1. 西田宗千佳の「トレンドノート」:日本でも衛星放送を追い立て始めた「動画配信サービス」

西田宗千佳の「トレンドノート」:日本でも衛星放送を追い立て始めた「動画配信サービス」

 動画配信ビジネスが盛り上がっている。「地上波に比べ普及率は低く影響力は小さい」とする放送関係者がまだ多いものの、深刻な影響が出始めた分野もある。

 それが衛星放送だ。海外でもケーブルTVなどの有料放送と動画配信の競合が続いているが、日本ではまずスポーツを軸に、両者の競争が激化している。

スカパーが利用者減少、理由は「Jリーグ」

 2月1日、衛星放送大手のスカパーJSAT(以下スカパー)は、2016年度第3四半期決算を発表した。その中で公表されたのは、驚くべき数字だ。同社の衛星放送サービス契約者数が、2016年度全体で約20万件も純減したのだ。スカパーの総加入者件数は、2016年末の段階で334万8,000件。その6%弱が1年で解約してしまった計算になる。

 これは主に、スカパーが独占契約していたJリーグの放映権を2017年度から失い、中継できなくなることに伴うもの。放送できなくなるため、Jリーグ中継サービスパックの加入者を自動解約した結果、大きな純減に結びついた。だから、契約者が自発的に解約したのとは、ちょっと状況が違う部分はある。

 しかし、実際の影響はさらにこれから出てくるだろう。衛星放送に契約している人の中には、特定のスポーツが見たくて契約している人が少なくない。中でもサッカーは、もっとも大きなパイを占める。だからこそスカパーはJリーグに注力してきたわけだが、その放送権は、海外からきた事業者に突如奪われることになった。

 Jリーグの放送権を取得したのは、イギリスの映像配信大手・パフォームグループ。同社は2017年度から10年間の放送権を2,100億円で獲得した。スカパーが1年間に支払っていた額は約50億円と言われており、1年あたりで計算しても優に4倍という圧倒的な額だった。今後、Jリーグの中継は、パフォームグループが提供する有料ネット配信サービス「DAZN」でのみ行われ、スカパーは欧州リーグや天皇杯などを中心に放送していくことになる。
 DAZNは昨年8月23日に日本でサービスを開始している。月額1,750円(税抜き)を支払えば、欧州サッカーリーグにF1などのモータースポーツ、NFLやNBAといったアメリカのスポーツリーグ、さらにはダーツのプロトーナメントまで、常時6,000近くのスポーツが見放題になる。そこに今年からはJリーグが加わり、日本での顧客獲得の目玉とする。
 そこでさらにDAZNは、大きな手を打ってきた。それがNTTドコモとの提携だ。両社は2月8日、NTTドコモ利用者向けのサービスである「DAZN for docomo」を2月15日からスタートすると発表した。

 DAZN for docomoは、DAZNとまったく同じサービス内容でありながら、月額料金が最低980円(税抜き)からと、非常に安い。NTTドコモ利用者に限って、という制約はあるものの、実質的な大幅値下げである。

ドラマ・アニメに続きスポーツで「配信シフト」が本格化

 衛星放送は、他チャンネル放送を広いエリアで実現するために有用な仕組みである。だが一方で、システムは巨大になり、どうしても投資が大きくなる。それもあってか、複数のチャンネルをセットにした「パック売り」が基本で、利用者の側からすると、「あまり見ないチャンネルまで押しつけられる」イメージもある。

 録画しないと好きな時間に見づらい、テレビの前でないと見づらい、といった問題も抱えている。視聴に衛星アンテナが必要で、地上波に比べるとハードルも高い。

 一方でネット配信は、それなりの速度でインターネットが使えれば、どこでも視聴できる。携帯電話ネットワークでもまったく問題はなく、視聴機器も、スマホからテレビ、ゲーム機まで幅広く、非常にハードルが低い。録画はできないが、好きな時に見られて、早送りや早戻し、一時停止もできる。

 それでいて、料金も安い。DAZNのように月額制・見放題の「サブスクリプション・ビデオ・オン・デマンド(SVOD)」という形態を採る事業者が多いが、その費用は1つのサービスで1,000円前後が中心。衛星放送の加入者平均単価は2,200円前後であり、複数加入してもこれを超えることは少ない。AbemaTVのように広告をベースに無料で展開するところもある。
 2016年まで、SVODは主にドラマやアニメを主戦場としてきた。特に2015年秋、アメリカ大手のAmazonとNetflixが日本に参入し、競争が激化したところから注目が集まった。

 海外系企業が加入者数を公開しないため、明確な利用者数ははっきりしないところが多いのだが、国内での累計加入者は、最低でも800万加入程度と見られている。複数のサービスに加入している人が多いこと、契約だけして利用していない人が多いサービスもあることを加味すると、実際日常的に利用している人々の数はその半分以下とみられるが、それでも、スカパーの契約者数に肉薄しはじめているのは事実である。
 そのため、特に2016年後半になってから、ドラマ・映画・アニメなどのコンテンツの増加に拍車がかかり、産業としてかなりポジティブな状況になってきた。配信オリジナルのコンテンツも増え、しかもその品質も高く評価されている。

 こうした流れを本格化するものとして、今年さらに競争が過熱しそうなのが、DAZNをはじめとしたスポーツの配信だ。NTTドコモがDAZNと組む一方で、ソフトバンクはヤフーと共同で、2016年3月から「スポナビライブ」を展開中。DAZNがJリーグを軸にするなら、スポナビライブはプロ野球や大相撲を軸に展開しており、DAZN for docomoの発表に合わせ、価格を月額1,480円(ソフトバンクユーザーには980円)とする価格改定を行ってライバルを追いかけている。

 衛星放送やケーブルTVから配信へ、という消費者の流れは、海外でもすでに起こっていたことだ。それが日本でも起き始めている。

多額の費用は海外からも回収?「安定性」「録画」などスカパーが有利な点も

 映像配信はコンテンツの獲得が重要であるため、現在そこで投資合戦が起きている。Jリーグが「10年で2,100億円」というオファーになびいて、長年パートナー関係にあったスカパーから乗り換えたのも、その競争ゆえだ。

 実際のところ、パフォームグループが支払う「10年で2,100億円」という額は、日本国内に従来からいるサッカーファンからの収益だけでは回収できないのでは……との声もある。

 一方で、映像配信大手のほとんどは、日本だけでなく海外でもビジネスを展開している。放送権・配信権を取得した上で、海外でもそれを流すことで、収益の多角化が見込める。

 日本のコンテンツは「クールジャパン」のイメージとは裏腹に、これまで意外なほど海外での販売がうまくいっていない。従来の放送やディスク販売とはマッチせず、売りどころが難しかったためだが、配信のように「ファンが自ら選んで見やすい」性質のものも訴求しやすい。

 今後、アジアの各国に配信が広がっていくのは間違いなく、そこで日本のコンテンツが支持されやすいことを考えると、「日本以外での収益も加味して投資する」のは間違いではない。

 日本の消費者は、ある意味海外事業者の勢いの恩恵を受けて、より低価格に様々なコンテンツを楽しむことができるようになるのだ。

 一方で、DAZNとJリーグのように「独占」という関係になると、若干の危惧もある。配信は、利用者数が多くなった時にサービスを安定させるのが大変であるからだ。

 放送は最初に大規模な投資が必要であるものの、利用者が増えてもコストは増えづらく、品質も安定している。配信は逆で、利用者が少ないうちは費用が安く小回りも利くが、一定以上に利用者が増えるとインフラ投資が重くなる。「Jリーグが見られる唯一のサービス」の品質が安定せず、視聴時にコマ落ちなどが起きたりしたら……という不安がある。

 実際サービス開始初期には、サービス品質が安定しない時期もあった。パフォームグループ日本法人のトップであるジェームズ・ラシュトンCEOは「顧客の声を聞きながらサービス改善に努めている」とコメントしており、実際、改善には向かっていると筆者も判断する。

 一方で、配信は「録画」ができない。永続的にライブラリーとして試合を残しておきたい人には厳しい。スカパーとしても、他のサッカーリーグやカップ戦をアピールしながら、「安定性」「録画」で差別化を図っていくことになるだろう。

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