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ケータイジャーナリスト石野純也MWC総括:聴衆を沸かせたソフトバンク孫正義の戦略を紐解く

石野純也

2017/03/20(最終更新日:2017/03/20)


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 「ARM」「10兆円ファンド」、そして「Sprint」……そんなテーマで講演を行い、「Mobile World Congress 2017」(MWC)で注目を集めていたのが、ソフトバンクグループの代表取締役社長兼CEO、孫正義氏だ。同氏はMWC本体の基調講演に続けて、関連団体GTIが開くイベントにも出席。2日間に渡る講演で、聴衆を沸かせた。

 MWC会期初日の基調講演では、買収した半導体設計会社のARMや、そのスケールの大きさで話題を呼んだ「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を紹介した。

 孫氏はまず「不都合な真実」として、トラフィックが増える一方で、ARPU(1利用者からの平均収入)が下がり続けている実態を紹介。その上で、ARMを買収した理由を改めて解説した。

孫正義が描くビジネス戦略

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 孫氏によると、ARMは2035年には、1兆個のチップを出荷する見込みだという。そのカギとなるのIoT。「スマートフォンはそこまで成長しないかもしれないが、IoT向けのチップは伸び、(キャリアは)1兆の契約者を得ることができる」(孫氏)というのが、孫氏の目論見。
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ARPUが下がっているのに対し、設備投資は増加傾向にある。
 これを実現するために、「ARMのエンジニアとは日々議論している」(同)としながら、セキュリティ機能の「TrustedZone」や、来年の出荷が見込まれる「NB-IoT」対応のチップセットを披露した。
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2035年には、ARMチップの出荷数は1兆を超えるという。
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IoT需要を見込み、LTEをIoT用に使う「NB-IoT」のチップも開発。
 通信事業に大きな成長が見込めないという孫氏が、もう1つの事業として力を入れているのが「投資」だ。

 10兆円もの資金で運営されるのが、ソフトバンク・ビジョン・ファンドで、その成果の1つとして、低軌道衛星を使い、高速通信を実現する「OneWeb」の仕組みを解説。「衛星がまるで基地局のようになる。これは光ファイバーを宇宙から直接、地球に引くようなものだ」(同)と、その魅力を語った。

 OneWebは、下り最大200Mbps、上り最大50Mbpsと高速なのが特徴。光ファイバーを引けない地域に通信インフラを張り巡らせることが可能になるとして、孫氏が注目している事業だ。
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ソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資先であるOneWeb。
 MWCには、世界各国からキャリア関係者が集うだけに、孫氏は、ARMを売り込むの同時に、OneWebのパートナーになるキャリアや、ソフトバンク・ビジョン・ファンドでの投資案件を探したかったのかもしれない。

 実際、孫氏は講演の最後に「パートナーを探している。ここにいる人は、その候補者だ」と語り笑いを誘っていたが、この発言は、ジョークではなく、同氏の本音だったのかもしれない。

 その翌日は一転して、「無線」の話に集中した。TD-LTEを推進する団体のGTIが開催したイベントの講演に登壇した孫氏は、1年前の同じイベントで、TD-LTEの出力を高めて、電波の到達する範囲を広げる「HPUE」という規格の導入を訴えたことを紹介。その結果として、HPUEはTD-LTEの規格に採用され、米Sprintに導入されることになった。
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出力を上げ、エリアを広げる「HPUE」をSprintに導入する。
 孫氏によると、「99%、2.5GHz帯のエリアが1.9GHz帯と同じになる」という。一般的に、周波数は高ければ高いほど、電波の直進性が強くなり、エリアを広げにくくなる。

 そのため、周波数オークションが導入されている国では、より「コストが安くなる」(同)という。裏を返せば、HPUEを導入できれば、「2.5GHz帯の価値がもっと上がることになる」(同)。ネットワークの貧弱さでユーザー離れが起きていたSprintにとって、HPUEの導入は必須だったというわけだ。
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理論上、1.9GHz帯と同じ程度のエリアになるという。
 あえてこのタイミングで“周波数の価値”に触れたのは、Sprintの売却報道を意識していた可能性もある。講演の約2週間ほど前に、ロイターは、ソフトバンクがSprintの売却を検討していると報じている。

 ロイターによると、ソフトバンクは、4月から米T-Mobileの親会社であるドイツテレコムとの交渉を開始するという。孫氏には、この交渉に先立ち、Sprintの価値を強調しておきたいという狙いがあったのかもしれない。

 Sprintの売却についてはあくまで憶測だが、MWCの講演からは、ソフトバンクグループの注力分野が垣間見える。

 日本でのモバイル事業は安定期に入っており、収益も順調に拡大している。だからこそ、ARMやソフトバンク・ビジョン・ファンドのような将来に向けての投資を積極展開できているともいえるだろう。“お荷物”だったSprintの業績も改善傾向にあり、次の一手に打って出たいという意思の表れと見てよさそうだ。

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