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西田宗千佳のトレンドノート:PC業界に衝撃!突如発表された「ARM版Windows」の野望

西田宗千佳

2017/10/05(最終更新日:2017/10/05)


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 突如発表されたQualcommとマイクロソフトの提携。PC業界に衝撃が走った。

 12月8日、中国・深圳で驚くべき発表が行われた。マイクロソフトが深圳で開催中だったハードウエア開発者向けの国際会議「WinHEC Shenzhen 2016」にて、WindowsをQualcomm社のプロセッサーである「Snapdragonシリーズ」に完全対応させる、と発表したからだ。

 これは、PCの世界を変えるような大きな事件であり、我々が手にする機器にも大きな変化をもたらすものでもある。

スマホのプロセッサーで「フル機能のWindows」が動く

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 Snapdragonは、スマートフォンやタブレットで多く使われているプロセッサーで、ソニーモバイルの「Xperia」やシャープの「AQUOS PHONE」など、みなさんにもおなじみのスマホのほとんどで採用されているものである。

 別のいい方をすれば、アップルの「iPhone」や、サムスン電子の「Galaxy」のように、自社製プロセッサーを使っている企業のハイエンドスマホ以外のほとんどが、このプロセッサーを使っている、といっても過言ではない。

 Windowsで動くPCは、インテルやAMDが製造している、俗に「x86系」と呼ばれるCPUで動作している。だが、スマートフォンは「ARM系」CPUであり、Snapdragonはその代表格だ。

 CPUが違えば、通常、同じソフトは動かない。だが、マイクロソフトが発表した「Snapdragon版Windows 10」は、従来のPC向けに作られたソフトが、CPUの違いを超えてそのまま動作する。発表会では、Windows用に作られたAdobe PhotoShopやMicrosoft Wordといったおなじみのソフトが、「まったくそのまま」動く。機能もそのままだ。
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 フル機能のPhotoshopやWordが、QualcommのSnapdragon上でそのまま動作。

 過去に、ARM系プロセッサーで動くWindowsがなかったわけではないし、厳密には今もある。スマートフォン向けの「Windows 10 Mobile」はARM系プロセッサーで動作するように作られているし、2012年にマイクロソフトが発売した「Surface RT」などの機器に搭載された「Windows RT」もARM系で動いていた。

 しかし、それらは「Windows」の名がついているが、多くの人々が期待するほど、「Windows PC」に近いものではない。やはり多くの人は、「Windows」という言葉で「PCと同じ事ができる=PCと同じソフトや周辺機器が使える」ことを期待する。

 米Microsoft Windows & Devices担当上級副社長のテリー・マイヤーソン氏は、Snapdragon版Windowsについて、「すべてのPC用アプリが使えて、すべてのPC用周辺機器が動く」としている。OSの核となる部分はARMプロセッサー用に書き直されており、それに加え、x86系のために作られたアプリやドライバーソフトを、「CPUの違いを吸収する機能」でカバーしているのだ。すなわち、今回発表されたのは、まさに「PCと同じ事ができる」ものであり、スマホの技術でPCが作れるようになる、ということでもある。

 Snapdragon版Windows 10を搭載した機器は2017年末から登場するものと見られている。

「スマホ的使い方」がPCのニーズを変える

 PC=x86系、PC=インテル+AMD(現在は、AMDの比率はかなり減ってしまったが……)という図式は、もう25年近く続いているものだ。「ウィンテル帝国」とまで言われた強固な関係だが、今回の方針転換により、大きな変化がもたらされる。

 なぜそのような変化をマイクロソフトが必要としたのか? マイヤーソン氏は次のように説明する。

 「顧客のニーズは広がっている。エンタープライズ向けのセキュリティが重要な部分や、ハイパフォーマンスPC、ハイパフォーマンスゲーミングなどでは、やはりIntelが向いていることに変わりはない。一方で、特に若年層を中心に、アイドル時の消費電力が低く、ワイヤレスネットワークとの親和性が高いデバイスを求める声もある。すべては顧客の選択だ」(マイヤーソン氏)

 Windowsのタブレットもあるが、それをiPadやAndroidタブレットと「まったく同じ」ように使えるか、というと、若干違うのが現状だ。携帯電話回線は低価格化しており、タブレットにはSIMを入れておいて、どこでも自由に通信できることが求められている。Windowsタブレットの場合、「スマホのようにスリープ中でもメールやメッセージを常に着信し続ける」のは、出来ないことではないが苦手で、iPadに比べ使い勝手で劣る。

 だが、QualcommのSnapdragonを使い、Snapdragonの価値をWindowsで完璧に活かせるようになれば、話は別だ。スリープ中のバッテリー消費も減り、通信待ち受けの精度も上がる。場合によっては、「ハイエンドスマートフォンでPC用のアプリがそのまま動く」ものも開発しうる。

 具体的に予測すれば、2017年に登場する、価格が10万円を切る「キーボード脱着式のタブレット(PCの世界では2-in-1と呼ばれる)」に、Snapdragonを使ったものが出てくるだろう。登場時期は2017年末なので、数が増えるのは2018年だが。例えば、マイクロソフトは「Surface」という2-in-1 PCを発売しているが、このローエンドモデルである「Surface 3」の後継機種は、Snapdragon版になるのでは……と予測できるわけだ。

2017年末には「これ一台ですべてができる」製品が登場

 とはいうものの、実際には難題や疑問も多数ある。

 まずはパフォーマンス。CPUの違いを吸収しながら動くので、より高い性能でないと「まったく同じ速度」で動かすのは難しいようにも思える。デモでは十分実用的に見えたが、実際どうなのかは、まだわからない。

 とはいえ、ここについては、筆者はさほど心配していない。本当にハイエンドなPCとの比較であればともかく、数万円台のPCに使われるものであれば、もはやARMとx86に処理速度の差はあまりない。CPUの違いを吸収する「トランスコード」の技術は進歩しており、ここは多くの人が危惧するほど問題にはならない。

 一方で、「本当に差別化できるのか」は疑問も残る。

 Snapdragon版Windows 10に求められるのは「軽くて低コストで気軽に使えること」だ。一方、パフォーマンスの良いプロセッサーは、Snapdragonといえど高い。だからハイエンドスマートフォンが高価である。結局、インテル版のCPUを使った製品と、価格や性能では大きな差が出ず、Androidタブレットと比較すると、価格面では不利になるのでは……という予想もできる。

 だが、「これ一台でPCの仕事もタブレットに求めることもこなせる」製品は非常に魅力的だ。

 答えは製品が見せてくれる。ちょうど一年後に出る「Windowsタブレット」がどうなっているかに注目だ。

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