にとっての指針を見つける手助けにしてください。

INTERVIEW/TEXT:今西絢美(ゴーズ)
PHOTO:篠田麦也

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