1. 西田宗千佳のトレンドノート:iPhoneの普及が「現実とコンピュータをつなぐ産業」を生んだ

西田宗千佳のトレンドノート:iPhoneの普及が「現実とコンピュータをつなぐ産業」を生んだ

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 1月8日は、iPhoneが発表されて10周年にあたる。アメリカで初代iPhoneが発売されたのは2007年6月のことだ。

 日本での発売は初代モデルではなく、第2世代である「iPhone 3G」からだから、10周年という意識は薄いかもしれない。

iPhone発表から10年、生活は変わった

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 実際、iPhoneがアメリカでも本当にブレイクしたのはiPhone 3Gからで、アプリビジネスがスタートしたのもこの時だ。2007年のうちは、iPhoneの成功を疑問視する声も少なくなかった。状況が変わったのは2008年になってからで、本当に祝うべき10周年は来年……といった方がいいかもしれない。

 だがとにかく、2007年に出た奇妙な形の携帯電話が、我々の生活を大きく変えてしまったのは事実だ。2006年7月、取材でアメリカを訪れ、店頭で初代iPhoneを見た筆者は、それまでの携帯電話と違う使い勝手と機能に驚き、後先を考えずに買って帰ってきたのを思い出す。日本では、携帯電話としてはもちろん、通信機器としても使うことができないのがわかっているのに、だ。そのくらい、筆者にとっても衝撃的な体験だった。

 いまや、手のひらの上の板で、指をすべらせて生活しない日はない。

スマホの需要爆発で「センサー」が当たり前の存在に

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 iPhone10周年ということで、iPhoneがいかに我々の生活を変えたのか、という検証記事は多数出ている。本記事もその一つといっていい。だが、話したいことは、他の記事とは少し違うと思う。

 1月5日、筆者は、米・ラスベガスで開催されていたテクノロジー展示会「CES」を取材していた。忙しく会場を巡りながら、「最初にCESに来た頃とは、ずいぶん景色が変わったなあ」とぼんやり考えていた。筆者が毎年年初にCESを取材するようになって、もう15年近くが経った。CESのプレスバッジにも、10年以上連続で参加していることを示す「10+YEARS」のタグがついている。

 過去にはテレビが主役であったものが、いまやテレビは一つの要素。ドローンやバーチャルリアリティ用のヘッドセット、歩数や心拍数を記録して健康維持に使うウェアラブルデバイスをアピールするベンチャー企業のブースが軒を連ね、次にブレイクする機会を狙っている。

 それらの機器を見ていると、ふとあることに気づいた。こうした機器に共通しているのは、高精度のモーションセンサーを使っていることだ。

 モーションセンサーは、自分がどの方向へどれだけ動こうとしているかを、加速度から判断してコンピュータに伝え、様々なことに活用する。

 例えば、ドローンの頭脳はスマートフォンにつかわれるものと同じCPUであり、スマートフォンと同じカメラセンサーを使い、スマートフォンと同じモーションセンサーの組み合わせによって位置を制御している。

 ちょっとしたドローンの傾きを、モーションセンサーが素早く捉え、複数のプロペラを調停動作させて姿勢を安定させる。結果、これまでは撮影できなかったような映像を撮れる「動くカメラ」として、ドローンが広まってきているのだ。最初はおもちゃのようなものだったが、今は大型ものが「撮影機材」としてアピールされ、スマートフォンと連携する「自撮り用ドローン」も増えてきている。
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CES会場で注目を集めていた自撮りドローン「HOVER CAMERA Passport」。2016年秋より599ドルで発売中。

 バーチャルリアリティ(VR)用のヘッドセットは、頭が向いている位置や動きをモーションセンサーで把握することで、初めて成立する機器だ。目の前にディスプレイを配置し、視界を映像で置き換えるのが今のVR用ヘッドセットの仕組みだが、その時、自分の向きに合わせて映像を変えていくことで、自分から見れば「視界全てがディスプレイになった」ような感覚が得られる。

 このディスプレイも、スマートフォン向けのディスプレイを開発する競争の過程で、高解像度な有機ELディスプレイが得られるようになったために使えるようになったものである。

 すなわち、iPhoneが生み出した「スマートフォンの需要爆発」がなければ、今登場しつつある新しい機器も登場することはなかった、もしくは、登場が相当先になっていた可能性が極めて高いのだ。

「現実とコンピュータの間を埋める技術」の普及こそiPhone真の功績

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 モーションセンサーは、iPhoneの登場によって広まった技術の最たるものだ。もちろん、モーションセンサーはiPhone登場以前にもあった。原理は単純で、決して新しい技術ではないが、過去のものは小型でも、安価でもなかった。

 それが劇的に安く高精度になったのは、iPhoneで採用されたからである。正確には、iPhoneで使われて、「モーションセンサーを操作性向上に使うことが有用である」ことが知れ渡った結果、後続であるスマートフォンに続々と採用され、モーションセンサーの開発競争が起きて、コストとサイズ、精度が劇的に改善したことで、それまではモーションセンサーが搭載できなかったような製品にも搭載が可能になった、ということである。

 同様のことが、タッチパネルについても言える。iPhoneが採用するまで、タッチパネルとしては感圧式のものが中心だった。

 当時は、「1ドットを正確に指示する」には感圧式の方が有利だったし、コスト面でも感圧式が有利だった。一方で、操作時の快適さでは静電容量式が有利だった。iPhoneが快適さを優先して静電容量式を採用した結果、静電容量式タッチパネルのニーズは拡大し、タッチパネル=静電容量式の時代がやってきた。

 過去にも、新しい機器がブレイクすると、それに影響を受けてビジネスが拡大することはあった。だが、iPhoneと、それに伴うスマートフォン全体の市場拡大は桁違いのものだった。年間10億台を超える機器に使われるようになると、その影響は計り知れない。低価格化・高性能化したタッチパネルとモーションセンサーは世界に文字通り「拡散」し、新しい機器を生み出す元になった。
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 iPhoneが生まれて10年で、スマートフォンはありふれた製品になった。PCがありふれた製品になるまでには20年が必要だったが、スマートフォンはその半分の時間で、より広範に広がった。

 その副産物といえるモーションセンサーとタッチパネル、カメラモジュールの拡散は、新しいビジネスの基盤となっている。人やモノの動きを高精度にデータ化できるようになることで、現実世界の情報は、どんどんデジタル化され、ネットワークと連携して活用されるようになった。

 現実世界とコンピュータの世界をつなぐ技術の拡散こそが、iPhoneが真にもたらした変化ではないか……。そんな風に筆者は思うのだ。これらか出る機器は、iPhoneに始まったスマートフォン以上に「現実の世界の動きをコンピュータに取り込む」ものになっていくだろう。そうすることが、人がより豊かな生活をするために重要なことだからである。

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