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国際規格化で世界にNATTOを:日本納豆と知られざるアジア納豆

Mayuko Ono

2016/11/10(最終更新日:2016/11/10)


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国際規格化で世界にNATTOを:日本納豆と知られざるアジア納豆 1番目の画像
出典:www.japanesecooking101.com
 日本の伝統的な食材として有名な“納豆”を守るべく、農林水産省は納豆の国際規格化に踏み出した。健康効果なども注目される納豆だが、実は日本だけの食材ではない。今回は知られざる「アジア納豆」と日本における納豆の歴史を追っていこう。

世界が認める日本食品“納豆”へ

納豆の国際規格化

 2016年5月農林水産省は、日本の伝統的食材である“納豆”のブランドを守るため、食品の国際規格を作るコーデックス委員会に納豆の規格策定を求める方針を固めた。

 このコーデックス委員会は、消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1963年にFAO及びWHOにより設置された国際的な政府間機関であり、国際食品規格の策定等を行っている。国際食品規格自体は罰則も強制力も持たないが食品を巡る国際紛争が起きた際、世界貿易機関は有力な判断基準にするという。

 納豆が国際規格化された場合、規格と異なる原料や手順で作った食品を「納豆」として製造・販売することを事実上止めることができ、日本では「インスタントラーメン」が唯一採用されている。

 国が納豆の規格化に踏み出した背景には、2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことが大きく関係しているという。ユネスコに登録されたことで日本の伝統食への関心が高まり、現地の外国人が購入するようになったという流れだ。実際に、納豆の輸出量は年々増え、2012年には約600トンだったのに対し、2015年には700トン以上にまで増加した。

日本が提示した納豆の定義

  • ①日本の伝統的な大豆発酵食品
  • ②蒸し大豆を納豆菌で発酵させたもので無塩
  • ③攪拌(混ぜること)によって白濁し、特異の粘性物質が確認できるもの
 納豆の国際規格が承認されるのは早くても2021年で、これまでに醤油の規格化が断念されたことなどの事例から簡単ではないと予想されている。

日本の納豆の健康効果

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出典:www.japanesecooking101.com
 ここでは日本の納豆1パック(約50g)に含まれる主な成分の健康効果について見ていきたい。

①大豆イソフラボン

 納豆1パックには、大豆イソフラボンが65mg含まれており、日本人の1日の平均摂取量は18mgと言われている。1パック摂取するだけで、3倍上回る量を摂ることが可能なのだ。大豆イソフラボンは女性ホルモンであるエストロゲンと似た性質があり、髪や爪にツヤやハリを与え、コレステロールの増加を防ぎ、動脈硬化を予防する効果がある。

②ミネラル

 納豆1パックには、カルシウム(ヨーグルト1/2パック分)、鉄(牛レバー約40g分)や、マグネシウム(牡蠣約3個分)が含まれているため、骨の強化やエネルギー代謝を助ける効果も期待されている。

③食物繊維

 納豆1パックには、約ニンジン1本分の食物繊維が含まれており、食物繊維には、胃の調子を整え、便秘や宿便を予防する効果の他、体内での食べたものの移動速度と、小腸での糖分の消化速度を遅める働きがある。

日本だけでなかった! アジア納豆の世界

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出典:nattosphere.com
 「外国人=納豆嫌い」という固定観念をもつ読者も多いのではないだろうか。しかしながら、世界には納豆によく似た食べ物が数々存在している。「納豆は日本の伝統的な食べ物」と決めつけてしまう前に、日本における納豆の歴史とアジア納豆の世界を見てみよう。

日本の納豆の歴史

 日本の納豆の起源に3つほどの説がある。1つ目の説は「弥生時代説」である。大豆などの豆類の栽培が始まった弥生時代では、土器と火を使い煮て豆を食べていた。その際大豆が落ち、住居に敷いてあった藁の上で自然発酵し、納豆になったとされている。この説が最有力とされている。

 2つ目の説は、「聖徳太子説」である。この説は、聖徳太子が愛馬にエサとして与えていた煮豆の余った物を、もったいないという理由で藁に包んでいたら、自然発酵して納豆になったという説である。

 最後の説は、「戦時中説」である。この説は、遠征して戦争をしていたときに長期戦になり、近くの農民に食料を提供するように命じた際、農民たちは大豆を煮て、藁に包んで献上した。それが数日経ち自然発酵し、納豆になったという説である。

 また、納豆の商品化が始まったのは江戸時代と言われており、納豆に合う醤油の製造も始まったとされている。当時、納豆は今と同じように朝食の定番になっており、「ナットナットナットー」という掛け声で売り歩く納豆売りと言う商人もいたと言われている。

アジアの納豆の世界

 日本特有の食材と認識されがちな納豆だが、日本のみならず、アジア全体で食されており、その範囲は、ミャンマーや中国南部、ラオス、タイ、インド、ブータン、さらにネパールにまで及ぶとされていて、広大な地域で様々な民族が納豆と同様の食材を食べているという。

 納豆を食す文化の中には、ミャンマーのシャン族やパオ族のソールフードとされている「せんべい納豆」というパリパリとした触感のせんべい状の納豆や、「基石納豆」といった分厚く、汁物に入れて食する納豆などがある。この様に世界には、日本の納豆とは違った食べ方や歴史を持つものが数多く存在する。

 また、納豆を食す文化が定着している地域に共通するのは、内陸部の山岳地帯や盆地だということだ。動物の肉や魚、塩、油が入手しづらい土地で納豆の文化が発達したと言われている。納豆は貴重なタンパク源でもあり、うまみ調味料としても活用されている。

世界のおもしろ納豆

中国発祥「豆鼓」

 中国雲南省には、「豆鼓」(トウチ)という食品がある。色が黒く、塩気が効いており、味は塩辛納豆に近いものだという。日本の浜納豆や大徳寺納豆などの寺納豆によく似ており、これらは中国の豆豉が奈良時代に日本に伝わったものとされているそうだ。

 豆鼓はそのまま食べるというよりは、調味料として使われることが多く、日本でも豆鼓に香辛料を加えて「豆鼓醤」として売られている。 

インドネシア発祥「テンペ」

 インドネシアの「テンペ」は、白いカビで覆われており、糸は引かない納豆。日本の納豆は、ワラに包んで出来ているが、テンペは煮豆をバナナの葉に包んで作られるという。つくね揚げやハンバーグステーキにしたり、卵でとじたり、加熱して食べることが多いそうだ。

ネパール発祥「キネマ」

国際規格化で世界にNATTOを:日本納豆と知られざるアジア納豆 6番目の画像出典:antypasti.com
 ネパール発祥と言われている「キネマ」は日本の納豆と似ていて、粘りのある糸を引くのが特徴である。臭いは日本の納豆よりもきつめで、豆の触感も固めだという。味噌のような調味料として使われることが多く、スープに入れたり唐辛子と合わせて和え物にして食べるのが一般的だそうだ。


 和食ブームを追い風に海外での消費拡大を狙う日本は伝統食材とされる納豆の国際規格化に踏み出したと上述してきたが、中国ではすでに健康や美容に良いという評判から若い女性や富裕層を中心に日本の納豆が浸透しつつあるという。

 だが、中国では浸透しつつある半面、大豆ではない豆を原料としたり、納豆菌ではない菌で発酵させた商品を「納豆」と名乗り、売り出されるという問題も起きている。日本の伝統的な製法だからこそ、うまみと高い栄養価が育まれるのであり、違った製法で作られた納豆の存在排除しなければ、納豆のブランド価値が崩れてしまうとも言われている。

 納豆の国際規格化が認められるには、インドネシアや、中国などアジアで納豆に似た大豆発酵食品が昔から存在するということも踏まえた上で、経済的な利害だけを考えるのではなく、他国の食文化を尊重しつつ日本のオリジナルを守るということが今後の課題になってくるだろう。より多くの外国人が日本の伝統的なおいしい納豆を口にする機会を増やすためにもぜひ納豆の規格化が実現してほしいものだ。

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