1. 韓国・朴大統領退陣へ100万人超の抗議:怒りの矛先は50年経っても残る独裁政権の亡霊へ?

韓国・朴大統領退陣へ100万人超の抗議:怒りの矛先は50年経っても残る独裁政権の亡霊へ?

韓国・朴大統領退陣へ100万人超の抗議:怒りの矛先は50年経っても残る独裁政権の亡霊へ?
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 11月12日、韓国ソウルの中心街が朴槿恵(パク・クネ)大統領に抗議する人々でびっしりと埋め尽くされた。「ろうそくデモ」と呼ばれる集会に集まった人の数は、主催者発表で126万人。今年、日本で大きく取り上げられた日米安保関連法案に抗議するデモでも、多くて10万人程度だ。そう考えると、今回の韓国でのデモは相当な異常事態だということがわかる。

 なぜこれだけの国民が怒りをあらわにしているのか。本記事では今回の騒動の原因になった朴大統領のスキャンダル、そして韓国政治に未だ残る闇の部分を紐解いていきたい。

史上最大のデモ、史上最低の支持率

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 スキャンダルが発覚したのは10月24日のこと。朴槿恵大統領の古くからの親友だとされる崔順実(チェ・スンシル)氏に機密文書を渡していた疑いが報道されたのだ。このスキャンダルを受けて、国民の現政権に対する怒りが爆発することとなった。

大統領演説、国家予算、国民体操

 朴大統領に対する非難が相次いで報道されている。大統領演説の原稿や国家予算、官僚の人事、外交などに関する機密文書を流出させていたというのだ。疑惑の数は膨大であり、報道が事実だとすれば崔氏は国政に深く介入していたと見られる。

 事態の深刻さから朴大統領は翌日25日にすぐさま謝罪会見を開いた。朴大統領は「辛かったときに助けてくれた」と話し、国政に崔氏が干渉したことを認めている。

 問題が公になると、様々な業界に疑惑が飛び交うことに。国の文化事業である国民体操も崔氏の利権温床だというのだ。2014年に発表された韓国の国民体操である「ヌルプム体操」は、その不自然な制作過程から度々議論されてきた問題である。

 当初は2年の制作期間と2億ウォン(約1,900万円)以上がかけられた「コリア体操」が、国民体操になるはずだった。しかし、直前になってヌルプム体操に差し替えられることとなる。

 このいかにも怪しいヌルプム体操は今回のスキャンダルが報道されると同時に、不正な利権行使の一つではないのかと報道され始める。疑惑の犯人に取りざたされたのが体操の製作者であるミスコリア受賞経験のあるチョン・アルム。だが、自身のブログで制作過程の詳細を知らないことを公表する。

 そこで新たに浮上した人物が崔氏と密接な関係であるとされるチャ・ウンテク映像監督。3億5,000万ウォン(約3,200万円)もの追加予算の一部が崔氏が運営する映像会社に入ったというのだ。問題は、大統領が国民体操の決定に関わったかどうかだ。もしも崔氏のために朴大統領が一役買っていたのならば、権力濫用問題になってくる。

崔氏の資金集めのために朴大統領が尽力

 朴大統領への疑惑はこれだけでは終わらない。崔氏の財団の資金集めに寄与していたというのだ。問題が明るみに出たのは9月下旬。「文化やスポーツ分野の人材を育て、海外市場を開拓する」というポリシーを掲げる「ミル」と「 Kスポーツ財団」に、大手財閥が日本円で約80億円もの巨額の投資をしていたことが判明した。

 この資金集めを主導したのが、日本の経団連に当たる組織「全国経済連合会」であることも波紋を呼ぶ一因になる。さらに、大統領府から投資に関する指示が行われていたことが明るみになり、さらなる非難が大統領に浴びせられることになった。

 他に、財団の設立審査にも不正の疑いがかけられている。韓国で財団を設立するには、通常1カ月ほどかかる。だが、この2つの財団にはわずか一日で認可が下りたという。

 スポーツを扱う財団になぜ大統領府が全国経済連合会に指示を出し、行政が異例のスピードで設立を認可したのか。そこで浮上したのが崔氏の存在である。この財団の運営に崔氏が大きな影響力を持っていることが明らかになったのだ。財団に集まった資金は崔氏の個人会社に流れ、自らの懐の肥やしにしていたと思われる。

朴大統領の支持率は急降下

 これらの報道が事実だとすれば、崔氏は朴大統領を裏から操ることで、国政へ介入し、巨額の資金を手に入れていたことになる。そして、朴大統領は極めて私的な事情から、大統領権限を使用していたことになるのだ。

 もちろん国民は黙っていない。不祥事が明らかになってから複数回のデモが行われ、冒頭に述べた12日のデモでは100万人以上が集まった。

 大統領支持率にも国民の怒りの声が反映されている。4月の地方選挙での敗戦以降、朴大統領の強固な固定支持層とされるコンクリート層である30%近辺をさまよっていた支持率が、今回のスキャンダルを受けてみるみるうちに下落した。11日発表のギャラップ社による世論調査では、全体で5%、19〜29歳の若年層では支持率0%という政権発足以来、最低の支持率となった。

 この極端に低い支持率の低さは、今回のスキャンダルの深刻さも関係するが、同時に朴槿恵大統領の4年間の実績があまりに乏しいことも影響している。中国、アメリカどっちつかずの外交政策や機能しなかった独自の経済政策にスキャンダル以前から不満を抱いていた国民も少なくない。

朴大統領の私利私欲な政治は許されない


 政権を影から牛耳っていた人物、崔順実。朴大統領の親友とされる崔氏は一体何者なのか。朴大統領と崔氏の人物像を追っていくと、韓国政界に未だ残る亡霊、そして国民が何に怒りをぶつけているのかがわかってくる。

国民に残る特権階級への怒りが再び

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 朴大統領と崔氏の関係を語るには、両氏の親まで話を遡る必要がある。朴大統領の父親は、元大統領の朴正煕(パク・チョンヒ)。そして崔氏の父親は、朴正煕と密接な関係を築いていた崔太敏(チェ・テミン)だ。

 朴正煕は1961年に軍事クーデターで政権を奪ってから、軍事政権をしいた大統領である。当時、第二次世界大戦、朝鮮戦争の停滞から抜け出せないでいた韓国を急激に経済成長させたことから、韓国史上でもっとも評価されている大統領の1人である。一方で、経済政策を最優先した強権的な政権は今でも非難されている。

 そんな時代に崔太敏は朴正煕に近づき、その権力を自らの利益のために利用する。崔太敏は独裁政権に蔓延していた公私混同の権力濫用の恩恵に預かった人物であった。このように富を築いた特権階級は国民の妬み、怒りの対象であり、朴正煕政権が批判された要因の1つだ。

 朴家と崔家の関係はここから始まった。同年代の朴大統領と崔氏が知り合うことになったのも容易に想像できる。その後、両親を暗殺され傷心の朴大統領の心の支えになったのが崔だと言われている。その存在は50年の年月を経てさらに大きくなっていった。

 朴正煕の独裁政権は1979年に暗殺されるまで続く。政権が倒れてからは、学生を中心に民主化運動が盛り上がり、1987年に民主化を果たした。韓国はこのようなにして遠い過去とは言えない暗い時代を持っているだけに、権力や独裁というワードに敏感なのである。

 そこで今回のスキャンダルだ。独裁政権の悪行を思い起こす要素がいくつも含まれている。しかも当時の民主化運動を知る人々がたくさんいる現在の韓国で、選挙で選ばれた以外の人間が政治を操っていたことは国民の逆鱗に触れた。

 さらに崔氏の娘に裏口入学の疑惑も発覚。国民にとって、民主化された現在に残る悪質な特権階級は何より許せないことだろう。

 類を見ない大規模な国民の抗議は、単に朴大統領が責務を果たさなかったことだけにあるのではない。独裁政権時代の亡霊が現代の権力構造に入り込んでいることが、国民の憤りを生んだことは間違いない。

スキャンダルを起こした歴代大統領の悲劇

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 スキャンダルによる求心力の低下により、完全にレームダック(死に体)となった朴槿恵政権。実は、韓国の歴代大統領を見ると、今回のケースのように極めて私的なつながりからスキャンダルを起こしてきた例が少なくない。そして、当事者である大統領、その親族や即金まで悲劇にあってきた歴史がある。

 朴大統領の父親である朴正煕もその1人だ。前述したように朴正煕は、政権に反発した側近から銃殺されている。また、妻である陸英修(ユク・ヨンス)もその4年前に、朴正煕を暗殺するために放たれた弾丸によって死亡しているのである。

 最近では、李明博前大統領(上写真)のスキャンダルにより、悲劇を迎えることになった。実の兄と側近が金融機関や企業から不正資金を受け取ったとして逮捕されたのが始まりだ。

 李明博本人は、買収した土地の名義が本人でないこと、価格が同じ地域の他の土地よりも安かったことなどから政府が肩代わりして土地を購入したのではないかと疑惑が浮上。大統領職を終えてから次々と告訴、告発されることになる。

 前述した2人のように歴代の大統領の半数近くが普通の辞め方をしていない。過去の慣例が当てはまるのならば、朴大統領もタダで済むことはないだろう。

 
 来年民主化30年を迎える韓国にとって、今回のスキャンダルほど皮肉なことがあるだろうか。独裁政権時代、権力を濫用していた大統領と利権を貪っていた特権階級の娘たちが、50年前と変わらない権力構造を築いていたというのだ。

 朴大統領の対応もそうだが、今後の韓国が成熟した民主国家としてどのように変わっていくのか、韓国国民だけでなく世界が注目している。

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