1. 歪められた「江戸」に対する認知を正す:『三流の維新 一流の江戸』

歪められた「江戸」に対する認知を正す:『三流の維新 一流の江戸』

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 『君の名は。』や『シン・ゴジラ』など映画が豊作となった今年、テレビドラマではTBSの『逃げるは恥だが役に立つ』に並び、NHKの大河ドラマ『真田丸』が話題を集めた。

 大坂の陣で散った武将が主人公であるだけに、物語の中で徳川家はかなりの悪役となっているが、徳川家が繁栄を極めた江戸時代は、250年という長きにわたって平和が維持された時代である。

 今回紹介する『三流の維新 一流の江戸』は、明治政権によって否定された「江戸」を掘り起こし、現代に必要なDNAを解き明かすことを試みるものである。著者の原田伊織氏が明治維新を「民族としての過ち」と断罪する所以が明らかになるかもしれない。

明治維新の真相

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by k14
 明治維新を成し遂げた人々は一般的に英雄として知られている。長州の伊藤博文、薩摩の西郷隆盛、土佐の坂本龍馬といった人物が挙げられるが、彼らは紙幣となったり、銅像となったり、歴史上非常に有名で人気もある者ばかりだ。しかし、原田伊織氏は彼らをテロリストだったと主張する。俄かには信じがたい話だが、ある程度根拠のある話である。

 まず、明治維新において尊王と倒幕はセットで語られることが多いが、これは必ずしも結びつくものではない。幕末動乱期における武家の立場は「尊皇佐幕」が一般的で、当時の「尊皇」に当たる孝明天皇も、政治は幕府に委任しているし、そうあるべきだという考え方をしていた。

 また、「王政復古の大号令」も新たな時代の幕開けのようなイメージがあるが、実際は、まだ15歳の明治天皇を人質としたクーデターであった。薩摩藩をはじめとする五藩の兵が御所九門を封鎖して親幕派の公家の参内を阻止しており、これは実質一部の公家と藩が政権奪取を宣言したものである。

 さらに、討幕派はイギリスから大量の武器を買い入れているが、イギリスの支援が今後の日本に対する影響力を強めるためのものであることはいうまでもない。

 政府に敵対する勢力を軍事的に支援することで国家や民族に介入しようとするのは、彼の国の常套手段である。「尊皇攘夷」や「復古」というキャッチフレーズを掲げてはいるが、結局のところ、これは討幕派の方便に過ぎなかったのだ。

江戸庶民に対する誤解

 江戸期において数々の文化が花開いたことは周知の事実である。今年は伊藤若冲の生誕300年を記念し、東京都美術館で「若冲展」が開催された。31日間の会期中の入場者数は約44万6千人を記録したという。また、『ひまわり』で知られるゴッホが浮世絵の影響を受けていたことも、現在では有名な話である。

 学術の面においても、識字率が75%と非常に高い水準を誇っていたことが分かっている。和算の関孝和、天文学の安井算哲(渋川春海)らも有名だが、つまり、江戸では学問も相当に発達していたのである。

 一方で、江戸期の庶民に対しては、武家階級に支配され搾取される哀れな存在というイメージがないだろうか。

 しかし、これは誤った歴史観なのだ。本書では近江屋豊七という若い商人が遺した旅の記録を紹介しているが、原田氏によれば、「豊七のような町方の庶民だけでなく村方の庶民、即ち、百姓に至るまでが旅を楽しむということが普通になっていた」のである。

江戸期の環境政策

 持続可能性、あるいはサステナビリティという言葉は近年盛んに使われている。この言葉が広まったきっかけは、国連の「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に発行した報告書であるが、日本では江戸時代においてすでに持続可能性を重視した政策を行っていた。

 江戸初期は人口増加に加え、市場経済も拡大した。各地で新田開発やインフラ整備が行われ、大規模な森林破壊が始まろうとしていた。これにより、野生動物が人里に現れて危害を加えたり、山が保水力を失って洪水が起きたりしたのだ。1645年、幕府は各藩に山林の「濫伐」を禁止すると共に植林を指示した。

 同様の掟が幾年にも渡って出されており、当時の政府が、乱開発によって自然災害が引き起こされるということをはっきりと認識していたものと推測される。世界一の大都市であった江戸において、持続可能性という理念がすでに定着していたのだ。


 タイトルの通り、本書では如何に江戸が一流であったがが記されている。一例をもって一般化している節もあるため鵜呑みにはできないが、それは江戸への悪評についても同様ではないだろうか。歴史というものは多面的であり、また、「勝者」によって都合よく解釈されることもある。そのことを常に考慮しなければならない。

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