1. リクルートテクノロジーズCTOが語るワクワク感の大切さ:『リクルート、進化を止めないIT現場力』

リクルートテクノロジーズCTOが語るワクワク感の大切さ:『リクルート、進化を止めないIT現場力』

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 まだインターネット上のメディアがビジネスとして成立しづらかった時期から、いち早く「リクナビ」「SUUMO」「ホットペッパービューティー」などの国内最大規模のネットサービスを起ち上げ、いまやトップクラスのテクノロジー企業として新たな価値を生み出し続けているリクルート。読者の中にも、何らかの形でそれらのサービスを利用したことがある人は多いはずだ。
 
 当時ITに強いイメージがなかったはずのリクルートだが、なぜこれだけすみやかにネット時代へ対応することができたのか。そして、なぜ今現在もテクノロジー企業として価値を提供し続けることができるのか。

 そこには、テクノロジーに対する独自の「流儀」があった。グループのIT施策の一翼を担ってきたリクルートテクノロジーズのCTO・米谷修氏が著書「リクルート、進化を止めないIT現場力 システム開発のリアル」でその内幕を語っている。

現場に必要なものを見極める「各論」主義

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 リクルートテクノロジーズはリクルートグループのIT施策を担う企業であり、その業務はネットサービスの開発からインフラの構築・運用、セキュリティ対策、ビッグデータ、マーケティングに至るまで多岐に渡る。

 他社なら外部へ委託することも少なくないこのようなシステムの構築と管理を、リクルートは自らのグループ内でほとんど行っているのだ。

 著者である米谷氏がリクルートへ入社したのは1988年。大阪支社の経理部門で会計業務などを担当していたが、1990年代に入って同社の業務内容が多様化し、関連会社が増えていくにつれ、基幹業務システムの改革が求められるようになる。つまり、それぞれの関連会社のビジネスに合わせた個別のシステムが必要だということだ。

 だがそれには、数十億円規模の莫大なコストがかかる。そこで著者は、ある画期的な──当時は突飛とも言える提案を上司に具申した。それはシステムを高額な大型汎用機ではなく、市販のPCサーバとネットワークOSで構築し、アプリケーションは自前でコーディングするというものだった。しかもその時点で、著者は本格的なプログラム開発の経験を持たなかったという。

 「素人」ならではの大胆な発想。だがそれに、リクルートはGOサインを出した。著者のチームはそれこそ床を引っぺがしてLANケーブルを張り巡らせるところから自分たちで行い、やがて低コストでフットワークに優れたPCサーバーによる「共通会計システム」を実現するに至る。

 リクルートテクノロジーズの原点とも言えるこの体験を、著者は常識をすべてひっくりかえす「真逆アプローチ」の成功だと振り返る。そしてその基本は「自分たちで手を動かすこと」。システム開発を外部に頼るというこれまでの常識を捨て、自分でできることは自分でやる。外に丸投げすることでは、業務の「総論」は押さえられても、現場で本当に必要にされる「各論」は見えてこない。「各論」を自らひとつひとつ解決していくことこそが重要なのだと本書は語る。

 もちろん「すべてを自分たちでやる」ことは人的にも資金的にも負担とリスクが伴う。実際に、コストが指摘され問題となった事案も本書では記されている。だが「各論こそすべて」を信条とする著者は、この問題にも自らの手を動かすことで取り組み、乗り越えた。そしてそれは、チームの他のメンバーにも「リクルートのIT流儀」として伝わっているのだ。

ヒトが動かすシステムだからこその人材育成術

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 リクルートテクノロジーズが辿った方法論は、破格であるがゆえに決して平坦なものではない。時には困難や失敗も訪れる。だがそうした「修羅場」をくぐることが、特に新人の育成には不可欠だと著者は述べる。

 過去の経験からプロジェクトの失敗は徐々に減っていく。だがそれは新しい技術者から「失敗から学ぶ」経験を奪うことをも意味する。失敗を回避するノウハウが新人の成長機会を阻害するというジレンマ。それを踏まえて、著者は新人にあえてシビアな要求をする。

 例えば、研修生に課題を与えたとする。研修生はなんとか自力で学習しつつそれを形にして提出する。上司はそれをチェックし、至らないところを指摘する。そして修正したものを提出するよう求める。そのとき、上司はこう告げる。

「でも、できると言ったからには、納品日は厳守!  しっかり頼むぜ!」

 新人と言えど納期は厳守。それが実際のプロジェクトであれば深刻な問題になるからだ。

 また、リクルートテクノロジーズでは、毎年1名の新人技術者を選抜し、インターンとしてベルリンの企業に派遣する「武者修行」を実施している。そして、そこから1年後に帰国してきた技術者は、目覚ましい成長を遂げているというのだ。

 他に頼る者のいない海外の企業、しかも周囲には自分こそ大成しようと本気で努力している技術者たち。そして、リクルートテクノロジーズは派遣先に「使い物にならなかったら切ってもらっていい」と告げているという。実戦というリアルなプレッシャーが、人材を大きく飛躍させるのだ。

 またインターナショナルという面で言えば、もうひとつ「オフショア開発」がもたらす意外な新人育成効果についても述べられている。オフショア開発とは人件費の安い新興国での開発でコストパフォーマンスを上げる手段だが、リクルートでは過去その試みは諸事情であまり功を奏せず、いわば「封印された存在」だったという。

 だがあるとき、入社2年目の新人が、自らオフショア開発へのチャレンジを申し入れた。過去の事例を知る著者は再考を促したものの、彼はプレゼン資料を作成して猛烈にアピールした。結果、彼のベトナムへの派遣が決定する。

 ベトナムでのオフショア開発は、当初はまるで過去の失敗をなぞるようなものだった。文化的な齟齬、両者の間に立つ企業やSE、通訳者による情報伝達のすれ違い、思ったより伸びないコスト削減効果……。だが、それらの障壁にベトナムに赴いた新人は正面から向き合った。結果として、帰国後その技術者は見違えるように成長していたという。

 敬遠されてきたオフショア開発に実は「人材育成」という大きな効果があるという発見、それもまたリクルートテクノロジーズの「真逆アプローチ」の成果であった。

エンジニアから自由な発想を引き出す仕事環境

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 「各論」を重要視するリクルートテクノロジーズの流儀。それは、社内組織の構築にも浸透している。

 システム開発においては、全体を構成する技術分野が多岐に渡る。そのうちの広範な知識を全員に求めるのは困難だ。そこで、インフラならインフラ、ビッグデータならビッグデータ、アプリケーションならアプリケーションという「各論」に精通したプロフェッショナルを育成し、そうした技術のプロたちが集結する専門組織を設立。こうした「機能別組織」を多数形成することで、よりプロジェクトの精度を高めることができる。

 だが、技術のプロ集団だけではビジネスとしてのネットサービスは成立しない。ビジネスの各分野に精通した「事業別組織」を起ち上げ、「テクノロジーのプロ=機能別組織」と「ビジネスのプロ=事業別組織」との連携により最適なプロジェクト達成を目指すのだ。

 ただ、綿密な計画を遵守して高品質なものを目指す機能別組織と、ビジネスとしての要求を満たすために計画の修正や追加を求める事業別組織の間には、対立が起こることも当然ある。しかし、その激突から相互理解が生まれ、プロジェクトの成功へと昇華していく様子も本書には綴られている。最良の組織づくりに正解はないが、それを常に模索し続け、変化を重ねているのがリクルートグループなのである。

 そうした環境から、多くのイノベーションを生み出す才能が生まれた。例えばビッグデータの代表的な処理基盤である「Hadoop」へのいち早い取り組みと、次世代オープンソース分散処理フレームワーク「Apache Spark」の発展。

 人型ロボット「Pepper」の会話機能の飛躍的な向上。スマートフォンで住宅の施錠を管理する「スマートキー」。これらはリクルートテクノロジーズ所属技術者の手によるものだ。また、月面探査を競う国際宇宙開発レースの民間日本チーム「HAKUTO」への技術支援など、未来への夢をつなぐ取り組みにも参画している。

 著者は、リクルートテクノロジーズが重視しているもののひとつとして「ワクワク感」を挙げている。それは、すべてをひっくり返す、前例のないことをやってみる、そんな冒険心あってのことだろう。また、そんな現場社員のアイディアを柔軟に受け入れる社風も、イノベーションの原動力になっていることは間違いない。そんな環境をうらやましいと思う読者も多いのではないだろうか。

 最後にひとつ。本書の構成のユニークな点として、社内でのエピソードが「フィクション」として随所に挿入されていることがある。これは経緯をわかりやすく説明するための演出であろうが、セミドキュメンタリー風ドラマとして臨場感があり読みやすい。ビジネス書としてだけでなく、純粋に読み物としても“アツイ”本なので、社会人予備軍にとってもおすすめしたい好著だ。

著者プロフィール|米谷修
株式会社リクルートテクノロジーズ CTO
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