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珍事勃発!! 第89回アカデミー作品賞に「ラ・ラ・ランド」改め「ムーンライト」?

清藤秀人

2017/03/05(最終更新日:2017/03/05)


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「ムーンライト」
 89回を数える世界最大の映画イベント、アカデミー賞で前代未聞の珍事が起きた? 舞台裏で受賞者名が記された封筒の処理が混乱し、作品賞の受賞作が間違って読み上げられてしまったのだ。

 おかげで、最初に発表された「ラ・ラ・ランド」組は舞台後方へと後ずさりし、正式な受賞作「ムーンラント」に戸惑いの拍手が贈られ、とりあえずセレモニーは無事、否、混乱のうちに幕を閉じた。

封筒が間違えて手渡されてしまった?

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「ムーンライト」
 こんなことが本当に起こり得るのか? 会場のドルビーシアターに集まった映画関係者も、生放送で中継を観ていた世界中の映画ファンも、間違いなく凍り付いたに違いない。セレモニーの最後に作品賞のプレゼンターとして登場したウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイだったが、封筒を開いたベイティは明らかに狼狽え、その判断をダナウェイに託すかのように封筒を手渡すと、ダナウェイは高らかに「作品賞は『ラ・ラ・ランド』です!」と発表。

 しかし、背後では授賞式のスタッフが急いでダナウェイの手から封筒を回収し、間違いが起こったことをベイティに告げると、彼は再びマイクの前に立ち、「僕らが受け取った封筒には主演女優賞は『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンと書かれていた。僕には責任はないよ」の弁明。つまり、直前に開封された主演女優賞の封筒がなぜかベイティ&ダナウェイに手渡されてしまい、舞台裏には1通だけ開封されてない、つまり、「作品賞=ムーンライト」と記された封筒が残っていたというわけなのだ。

その場の空気を正常に戻したプロデューサーの神対応

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「ムーンライト」
 場内は騒然。拍手と沈黙が相半ばする空気を正常に戻したのは、「ラ・ラ・ランド」のプロデューサー、ヨルダン・ホロウィッツだった。

 すでに受賞スピーチを始めていた彼は、それを中断し、真の受賞作名が書かれた封筒を全員に見せながら、「作品賞は間違いなく『ムーンライト』です。僕から『ムーンライト』に対してこれを手渡したいです!」とコメント。こうしてようやく、授賞式に再び感動の時間が返ってきた。

本命「ラ・ラ・ランド」は6部門制覇

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助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリ。
 しかし、結果オーライ。オスカー史上最多14ノミネーションを受けた「ラ・ラ・ランド」は本命だった作品賞は(寸前で)逃したものの、デイミアン・チャゼルは32歳で史上最年少の監督賞を受賞し、他にエマ・ストーンの主演女優賞、美術賞、撮影賞、作曲賞、歌曲賞の6部門を制覇して、ここ数年閉塞的になっているハリウッドに若い息吹を持ち込み、実りの少ないミュージカル映画の復興という偉業を達成したのだから。

 否が応でも人類史上初めて月に降り立った宇宙飛行士、ニール・アームストロングの実像に迫る彼の次回作に期待が高まる。

「ムーンライト」の新しさこそ称えられるべき

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作品賞と脚色賞に輝いたバリー・ジェンキンス。
 一方、同じく30代の若さでハリウッドの頂点に立った「ムーンライト」のバリー・ジェンキンス監督は、脚色賞も受賞してチャゼルと並んで当夜のシンデレラボーイとなった。

 その「ムーンライト」は、マイアミの貧困地帯で暮らす主人公、シャロンが、少年から思春期、そして、青年へと成長する過程で、自らのアイデンティティとセクシュアリティを自覚していく繊細な物語。勿論、人種差別や暴力、麻薬問題も背景として描かれるが、主軸になるのはシャロンが愛について忠実であろうとする姿。そのナイーブで普遍的なテーマ設定は、かつて量産されたアフリカ系青年たちのシビアな現実を暴力に特化して描いた作品群とは明確に味わいが異なる。

 そんな作品が持つ新しい個性と合わせて、製作費、150万ドル、撮影日数、25日というハリウッドでは稀な小規模作品として、「ムーンライト」のオスカー制覇は今後、若くて資金調達力のない映画青年たちに勇気を与えるに違いない。そういう意味で、予想通り今年のアカデミー賞では歴史が動いた気がする。

【作品情報】※3月5日公開日情報更新
「ムーンライト」
3月31日(金)、TOHOシネマズシャンテほかにて全国公開
配給:ファントム・フィルム
© 2016 A24 Distribution, LLC

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