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数年後を見据えたトヨタのコネクテッドカー戦略:全てのクルマが通信端末になる未来へ

増谷茂樹

2016/11/24(最終更新日:2016/11/24)


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 通信モジュールを搭載し、ネットワークに常時接続されたいわゆる「コネクテッドカー」が増え続けている中、TOYOTA(トヨタ)は今年4月に専門部門である「コネクティッドカンパニー」を設立。コネクテッドカー時代に向けて大きく舵を切った。

 そして、先日「トヨタConnected戦略」と題した説明会を開催したので、そこから見える同社の戦略とクルマ社会の今後を占ってみよう。

「コネクティッドカンパニー」設立の意味

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 トヨタでは、既にレクサスブランドのクルマに「DCM(データ・コミュニケーション・モジュール)」と呼ばれる通信モジュールを搭載しているが、今後はトヨタブランドの量産車にも標準的に搭載し、2020年には日米で販売するほぼ全ての乗用車に標準搭載すると発表。

 同社のコネクティッドカンパニー プレジデントである友山茂樹氏の言葉を借りると「トヨタは年間数百万台のクルマを作っている会社ではなく、数百万の顧客との接点を毎年世界中に創出する会社になる」ことになる。
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 通信インフラについてはKDDIと共同で「グローバル通信プラットフォーム」を構築し、国や地域ごとに選定した通信事業者へ自動接続される。

 また、クルマから収集されるビッグデータの集約や活用については2016年1月にマイクロソフトと共同で北米に設立した「TC(Toyota Connected)」社が当たり、同社は人口知能の研究機関である「TRI(TOYOTA RESEARCH INSTITUTE)」とも連携しながら進めるという。

クルマの状態を管理してトラブルを予知

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 ではクルマがネットワークに接続されることで、どのようなサービスが可能となるのだろうか? 1つはクルマの情報をセンターで管理できるようになるため、先回りしたユーザーサポートが可能となる。

 例えば、国内モデルとして先行してDCMを搭載する「プリウス PHV(プラグインハイブリッド)」で提供される「eケアサービス」では、車両トラブルが起きた際にはオペレーターに電話に電話をかけることが可能。そしてオペレータ側でも車両の状態をリアルタイムで確認しながら、ユーザーに対処法を案内することができる。
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 説明会の当日に行われたデモでは、どういったトラブルが起きていて、車両は走行可能か否かの確認から、最寄りのサービス工場への連絡と入庫の案内までがスムーズに行われ、最後はサービス工場へのルートをカーナビに自動設定されていた。

 また、実際にトラブルが起きる前に車両データの解析から故障や不調などを予知し、メールで入庫点検を促すといったケアも可能になるという。

ビッグデータを活用したサービス

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 多数のクルマの走行状況を反映したビッグデータを活用した新たなサービスやビジネスも可能となる。既に走行しているコネクテッドカーからの情報で、リアルタイムの交通の流れや混雑状況はデータ化されているが、今後ネットワーク化された車両が増えれば車線ごとの混雑状況まで交通情報として提供できるようになると見込まれる。

 車両のABSの作動状況なども把握できるので、どこの道路が凍結しているかといった情報も提供可能となるという。当日は、都内のリアルタイムの交通状況に加えて北海道札幌市で初雪が降った日の路面凍結状況を地図に重ね合わせた映像も表示された。
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 また、ビッグデータを管理する「トヨタスマートセンター」の上位に、そのデータを活用して様々な企業やサービスとオープンに連携するための「モビリティサービス・プラットフォーム」を構築。連携する企業・サービスとしては保険会社やカーシェア・ライドシェア事業者、レンタカー事業者や官公庁などを視野に入れている。
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 例えば、保険会社との連携については昨今増えつつあるテレマティクス保険へのソリューション提供を想定し、そのための新会社「TMIS(Toyota Insurance Management Solution USA)」を2016年4月に設立。

 テレマティクス保険とは、契約者の運転データをもとに事故のリスクを測り保険料を設定するもので、クルマのネットワーク化によって実現した保険。このタイプの保険向けに、契約者ごとの走行データを収集・解析し、スコア化して保険業者に提供するのが「TMIS」の目的だ。ユーザー側としては、安全運転するほどスコアが向上し、保険料が安くなるのが安全運転へのインセンティブとなる。

ライドシェアとの連携で新たなビジネスを創出

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 Uberに代表されるライドシェア事業者との連携を強めている点も注目すべきポイント。Uberはドライバーが自分のクルマを使ってユーザーを目的地まで届けるライドシェアサービスを提供しているが、最近はこの事業を行うためにクルマを購入するドライバーも増えている。

 そのため、トヨタではこうしたライドシェア事業を行うドライバー向けに専用のリースプログラムを用意。クレジットカードで支払われる利用料からリース料を天引きの形で回収し、車両の走行データはUberのドライバー評価や保険アルゴリズムにも反映させる。

 トヨタは2016年5月にUberとのライドシェア領域での協業を検討することを発表しており、Uberに対する出資を行う旨も公表している。このリースプログラムを採用したパイロットサービスについても、12月からUberとともに開始するとしている。

 以前は、ライドシェア事業は自家用車を所有する人口を減らし、自動車会社にとってはマイナスに働くサービスと見られていたが、コネクテッド・カーを活用することで、こうしたモビリティサービスとも連携を強めていく考えだ。

カーシェア向けのスマートキーボックスも開発

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 また、北米や国内でも拡大しているカーシェアリング事業者に対しては、課題となっているクルマのキーの受け渡しをスムーズにするための「SKB(スマートキーボックス)」を開発。

 前述の「モビリティサービス・プラットフォーム」を通じて利用者のスマートフォンのSKB専用アプリに暗号キーを配信し、そのキーを車両に搭載されたSKBで認証することでカーシェアに使用する車両のキー操作を可能とする仕組みだ。
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 従来のカーシェアサービスではコンソールボックス内に物理的なキーそのものを収納し、利用者同士で共有するシステムが主流だったがキーを持ち去られたり、利用者が忘れて持ち帰ってしまうリスクが存在した。SKBは暗号キーを使うことでそうしたリスクをなくし、専用のサーバーを使うことでセキュリティ面での課題も解消している。

 トヨタは10月に北米のカーシェア事業者Getaround社との提携を発表しており、同社によってSKBを使用したパイロットサービスを2017年1月より北米でスタートさせる。

 クルマのネットワーク化(コネクテッド化)は、自動運転とともにクルマ業界を大きく変える契機になるといわれているが、その先に展開されるビジネスの可能性や、ユーザーが享受できるサービスの形については見えにくい状態が続いていた。

 業界の盟主であるトヨタが、このような形でコネクテッドカーについての戦略と、サービスの可能性を示したことでクルマのネットワーク化を巡る動きはさらに活発化しそうだ。

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