1. Uberに対抗?タクシーは「ちょい乗り」する時代に:初乗り運賃「410円」へ踏み切った業界の現状

Uberに対抗?タクシーは「ちょい乗り」する時代に:初乗り運賃「410円」へ踏み切った業界の現状

 12月20日、東京都23区などを営業地域とするタクシーの初乗り運賃が、およそ1kmまで「380円~410円」に変更されることが決定した。年明け、1月30日から実施される初乗り運賃の値下げは、一体どんな背景があって決定したのか?

 今回は、タクシー業界の現状とタクシーの「ちょい乗り」について紹介していきたい。

タクシー業界は「値下げ」に追い込まれたのか

 まずは、タクシーの初乗り運賃値下げについて整理しよう。今までのタクシー運賃は、2kmまで700円~730円。値下げ後は、1.052kmまで380円~410円になることになっているが、大半の事業者が410円に変更すると国土交通省が報告している。1.052kmを過ぎた後は、235.25mごとに80円ずつメーターが上がっていく。

 今回の施策によって、およそ1.7kmまでは以前よりも安く利用できるようになる。しかし、6.5kmを超えると以前よりも料金が高くなってしまう。中長距離の利用ではなく、初乗り区間でのみ「ちょい乗り」するお年寄りや外国人旅行者の需要を狙っているのだ。

 簡単に実施できるわけではない運賃の値下げ。一体、日本のタクシー業界に何が起きたのか。

タクシー事業費用の70%以上は“人件費”

出典:www.mlit.go.jp
 タクシー業界の車両台数や輸送人員、運送収入は、2008年に起きたリーマンショックによって急落。急落した後も数字は回復せずに、緩やかに減少している。

 しかし、実働していた1日1車あたりの運送収入は、右肩上がりに上昇。これは国が特定した地域にて、タクシーの稼働台数を減らした成果だ。

 タクシー業界で働く人の現状も、決して明るいものではない。タクシー運転手の年間所得は全産業平均の約半分。給料が平均よりも低いのに対し、労働時間は全産業平均よりも長くなっている。これは、流し営業という仕事のスタイルが影響していると考えられる。

 労働時間に賃金が見合っていないことには、流し営業以外にも理由がある。タクシー事業費用のうち、70%以上が“人件費”なのだ。すでに事業費の7割を人材に割いているのにも関わらず、労働時間に見合った賃金は支払われていない……この事実が、タクシー業界の現状を物語ってるといえるのだ。

タクシー業界の課題「供給過剰」

 流し営業が主流のタクシー業界では、利用者に自分の車を選んでもらえる可能性が低い。悪質事業者でも市場淘汰されにくいタクシー業界は、「供給過剰」の状態にあるのだ。特定地域でタクシーの稼働台数を減らしたのも、「供給過剰」が原因だと考えられる。

 また、今回のような運賃の規制緩和が繰り返されると、運転者の所得はさらに減少してしまう。「初乗り運賃:410円」という諸刃の剣を使ってまで、タクシー業界は利用者を拡大させたいのだ。

2016年にスタートした「Uber」はタクシー業界の脅威?


 アメリカ発、スマホアプリで簡単にハイヤーを呼べるサービス「Uber」。スマホアプリでハイヤーを配車する場合は、割高になる同サービスが、世界中のタクシー業界の脅威となっている。フランス パリでは、タクシードライバーがUberに対してデモを起こした程だ。

 その理由は、「自家用車による配車サービス」にある。Uberに登録している個人ドライバーは空き時間に乗客を乗せ、運転した分だけ給料をもらっている。車とドライバーの維持費が殆どかからないため、“低価格”なサービスを実現できる。

日本では「白タク扱い」:脅威と呼ぶ程ではない

by Tranpan23
 その利便性から瞬く間に世界に普及したUberは、日本では規制の対象となっている。日本のタクシー営業では、自家用車によるタクシー営業は「白ナンバー(白タク)」とされているからだ。

 白タクの規制があることから、日本では「都心部でハイヤーや高級タクシーを配車する仲介サービス」程度にとどまっている。値段も通常のタクシーよりも割高なので、利用している人はかなり少ないと考えられる。

 Uberの自家用車を使ったサービスは、京都府京丹後市でのみ例外規定の下で営業中。少子高齢化が進む交通空白地域で、Uberがどのような地域貢献をするのかを実験している。京丹後市での営業が成功すれば、地域限定で日本にサービスが拡大していく可能性が高いのだ。

世界のタクシー業界を脅かすUberが選ばれる理由「安さ・便利さ・安心さ」

 現在、Uberが東京で展開しているのは、ハイヤー手配とアプリでタクシーを呼べるサービスのみ。世界のタクシー業界を逼迫させているUberの実力は、こんなものではない。白タク規制がない国でのUberの実力を見ていこう。

Uberが選ばれる理由

  • スマホアプリで車を呼べる
  • 車が到着するまでの時間、行先までの料金を把握できる
  • 行き先をドライバーに伝える必要がない
  • スムーズに支払いができる
  • 車のサイズを選べる
  • 通常のタクシーよりも3~4割程度安い
  • ドライバーの評価を見ることができる
 Uberが選ばれる理由を7つ挙げた。日本のUberのサービスでも同様のことができるが、最も異なるのが「運賃」だ。海外のUberでは、人件費や車の維持費がかからないことから安価なタクシー価格を提供している。それでいてドライバーの取り分は8割なのだから、驚きだ。

 旅行で言語が異なる国に行った際、スマホアプリで行き先を伝えてあるので、言語に困ることもない。また、会計時も事前に登録したクレジットカードから引き落とされるので、現金やカードを出す必要がない

 さらに、タクシーに乗った後に生じる「あ、このドライバーの運転荒いな。運が悪い」という不満を解消したのが“ドライバー評価”だ。この評価制度は、1~5段階でドライバーを評価するもの。ドライバーの評価平均が「4.6」を下回ると資格が剥奪されてしまうのだ。

 ユーザーが安く楽に利用できるだけでなく、ドライバーも稼げるのが、Uberのサービスなのだ。

タクシーを「ちょい乗り」して何処へ行く

 今回の初乗り運賃「410円」という値下げは、利用者の「ちょい乗り」需要を見越してのもの。果たして「ちょい乗り」は、どんなシーンで使えるのか? 筆者なりに考察してみた。

1.052km、どこからどこまで?

 1kmの目安として、大人が普通に歩いて20分くらいの距離。やや早め、せっかちな人なら15分くらいで歩ける距離だ。

 徒歩時間でいわれても、イメージがつきにくい読者もいると思う。都内の主要エリアを用いて「1km」を考えてみたい。

およそ1kmで行ける距離(東京都内)

  • 代々木駅から新宿駅(徒歩:1km)
  • 築地市場からユニクロ銀座店(徒歩:950m)
  • 浅草駅から東京スカイツリータウン(徒歩:1.2km)
 観光客の利用シーンを想定して、観光地を含めたおよそ1kmで行ける距離だ。代々木駅を挙げたのは、利用したことがある人なら経験したことがあるかもしれないが、駅から新宿駅が見えるのだ。初めて代々木駅を利用したときは「こんな近くに新宿駅あるのか……」と驚愕した。

 先のような1kmの説明をすると、「その程度の距離か」と思うかもしれない。しかし、意外な観光地同士も1km程度の距離であることを「築地市場~ユニクロ銀座店」で示している。

 鉄道の乗り継ぎがうまくいかない観光地間では、初乗り運賃区間をタクシーで移動する訪日外国人が増える可能性があると考えられるのだ。

足腰の弱い高齢者の買い物の幅が広がる

by t-miki
 高齢者の買い物シーンでの利用も考えてみたい。例えば、板橋区を代表するマンモス団地「高島平団地」。1970年代にできた高島平団地では、その当時から住んでいる住居者たちの高齢化が進んでいるだろう。団地がある高島平駅から、板橋区四葉にある最寄りの大きなスーパー「マルエツ 四葉店」までは1.3km。徒歩で17分もかかる距離だ。

 駅周辺にも買い物ができるスーパーがたくさんあるが、マルエツの近くまで行ければ「ユニクロ 四葉店」でも買い物できる。衣料品や食材をたくさん買った場合、タクシー移動ならば持ち運びにも苦労しない。足腰の弱い高齢者の買い物の幅が広がるだろう。


 以上、タクシー業界の現状と「ちょい乗り」のシーン予測をした。記事を書いてみて、流し営業はもはや時代錯誤なのでは……と筆者は感じた。指定した場所にタクシーが来る「LINE TAXI」が登場したのも、流し営業のタクシーを利用しづらい若者を取り込むためだと考えられる。

 白タクの規制緩和をして「Uber」が 正式に参入してくれば、既存のタクシー会社は間違いなく客を取られてしまうだろう。

 とはいえ、流し営業もまだまだ需要はある。今後、あまり良好とは言えないタクシー業界の現状を改善するためには、インドネシアの大手タクシー会社がUberと手を組んだように、柔軟な施策が必要になってくるだろう。初乗り運賃「410円」で、タクシー業界に光明が差すことを祈るばかりである。

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