1. 西田宗千佳のトレンドノート:2017年が「OLEDテレビイヤー」になった理由

西田宗千佳のトレンドノート:2017年が「OLEDテレビイヤー」になった理由

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 1月5日から8日(現地時間)まで、米ラスベガスでは、テクノロジー関連の展示会「CES 2017」が開催された。

 例年ここでは、その年発売される家電の新製品がお披露目されるのだが、今年は各社一斉に「OLED(有機EL)テレビ」を発表した。2017年は、本格的な「OLEDテレビ普及の年」になるだろう。

 OLEDテレビはどこが優れていて、どう売れていくのか。そして、なぜ急に「OLEDテレビ元年」がやってきたかを解説する。
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 ソニーの「BRAVIA A1E」。同社の大型テレビとしては初めて、ディスプレイパネルにOLEDを採用した。

テレビには理想的だが開発は難航

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 OLEDテレビは、長く「液晶の次に来る本命」と言われてきた。本来の画質傾向として、液晶よりもずっとテレビに向いた特性をしている、と考えられてきたからだ。

 テレビでは「発色」「輝度」「コントラスト」が重要になる。液晶はこの3点どれについても問題を抱えていた。液晶は光を遮るシャッターのようなもので、そこにカラーフィルターを貼り、さらに後ろにバックライトを置いて構成する。

 例えるならば、ステンドグラスのようなものだ。シャッターを閉じても光は漏れてくるので「完全な黒」は再現しづらいし、カラーフィルターを通す関係で発色の幅も狭まる。液晶とカラーフィルターの両方を通る分、光が弱くなって輝度も下がる。

 これは、液晶が「透過光を見る」デバイスであることに起因している。そのため、テレビでは光そのものを発するデバイスを見る、すなわち「自発光型」デバイスが望ましい、とされてきた。

 過去の自発光型デバイスといえば「プラズマディスプレイ」が挙げられる。液晶が解像度を上げていき、コストを下げていく中で競争に破れはしたが、コントラストと発色ではプラズマを好むファンもいたのは事実である。

 そして、液晶に負けないコストと解像度を実現する自発光型デバイスとして注目されていたのが「OLED」、というわけだ。

 OLEDは、画面全体に発光する「有機EL」が敷き詰められた構造だ。光るのを止めれば「黒」になるので、コントラスとは上がる。多重にフィルターを通る光ではないから、発色も良くなる。「コントラストが高く、色がいいテレビ」が作れることになる。

 実際、今回発表されたOLEDテレビも、みな「コントラストが高く、色がいいテレビ」である。しかも、バックライトがない、ということは、それだけテレビを薄く・軽くできる、ということでもある。事実、2017年最新モデルである、LGエレクトロニクスの「OLED TV W」は、厚さが2.57mmしかない。壁掛けはずっと簡単になるだろう。
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 LGエレクトロニクスの新型OLEDテレビ「OLED TV W」は、厚さが2.57mm(!)しかない。
 OLEDテレビの可能性は、もう20年以上前から指摘されてきた。日本企業はこぞって開発競争に明け暮れた。ソニーは2007年に11型のOLEDテレビ「XEL-1」を発売し、その後も、自社でのパネル開発を模索した。同様にパナソニックも、プラズマの次に来るものとして、開発にはかなりのリソースをつぎ込んできた。

 2012年には、ソニー・パナソニック両社がテレビ向けOLEDパネルの共同開発をする……との発表も行われた。韓国・サムスンも、スマートフォン向けでは量産に成功しており、次はテレビ向け……と鼻息が荒かった。

 だが、結論から言えば、こうした動きはすべて失敗に終わっている。理由は、技術的な点と経済的な点の複合要因である。

 OLEDは生産品質を安定させるのが難しかった。小型のものならともかく、50型を超えるようなテレビ向けについては、ムラや抜けを防止しつつ、5年・10年と長期間品質の落ちないものを作るのが大変だ。

 さらに問題となったのが経済合理性だ。テレビは世界に行き渡り、爆発的に量が売れるものではなくなってきた。スマートフォンとは大きく異なる。

 だが、ディスプレイパネル工場は、ひとつ作るのに最低数千億円がかかり、そのランニングコストも膨大だ。工場が常にフル操業に近い稼働率にならないと大きな利益にはならない。プラズマディスプレイではパナソニックが、液晶ではシャープが「操業率低下の問題」に悩まされ、赤字の原因となった。

 技術はクリアできても、斜陽となったテレビのために大規模投資をするのが難しい時期になったのが、OLEDテレビ実現のハードルとなっていた。

構造を変える“賭けに勝ったLG”が先行

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 ところが、それをひっくり返した企業がいる。韓国のLGディスプレイだ。

 同社はサムスンとのOLED開発競争の中で、ひとつの決断を下す。パネルを「簡素化」することと、それを一気に量産まで持っていくことだ。

 LGディスプレイが選んだのは、白く発光するOLEDの上にカラーフィルターを重ねて色を作る「WRGB方式」と呼ばれるやり方だ。一般にそれまでのOLEDは、「赤」「緑」「青」という光の三原色を、それぞれ別の素子に割り当てる「RGB方式」ものだった。WRGB方式は、RGB方式に比べ、理論上発色は劣る。また、輝度も大幅に下がる。色を作るには理想的な構成であり、「どうせOLEDを作るならRGB方式」と各社がチャレンジしてきた。

 しかし、RGB方式の開発は難易度が高い。ソニーもパナソニックもサムスンも、結局一度はあきらめた。

 だが、LGはWRGB方式でパネルの量産に成功、他社の機先を制するように、テレビ向けパネル事業への大規模投資を行った。そして2015年には、やはり他社に先駆けて、OLEDテレビを製品化したのである。

 実は、今回日本企業も含め、ほとんどのテレビメーカーがOLEDテレビに採用したのは、LGディスプレイのパネルである。それしかないから、という事情もあるが、LGディスプレイが操業率を上げるために生産量・販売価格の両面で努力した結果、非常に採用しやすくなったからである。

実は「液晶の方がきれい」なことも

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 OLEDテレビのパネルは、当面LGディスプレイの寡占状態が続くことだろう。

 「ソニーもパナもOLEDを買ってきている。ならば、どこも品質は似たようなものではないか」。

 そう思う人も少なくないだろうが、実はこれは違う。

 OLEDには弱点も多数あるからだ。それどころか、液晶が長い期間をかけて改善を積み重ねた結果、「今のOLEDを超える液晶」を作ることも不可能ではなくなっている。

 例えばソニーは、最高画質の製品を、2016年末発売の「BRAVIA Z9D」シリーズだ、と説明する。バックライト技術の進歩により、OLED並みのコントラストと、今のOLED以上の発色を実現できた。さらに、輝度は今のOLEDの倍近い。

 すなわち、明るい室内で見るなら、Z9Dのような「高品質液晶」の方が上である可能性は高い。LGのライバル・サムスンも、今年はOLEDを発売せず、液晶ディスプレイに若干の改良を施したものに「QLED」という名称をつけてアピールした。その品質はOLEDに及ばない……と感じるが、それでも、OLEDに対し、大幅に劣るものではない。

 また、WRGB方式のOLEDは、暗い中にほんのりと乗った色などの苦手な色の範囲を持っており、映像信号を「すっぴん」で入力すると、不自然な色になりやすい。そこで、パナソニックやソニーは自社の映像エンジンを使い、LGのOLEDの特性に合わせた「絵作り」を行って、クオリティを格段に上げている。やはりテレビメーカーとしての「基礎体力」といえる画質向上のノウハウを持つメーカーと、そうでないメーカーの間では、OLEDテレビであっても有利なのだ。

 今後は、LGディスプレイ以外にもテレビ用OLEDを手がける企業が出てくるだろう。液晶も進化するので、すべてがすぐにOLEDになることはないが、液晶がそうであったように、価格が下がって品質も上がっていくのは間違いない。いまはLGのWRGB方式が主流だが、理想のOLEDであるRGB方式のものも、時間を経れば登場してくる。

 液晶とOLEDの本格的な競争は今年から始まり、OLED主流へと置き換わっていくだろう。1年・2年で主役交代とはいかないが、10年とかからないのではないだろうか。そのくらい、OLEDテレビの品質は「本物」だ。

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