1. 171年前から続くメキシコとアメリカの「皮肉な関係」

171年前から続くメキシコとアメリカの「皮肉な関係」

 アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領が「壁」をつくると宣言したことで話題となったメキシコとアメリカの関係性。麻薬の温床や不法移民のもとなど非常に強い言葉で攻撃されているが、そもそもアメリカとメキシコはどんな関係なのだろう。

 今回は、歴史的観点も交えつつメキシコとアメリカの関係性を考えたい。

アメリカの一部は元メキシコ:米墨戦争

 アメリカ合衆国とメキシコの関係性を考える上で外せないものとして、1846年~48年にかけて起こったアメリカ・メキシコ戦争/米墨戦争が挙げられる。19世紀に入り領土を拡大し続けていたアメリカの国民が当時メキシコ領であったテキサス州に入植し、共和国の設立を宣言。

 自国民の国を支援するという名目でアメリカ政府はメキシコ政府を挑発し戦争に至った。これによりアメリカはカリフォルニア・ニューメキシコなどを獲得し、メキシコは領土の半分を失うことになる。

 この時に海軍を指揮したのが5年後に日本へ行き、開国を求めるペリー提督なのだが、歴史上有名な人物でもうひとり関わっている人物がいる。

 のちのアメリカ合衆国16代大統領エイブラハム・リンカーンだ。彼は、戦争の理由を「メキシコ自身が侵略者となって武装してわが国土に侵入し、わが市民の血を流すに至った」と述べた当時の大統領であるポーク氏に対し、以下のように進言している。

大統領に、十分に、公正に、率直に答えていただきたい。事実を上げて、議論ではなしに答えていただきたい。ワシントン(引用者注、初代大統領)の席に坐っているのだということを忘れずに、ワシントンが答えたであろうように答えていただきたい。国家に対し、また全能の神に対し、いい抜けは許されず、またできるものでもないのですから、大統領もいい抜けや曖昧な言をろうしないでいただきたい。

出典:高木八束・斉藤光訳『リンカーン演説集』岩波文庫 p.28
 リンカーン氏の発言は無視されたどころか正当な戦争にケチをつける非国愛者のレッテルを貼られ人気は暴落。彼は次の大統領選に出馬することができなかった。

世界共通語であり隣国の言葉:英語が通じない

 メキシコはアメリカの侵略を受ける前の16世紀にはスペイン領だった。スペインからの独立を目指したのが1810年~21年のメキシコ独立革命/独立戦争なのだが、占領時期が長かったためにメキシコの公用語はスペイン語となっている。英語は隣国アメリカの公用語であり世界共通語でもあるのだが、メキシコでは通じないことが多いのだ。

 スペインから独立してすぐに国土を半分奪われたことを良く思っていない世代は英語を進んで学ぼうとせず、その名残もあり今でも「メキシコに行ったら英語は通じないと思え」と観光ガイドに書いてあったりもする。

 最近では都市部のホテル・レストランでは英語対応をしてくれるところも増えてはきたが、やはり期待をするべきではない。スペイン語は日本人にも話しやすい言語とされているので、メキシコに行く際は簡単な日常会話をメモして持っておくと役に立つだろう。

ドラッグ/麻薬カルテルの問題

  トランプ大統領がメキシコとの国境に壁をつくるとした理由は不法移民の流入とドラッグの密売人を防ぐためだ。メキシコからの不法移民は1,000万人以上とされており深刻な社会問題にもなっている。では麻薬はというと、こちらも深刻な問題なのだ。

 文部省の調べによると、アメリカの15歳以下の青少年の大麻/マリファナ使用率は34.5%と先進国の中でも非常に高い水準である。対してメキシコは生産量はダントツであるものの、使用量は5.5%に留まっている。

 つまり、メキシコで生産される大麻などのドラッグはアメリカへの輸出を目的としているのだ。2016年11月08日にカリフォルニア州を含む合衆国の数州で大麻は合法化されたが、麻薬依存症による悲劇は多い。麻薬の密輸入を止めるという意味なのだろう。

 また、犯罪者とのレッテルを貼られたメキシコではあるが、メキシコの殺人率は全体としては目立つ高さではなかったものの、この20年で急増している。理由としては、麻薬カルテルの存在が挙げられるだろう。撲滅を掲げた市長が惨殺されたり、対抗する市民組織が壊滅状態となったり、悲惨な状態があるのも現状だ。

 麻薬王ホアキン・グスマン氏の脱走も警察汚職が関係しているといわれている。メキシコでは麻薬カルテルの存在があまりにも大きく、社会システムの中枢まで食い込んでいるのだ。

 2001年にアメリカ国内で押収された麻薬1,665トンのうち98%が大麻だった。経路は不明だが押収量の10倍が流通しているとされ、メキシコとコロンビアの麻薬カルテルは年間80~250億円の売り上げをあげると推測される。171年前アメリカはメキシコに対し国土の侵略をしたが、171年後の今はアヘン戦争のようにメキシコがドラッグでの侵略をしているのかもしれない。

 
 不法移民をはじめとして様々な問題はあるが、アメリカは「移民の国」だ。大小の差別は存在したが、アメリカンドリームということばがふさわしい寛容な国柄のイメージを持っていた著者はどこか寂しく感じた。

 しかし、麻薬は非常に深刻な問題でもある。これはメキシコとアメリカだけではなく世界的にあてはまることであり、この問題が解決してはじめてメキシコとアメリカの関係性は清々しいものとなるのだろう。隣の国とは仲が悪いというが、1日も早く両国が尊重しあう関係になることを願っている。

U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう
この記事を報告する