1. トランプがトヨタを名指しで批判「アメリカ・ファースト」と企業はどのように付き合うべきか

トランプがトヨタを名指しで批判「アメリカ・ファースト」と企業はどのように付き合うべきか

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by Gage Skidmore
 トランプ氏は大統領選挙戦から一貫して「アメリカ・ファースト」を掲げている。その実現のために、「メキシコとの国境に壁を築く」、「中国製の製品に多額の関税をかける」など現実的ではない発言もしてきた。

 これらがパフォーマンスとしての発言にしろ、トランプ氏が経済的にアメリカを復活させるために自国に産業を呼び戻そうとしているのは本気のようだ。TPPやNAFTAに批判的な発言をし、国外を製造拠点とする特定の企業の批判さえしている。

グローバル企業の批判を続けるトランプ

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by haru__q
  トランプ氏の過激な批判ツイート「トランプ砲」はとどまることを知らない。ボーイングやGM、フォードがその標的だったのだが、ついに日本企業にも範囲が広がってきた。

トランプ砲の標的となったトヨタ

 トランプ氏はトヨタが2015年に発表したカローラの生産をカナダからメキシコへと移す計画を度々批判している。1月5日には「アメリカに工場を作らないのならば、多額の国境税を払え」という旨のツイートをした。

 ちょうど直後の1月9日からアメリカ、デトロイトでは「北米国際自動車ショー」が行われた。トヨタはその場でメキシコへの工場移転を変更しない一方、今後5年間で100億ドル(約1兆1,600億円)を投資することを発表。そして、今後アメリカ、ケンタッキー州で生産される新型「カムリ」の存在を強調した。

 一見、トランプ氏の名指し批判に屈したようにも見えるが、実態は違うのではないだろうか。なぜならば100億ドルという数字は過去5年間にトヨタがアメリカへの投資設備学と同額なのだ。今回、この方針を発表したことによりでトランプ氏へのアピールが成功した上に現状では製造、販売にそれほど大きな影響を受けていない。
 
 影響が出てくるとすれば、トランプ氏が大統領になった後国境税を本当に導入したときだ。国境税の中身はまだ発表されていないが、施行されるのならばアメリカ国外で生産する製品には間違いなく多額の税金がかけられることになるだろう。

工場移転をメキシコからアメリカに変更したフォード

 このような企業批判をトランプ氏は国内の企業にも頻繁に行っている。トヨタと同様にメキシコへの工場移転計画を発表していたフォードに対しても厳しい「トランプ砲」を発している。

 フォードはこの発言を受けてメキシコでの工場建設を中止し、アメリカミシガン州で電気自動車と自動運転車を製造すると発表した。元々はメキシコで小型車を製造する計画であったが、トランプ氏から高額な国境税をかけると脅しをかけたゆえの対応策であると見られている。

 ただ、このフォードの動向もトランプ氏の発言に怯えたゆえの転換だとは一概に言えない。確かに、同社CEOマーク・フィールズ氏は「トランプ政権下では米製造業にとっての事業環境が好ましくなる」と理由の一つに挙げたが、大きな理由が他にある。

 それは、フォードが近年力を入れている電気自動車と小型自動車販売の伸び悩みだ。そもそも、小型自動車をアメリカで生産することは理にかなったやり方ではない。賃金が低く、NAFTAの圏内にあるメキシコで生産するのが北米での販売を展開している自動車メーカーの常識となっている。

 その一方で、高度な技術を必要とする自動運転車や電気自動車を製造するにはアメリカ国内は好都合だ。

 また、フォードは電気自動車開発へ政府が出す補助資金を以前から受けている。長年、公的資金で続けてきた研究を実用化するには良いタイミングだったとも言える。

 このようにトランプは企業を批判することでアメリカの空洞化をなんとか防ごうとしているのだが、この行動は本当に雇用創生に効果的なのだろうか。

「アメリカ・ファースト」は雇用を生み出すことができない

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by Gage Skidmore
 トランプ氏がこれだけ企業を批判するには前述したように「アメリカ・ファースト」がある。産業をアメリカに呼び戻して雇用を再び作り出し、格差を縮小する。この考えがブルーカラー層に支持されたからこそトランプ氏は大統領選で勝利したわけだが、現在トランプ氏が掲げている政策だけでは根本的な解決には結びつかない。

 そして、抜本的な経済改革がなされるかもしれないトランプ政権のもとで、企業も方針を変えざるを得なくなる。本項ではトランプ氏の経済政策とトランプ政権の下で企業があるべき姿について分析する。

当然の保護貿易

 トランプ氏の突拍子のない言動からいかにも現実的でない印象を受けてしまうが、保護貿易は現在の時勢を考えれば当然の政策とも言える。リーマンショック後世界経済は停滞し、それまでブームであったグローバル化に懐疑的な目が向けられるようになった。

 グローバル化は先進国と新興国、そして先進国内でも大きな格差を生み出した。リーマンショックから世界経済は緩やかに回復しているとはいえ、リーマンショック前の成長率に戻ることは困難だろう。加えて、その回復を享受したのは主に富裕層であり格差が拡大しつつある。

 この現状に民衆が不満を感じ、反グローバル化の一つの方法として保護貿易を掲げるリーダーを支持してもおかしくない。ただ、保護貿易が中流階層が輝いた過去を取り戻すことができるかどうかは別の話だ。

トランプ氏が見落としている雇用が減った理由

 トランプ氏は民衆、特にブルーカラー層の支持を得るためにグローバル化がアメリカから産業を奪い、雇用を奪っていると主張してきた。確かにグローバル化によってアメリカの産業、例えば自動車産業の製造拠点がメキシコなどの海外に移り、国内の雇用が減ったことは事実だ。

 だが、問題の原因はグローバル化の頓挫だけではない。技術革新が雇用を奪っていることにも同じ注視が必要だ。技術が進歩すると人々は多大な恩恵を受ける。だが、単純な作業を機械に代替させることは、それまでの経済成長に貢献してきた人々の職を奪ってしまう。

 もちろん、技術の発展が悪いわけではない。ただ、私が言いたいのは産業を国内に戻すだけでは十分な雇用を生み出すこと、選挙でトランプ氏を支持したブルーカラー層を満足させることは不可能だということだ。

 トランプ氏に求められているのは、旧態依然とした経済システムを作り上げることではない。元に戻すのではなく、根本的な解決をするために新しいシステムを作り出すぐらいでないと現状は大して変わらないだろう。

資本主義と企業の向かうべき道

 すでに経済のグローバル化は大きく進み、技術革新が雇用を奪いつつある現在、トランプ氏が何をしても製造業などで元の満足いく給料の雇用をつくりだすことはできない。

 トランプ氏は2016年末にシリコンバレーのトップたちと会談し、国内に雇用を増やして欲しいと要請した。実際、アマゾンはこの要請に応える形で今後一年半の間に米国で10万人以上を新たに雇用すると発表した。他のIT企業に先駆けてトランプ氏にアピールする格好となった。

 だが、シリコンバレーにいる人間は雇用を増やすことではなく、いかに生産性を高めるかに仕事をささげている。もちろんその役割は非常に重要である。ただ、直接的に雇用を増やすにはシリコンバレーの企業をそれほど期待することはできない。

 では、このようなトップ企業は何をするべきか。それは資本を「持つ者」としてビジネスを成り立たせる社員、地域社会、顧客、仕入先などに投資することだ。例えば、学校や新聞社などアメリカの根本的な再生に役立つことだ。

 教育レベルを上げることは単純作業の職にしかつけない人々を救うことになる。また、企業が地域、言うなればアメリカに投資することは自らをトランプ氏の批判から守ることにもつながる。

トヨタの「公益資本主義」

 ここで注目したいのがトヨタが考える企業のあり方だ。トヨタは中長期的な利益を求め、従業員や地域、取引先に雇用や納税を通して貢献する「公益資本主義」を重視している。

 従来の欧米型資本主義は「企業は株主のもの」という絶対的な原則が中心にある。この考え方の問題点は株主最優先の方針を取らざるを得ない、すなわち目先の利益を重視しがちになるということである。企業は利益によってのみ評価され、社会的貢献では評価されづらいのだ。

たとえば、A社は100人の社員をリストラして10億円の利益を上げました。B社は雇用を守りつつ、同じく10億円の利益を上げました。社員の雇用を守ったかどうかを判断するための投資指標はありません。つまり、株式市場においてはA社もB社も同等に評価されるのですが、社会的・経済的意義としては、B社のほうが断然高く評価されてしかるべきです。

出典:トヨタ「元本保証」株で目論む資本主義のカイゼン (2ページ目):日経 ...
 一方で公益資本主義では経営のあり方や中長期的な利益を追求する。

 他社で言えばアマゾンもこれに似た方針を持っている。中長期的な利益のために多くの投資をしているのだ。それゆえに多くの売り上げを上げているにもかかわらず、収支は赤字だ。それでも、多方面への投資は多くの雇用を生み出している。

 トランプ政権と付き合う上で多くの資本を持っている企業はこのような策を投じるべきではないだろうか。短期的な利益を求めるのではなく、長期的で持続的な利益のために多方面に投資する。それが、問題とされている格差の縮小や雇用問題に間接的につながるはずだ。

 
 世界の経済システムが大きく変わる予感がする2017年。民衆が格差に不満を感じてトランプ氏を支持した以上、富が集中しているトップ企業は自らのあり方について考え直すべきだ。

 資本主義や企業といった普遍に考えられているもののあり方を変えることは容易ではない。本記事で紹介した公益資本主義も現状では理想に過ぎない。

 だが、グローバル化という永遠に富を生み出すと考えられていた動きにストップがかかっている。今こそ革新的なシステムが必要なのかもしれない。

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