1. THE IMPRESSION|俳優・細川茂樹が本音で語る「ビジネス哲学」

THE IMPRESSION|俳優・細川茂樹が本音で語る「ビジネス哲学」

 俳優として活躍するかたわら、投資家、会社経営者としての顔も持つ細川茂樹さん。生き馬の目を抜く芸能界、そして熾烈な市場競争をサバイブしてきた経験から、彼が培ったビジネス哲学とは? ビジネスマンにも役立つマインドセットを、インタビューでお伝えしよう。

哲学1:仕事は、そこまで重要なものではない

——細川さんにとって、“仕事”とはどんなものですか?

細川:2、30代の方は、“仕事とはこういうもの”という固定概念を抱いていると思います。確かに、僕もそうでした。でも、それが行き詰まりの原因なんです。仕事は、食べることや寝ること、趣味と同じようなもの。生活の一部にすぎません。そこまで重大なものだと思わないほうが、気楽に過ごせるのではないかと思います。

固定概念に縛られると、なにかとつらくなるんですよね。「俳優だからこうあるべき」「タレントはこうだ」ととらわれるのではなく、ただ目の前の仕事に責任感を持てばいい。そのほうが気楽でいられると思います。

——目の前の仕事に大切にすることが大事なんですね。

細川:特に、僕らの仕事はそうです。僕の肩書は“俳優”です。でも、そこにこだわっていると活動の幅が狭まるんですよね。僕は早い頃からバラエティ番組に出演し、ここ数年は「家電を紹介してください」「料理を披露してください」と言われることも増えてきました。要は、人が求めるものにどれだけ柔軟に対応するか。これに尽きると思います。

——デビュー当時から、こうした考えだったのでしょうか。

細川:いや、葛藤はありましたよ。昔は、番宣(出演番組の告知のために他の番組に出演すること)も嫌でした。俳優は台本、つまり脚本家が作った言葉で仕事をするわけですから「フリートークなんて無理無理」と思っていました。

でも、ひとつの作品には多くのスタッフが携わっていますが、それを宣伝できるのは出演者しかいないと気づいたんです。だって、僕のマネージャーが番組に出て宣伝するわけにはいかないじゃないですか(笑)。そういったことが、ひとつずつわかってきて。求められるものにどれだけ柔軟に、できれば先方のイメージを損なわずに表現できるか。要は人に合わせられるか。それが重要なんだと思います。極論を言えば、自分を持たないってことですね。ビジネスマンの方々も、2、30代でそれができれば未来は明るいですよ。

哲学2:自己評価だけでは、前に進めない

——若手ビジネスマンの中には、「簡単な仕事しか任せてもらえない」「いい仕事が回ってこない」と悩んでいる方も多数います。そういった方へのアドバイスはありますか?

細川:その気持ち、よくわかります。確かに「俺はこんなもんじゃない。もっと大きな仕事を任せてほしい」って思いますよね。でも、どんな職種でも積み重ねが重要です。まず挨拶ができないと使ってもらえない。それをクリアしたら、次は簡単な雑用。そうやって他人の信用を勝ち取るわけです。評価は他人が下すもの。「俺はもっとできる」という自己評価だけでは、前に進めないんです。

——確かに、社会では他人の評価が重要です。そうなると、良い上司に恵まれることも重要になりそうですね。

細川:そうですね。僕の場合、所属プロダクションの社長に出会えたことが大きかったです。僕の個性を理解してくれて、会った時から「しげちゃん、しげちゃん」って呼んで(笑)。仕事に口を出すこともなく、「ダメだったらなんとかすりゃいいじゃん」という考え方。しかも、人徳があるんですよね。「この人とだったら一緒にやっていきたい」と思わせてくれますし、「社長が喜んでくれる仕事をしたい」と思うようになりました。こんな人がトップにいるのは、恵まれているなと思います。2、30代の方も、尊敬できる上司、トップに恵まれれば、仕事を大切に思えるでしょうし、長続きもすると思います。

——そういう方に出会うには、運も必要なのでは?

細川:たくさんの上司がいる中で、「この人には理解してもらいたい」もしくは「この人が言うことなら耳に入ってくる」という人を見つけるのが近道だと思います。そうしたら、とにかく相談する。臆することなく「お時間いただけますか?」と、話す機会を作ってもらう。「僕の話を聞いてほしいんです」と頼られると、人はうれしいものですよね。相手とも良い関係を築くことができます。会社組織なら、同僚ではなく上司の中にそういう人を見つけられるかが重要。そうなれば、未来も拓けてくると思います。

——そのうえで、一人前と認められるにはどうすればいいでしょうか。

細川:「認められよう」なんて、考えなくていいと思いますよ。他人の評価は自分では決められないので、意識したらつらくなると思います。

どんなに高い料理だって、お客さんの口に合うかがすべてでしょう? お客さんがどんな感情を抱くかどうかが価値が決まります。5万円の寿司屋よりも、回転寿司のほうが「プロだな!」思うこともあるじゃないですか(笑)。ただ、責任感を持って自分の仕事を果たせば、評価は人任せでいいと思います。

哲学3:命にかかわる問題以外は、トラブルとは思わない

——仕事にはトラブルがつきものです。細川さんは、円滑にプロジェクトを進めるために心掛けていることはありますか?

細川:ドラマの撮影には、トラブルが多いんですよね。以前、共演している女優が「テーブルの上にあるコーヒーが気に入らない」と言い出し、撮影が中断したことがありました。彼女は「私が演じる役柄は紅茶を飲む人物。なのに、なぜコーヒーなんだ」ってえんえんスタッフに抗議して。僕は面白おかしく聞いていますが、周囲のスタッフは「機嫌を損ねてしまった」「このまま帰っちゃうんじゃないか」とひやひやしていたようです。

でも、極論を言えば、命にかかわる問題でなければどうってことないんです。そう思わないと、僕らの仕事はやっていられませんからね。トラブルなんて、いつか解決します。初めて来た場所で道に迷っても、最後には目的地にたどりつくでしょう? 30分、1時間遅れるかもしれませんが、大したことではありません。トラブルをトラブルと思わない、それぐらいの気持ちでいいと思います。

——とはいえ、間違えてコーヒーを置いたスタッフは「失敗したな」と思いますよね。ミスから立ち直るためのメンタルの強さは、どのようにして培いましたか?

細川:僕らの職業は体力も必要だし、セリフも頭に入れることも大切。なおかつ、メンタルが強くないとやっていけません。特に、テレビに出て不特定多数の方に見られるわけですから、メンタルの強さは重要です。

僕も『仮面ライダー響鬼』の主演が決まった時には、さんざん叩かれました。これまでは20歳ぐらいの若手が演じてきたのに、30歳をすぎた僕がライダーになるわけですから「何このおっさん」「手垢がついてる」と辛らつな意見もいただきました。マスコミも「おっさんライダー」なんて見出しをつけましたからね。今は笑って話せますが、当時は嫌な思いもしました。

でも、いくら僕が「この役をやりたいです!」と言っても、オファーが来なければその役を演じることはできません。ありがたいオファーだと、気持ちを切り替えることにしました。

他人は、好き勝手なことを言うものです。それをすべて受け止めることはありません。「こんなことを言われた」「こんな顔された」「こんなふうに見られているんじゃないか」って、気にしていたら自分がまいっちゃいますから。失敗を失敗だと認めた時に、メンタルが弱っていくんだと僕は思います。

先ほどのコーヒーの話にしても、失敗だと思わなければいい。「僕がコーヒーを淹れたから、女優さんが怒ってしまった」と考えた時点で負け。ただし、誠意と真心は示さなければなりません。「コーヒーではダメでしたか。それなら、すぐに紅茶を買ってきます」と行動することが大切。そうすれば「じゃ、今度から気をつけろよ」と言われて、それで終わりになるはずです。

自分を一番応援しているのは、自分です。それなのに自分を責めてばかりいたら、自分を応援してくれる人は誰もいなくなってしまいます。失敗してもただ自分を責めるのではなく、相手に真心を示し、自分の気持ちを盛り上げることが重要だと思いますよ。

哲学4:自分自身を傷つけない

——今の2、30代は、転職をする人が多いんです。その反面、職場に不満を抱きながらもなかなか転職できずにいる人もいます。両者に向けたアドバイスをいただけますか?

細川:まず、何度も転職を重ねる人に対して。やりたいことを追求し、条件や環境を変えるために転職をするのは素晴らしいことだと思います。その一方で、「え、この会社は半年しか続かなかったの?」「ここも1年で辞めてるの?」と評価されてしまうのも事実です。次に雇う人、面接をする人が、どういう判断をするか。そのリスクがあることは認識しておいたほうがいいと思います。

次に、転職をしたいけれどできずにいる人に対して。同じ職場に居続けるのも、ひとつの手だと思います。我慢強さ、忍耐力は養われますからね。ただ、自分が壊れるまでその会社にいる必要はありません。自分を守る意味でも、精神衛生面を考えて職場を選ぶことが大切です。

新しい環境、新しい条件で仕事をするのも、ひとつの突破口。同じところでコツコツ積み上げ、立場を築くのもまた違う形の突破口。いずれにしても、自分の居場所を作り、立ち位置を見出した人が強いんじゃないかと思います。

僕も30代のはじめ、40代の手前の2回、「今なら辞めてもまだ間に合うかな」と思ったことはありました。そんな中で自問自答しながら、「動いたほうがいいのかな」「まだとどまったほうがいいのかな」と考えて。動くならどんなリスクがあるのか、とどまるならどうやって環境を変えるか、その都度考え、今に至っています。今僕が話していることは、若い人にはまだピンと来ないかもしれません。でも、結局は自分自身を傷つけないよう行動するのが一番だと思います。


 華やかな芸能界に身を置きながらも、地に足をつけて確固たる地位を築き上げてきた細川さん。そのビジネス哲学には、経験に裏打ちされた重さとある種の達観がにじんでいる。人生の先輩の言葉として、U-NOTE世代にもきっと刺さるはず。目から鱗のビジネス哲学を、ぜひ実生活に役立ててほしい。


INTERVIEW/TEXT:U-NOTE編集部
PHOTO:松浦文生
衣装協力:45R(フォーティファイブアールピーエムスタジオ)

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