1. 通勤特急・複々線化…東京に密集する私鉄たち:沿線価値向上のため、熾烈な争いがスタート!

通勤特急・複々線化…東京に密集する私鉄たち:沿線価値向上のため、熾烈な争いがスタート!

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by Rob Ketcherside
 今、東京の私鉄が大きく変わろうとしている。渋谷駅の地下化で大きく話題を呼んだ副都心線の相互直通運転から3年。2016年は新たなサービスに向けて各社がさまざまなビッグニュースをリリースした。

 それぞれ路線のニーズに合わせたサービスの変化は、今後人の流れをどう変えるのかーー。そして、利便性そのものの向上と「職」と「住」の関係の変化で今後どのような役割を果たしていくのか、路線図を片手に俯瞰していく。

東京の私鉄まとめ

 首都圏の私鉄は、ほとんどがJR山手線の駅を起点とし、それぞれが東西南北に伸びていく形となっている。各私鉄ごとの特徴や近年のトピックスをまとめてみた。

東武鉄道

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by : : Ys [waiz] : :
 主な区間はスカイツリーライン(伊勢崎線):浅草〜東武動物公園と東上線 :池袋〜寄居の2路線が挙げられる。東武動物公園駅から先は日光方面へと繋がっている。草加、越谷、春日部、朝霞といった、埼玉県方面から都心方面への輸送に広く役割を果たす。

 歴史、総営業距離ともに大手私鉄各社の中で最も長い。日光方面の特急が運行されており、JR池袋・新宿駅への直通運転も行う。

 スカイツリーラインでは東京メトロ日比谷線・田園都市線、東上線は副都心線を経由して有楽町線のほか、東急東横線・みなとみらい線の元町・中華街駅まで相互直通運転をしている。

 2015年に、直通する日比谷線の新型車両と同時に「70000系」の製造、および新型特急車両「500系」を発表している。

小田急電鉄

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by okazunori
 新宿駅と小田原駅を結ぶ小田原線、途中新百合ヶ丘駅から唐木田駅ヘ向かう多摩線、相模大野駅から片瀬江ノ島駅へと向かう江ノ島線がある。

 路線距離が長いだけに、輸送エリアも東京の世田谷区周辺から町田市、そして相模原、海老名、厚木といった神奈川県下はほぼ全域、そして湘南地域までとかなり幅広い。東京メトロ千代田線との相互直通運転が行われており、箱根・江ノ島方面には特急「ロマンスカー」が運行されている。

 2017年度には、東北沢〜世田谷代田間の地下化完了をもって約30年近くかけた複々線化事業が完了する予定だ。これを機に2018年度に抜本的なダイヤ改正を行い、朝ラッシュを中心に所要時間短縮、大幅な増発が予定されている。

 2016年10月20日、2018年に新型特急車両「70000形」の製造、そして通勤時間帯を中心に特急列車の増発を行うことも発表された。

東急電鉄

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by Dakiny
 渋谷駅をターミナル駅として横浜へと向かう東横線と、中央林間へ向かう田園都市線が中心だ。このほか、目黒線や池上線、世田谷線などがある。

 都心から横浜市や川崎市西部といった神奈川県の中心部方面を輸送エリアとしている。田園都市線は東京メトロ半蔵門線、東横線は2013年から副都心線を超えて西武池袋線・東武東上線方面との相互直通運転を行なっている。

 また、目黒線は都営三田線、東京メトロ南北線との直通運転を行う。目黒線は以前は多摩川線と合わせて「目蒲線」という名称で親しまれてきたが、2000年の直通運転開始を機に路線を分割するという大幅な路線整理を行なっている。

 東横線の相互直通運転を機に徐々に増発が行われている。2016年から直通の特急には「Fライナー」という愛称がついた。また、田園都市線の早朝時間帯の準急増発、大井町線の7両化など、「殺人ラッシュ」と揶揄された混雑の緩和に向けた改善という印象が見られる。

 2017年度を目処に田園都市線へ新型車両の導入、2022年には日吉駅から相鉄線への直通運転が予定されている。

京浜急行電鉄

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by ume-y
 品川と三崎口、羽田空港などを結ぶ。こちらは主に東京23区の南部、神奈川県は川崎市や横浜市の東部と三浦半島を輸送エリアとする。また、東京モノレールとともに羽田空港の利用客の輸送に大きな役割を果たす。

 品川駅から都営浅草線を経由し、京成線・北総鉄道に乗り入れる。これによって成田空港にも乗り入れを行なっており、二つの空港間のアクセス線としても機能する。

 京急は他社ではあまり見られない高速運転で有名だ。もっとも速い快特は最高速度120km/hほどで駅を通過する。これは線路の幅が広く高速運転が容易であること、また、速達性を重視する横須賀線や湘南新宿ライン、東京モノレールといった競合他社に対抗するといった理由が挙げられる。

 近年は有料の通勤特急「ウイング号」が「モーニング・ウイング号」として朝の時間帯にも運行されるようになったほか、ウイング号の増発を行い、着席サービスを強化している。

 2016年10月11日には、「新1000形」のマイナーチェンジ車の製造が発表された。この車両には各車両に電源コンセントが設置される。スマートフォンの普及で充電のニーズが高まっており、この他にも京王や西武も導入を発表している。

京王電鉄

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by Shrmch_533
 新宿と京王八王子・高尾山口を結ぶ。途中の調布駅から相模原線が分岐し橋本駅へ向かう。

 主に東京多摩地域の中部や多摩ニュータウン・八王子地域が主なエリアだ。井の頭線は杉並区や世田谷区をカバーしている。近年登山者が増えている高尾山を観光資源にもつ。都営新宿線との直通運転を行なっており、相模原線経由で橋本駅まで乗り入れる。

 2016年3月18日に、新型車両「5000系」の新造とともに座席指定の有料特急列車を2018年春に導入することを発表した。それまで料金のかからない通勤特急に加えて新たに有料の特急が運行される格好だ。

 新宿〜八王子間の輸送でほぼJR中央線と競合しているが、先に中央線がグリーン車導入と12両編成化を発表したことで、対抗措置をとったものと見られる。

西武鉄道

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by : : Ys [waiz] : :
 主に西武新宿から本川越駅へ向かう新宿線と池袋から秩父方面へ向かう池袋線がある。この2路線は本社のある所沢で交差する。新宿・池袋と二つのターミナルを持ち、多摩地域北部や埼玉県の南部を輸送エリアとする。

 京急が赤い電車なのに対し、こちらは黄色い電車だ。この2社は2015年に車両色をトレードした車両を走らせるというコラボを果たしている。

 秩父や川越への観光需要にも応える。池袋線は副都心線経由で有楽町線や東急東横線に乗り入れるが、新宿線は地下鉄との直通運転を行なっていない。新宿線の起点駅は西武新宿だが、新宿駅からは離れているためにJR線との乗り換えは一つ隣の高田馬場駅で行うことが多い。

 新型車両「40000系」を2017年度から導入する。また、それにあわせて直通の座席指定列車も導入される。

 西武鉄道は2012年に創業100周年を迎えたこともあり、ここ最近は斬新なニュースが多い。まず「ニューレッドアロー」以来の新型特急の導入。イメージ図として描かれた銀色の流線形のボディは「斬新すぎる」と話題を呼んだ。

 そして、2016年に運行が始まったレストラン列車「52席の至福」の導入、きゃりーぱみゅぱみゅや渡辺直美をモチーフとした列車の運行など、これまでになかったような新しいサービスを拡大している。

京成電鉄

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by hans-johnson
 主に日暮里・上野と成田空港を結ぶ。荒川区・足立区・葛飾区といった下町エリア、そして千葉県の広い地域をカバーする。主に都心から成田空港への乗客輸送が中心だ。そのアクセス特急として「スカイライナー」を運行している。

 2010年に、成田空港へのさらなるアクセス改善を目的として「成田空港線」(通称:成田スカイアクセス)が開業した。スカイライナーはこの路線を最高時速160km/hで駆け抜け、日暮里〜成田空港間を最速36分で結ぶ。この160km/hという速さは新幹線以外の在来線では国内最速だ。

 羽田空港〜成田空港間のアクセスを目的に都営浅草線を経由し、羽田空港駅を有する京急線との相互直通運転を行なっている。ちなみに、京急線の終点三崎口駅と京成線の終点成田空港駅の間の路線距離は実に130kmほどで、私鉄の相互直通運転では最長の距離を誇る。

 ただし、この区間を走破するのは早朝に三崎口駅から成田空港へ向かう特急のみ。走破すると、所要時間は2時間40分、片道2,295円(IC)だ。

 京成線からは、平日の夕方などに1本だけ京急久里浜行きが運行されるが、これでもかなりの長さだ。

つくばエクスプレス

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by きあい
 秋葉原とつくばを結ぶ。筑波から都心方面のアクセスを目的に2005年に開業した新しい路線だ。計画名称が「常磐新線」といわれており、常磐線と並行するように路線が伸びている。

 秋葉原〜つくば間を最速45分(快速)で結ぶ。営業最高時速は130km/h。実は先述の京急よりも上で、JR以外の私鉄通勤電車では最速だ。

 近年は大きな動きこそないものの、全駅ホームドアや自動ワンマン運転など、新しい技術を先駆けて導入している。また、8両編成化の計画も存在する。

相模鉄道

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by takeshisz
 横浜駅から海老名駅に向かう。二俣川駅でいずみ野線が分岐して湘南台駅へ乗り入れる。現在は横浜駅から横浜市の内陸部と神奈川県県央域のアクセスを担う。将来的に都心への乗り入れが予定されている。

 一つはJRとの連絡線を設け、東海道貨物線の線路と湘南新宿ラインを経由して新宿駅に乗り入れる計画と、もう一つは東急線経由で渋谷駅・目黒駅方面に乗り入れるという計画だ。

 いずれも着工済みで、JRは最短で2015年、東急は2019年の開業を目指していたが連絡線の工事が難航しておりいずれも開業時期の延期を都度発表しているという現状だ。2016年8月の発表ではJRは2019年下期、東急は2022年度下期の開業を目指している。

 現在首都圏の大手私鉄で唯一都心に乗り入れない故、ブランドイメージに悩まされてきた相鉄にとって、直通運転の実現は長年の「悲願」といえよう。近年ではブランド向上のために車両をリニューアルし、本革のクロスシートを一部車両に導入。そして車両のデザインや制服も、横浜の海をイメージしたネイビーブルーに今後統一させるという。

 直通運転が実現すれば、相鉄線の終点、海老名や湘南台からの都心アクセスが快適になる。海老名も湘南台も小田急の乗り換え駅なので、将来的には競合路線ともなりうる。ちなみに相模鉄道を所有する相鉄ホールディングスの筆頭株主は小田急電鉄である。

東京の私鉄は、これからどう変わっていくのか

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by Wry2010
 ここまで、都心から延びる(とこれから延びる予定の)主な私鉄の特徴をピックアップした。

 各社のこれからの動きを見てみると、近年は以下のような傾向が見られる。

近年の私鉄路線、これからどこが変わるのか

  • 相互直通運転の強化・長大路線化
  • 混雑緩和にむけた大規模工事・ダイヤ改正
  • 新型車両の投入・「座って帰れる」通勤特急の拡大

相互直通運転の強化・長大路線化

 私鉄路線に見られる大きな風潮として、相互直通運転が挙げられる。地下鉄や他社との相互直通運転は私鉄が乗り入れない山手線の内側への需要に応えることが大きな目的といえよう。最初は地下鉄との直通が中心だったものが、近年は他社との乗り入れも積極的に行うことで一つの長大な路線へと変化している。

 2013年に東急・東武・西武・メトロの相互直通運転が始まってからは、お互いに「反対側への観光需要」(川越や秩父と、横浜)を狙うようにもなった。 

混雑緩和、そして有料通勤特急

 設備面では各社で複々線化が積極的に行われてきた。線路容量が増えることで優等列車を増加させたり、各駅停車を増やして比較的都心から近い場所からのアクセスも容易になっていく。
  
 ダイヤに余裕ができることで、「座って通勤したい」という郊外に住むビジネスマンへの需要にも答えられる。その目玉が有料通勤特急の拡大だ。京王線が導入を発表したことで、各社がほぼ足並みを揃えたことになる。

新型車両や観光特急へのテコ入れ

 新型車両も相次いで投入されている。通常の更新時期を迎えただけでなく、乗り方が多様化してそれらのニーズに応えるためのものだろう。また、観光特急も新型車両投入のアナウンスが小田急・西武・東武と相次ぎ、それぞれが持つ東京近郊の観光地へのアプローチも激戦化すると考えられる。

 これらの進化は、2020年の東京五輪に向けた外国人観光客の増加も意識しているともみられる。まだ具体的なものはないが、特急の新型車両の導入に伴って「おもてなし」の文化を取り入れたサービスの向上も考えられる。

JRとの競合、そして路線としてのブランド向上へ

 相互直通運転や座って帰れる通勤特急といった動きは、私鉄に見られる大きな風潮として挙げたが、決して私鉄だけがやっていることではない。JRも「上野東京ライン」や中央線のグリーン車導入、東西線との相互直通運転など、郊外へ向かう路線では私鉄に負けじとさまざまなテコ入れが行われている。これらの動きは、私鉄に限らず首都圏の鉄道全体に見られる風潮の変化といってもいいだろう。
 
 私鉄には、いち民間企業としての「ブランドイメージ」の確立が強く求められる。そのためには沿線価値の向上はもちろんだが、より魅力のあるサービス、速達性、快適さなど、鉄道路線としてのさまざまな工夫が必要だ。重要なのは、それぞれの路線が持つニーズに鋭く反応すること。

常に快適で速い移動手段へ

 ベッドタウンや観光地と都心間の輸送が全体的に「快適」かつ「速い」ものになっていこうとしている。これが朝・昼・夜問わず常にそのようなものになっていくのが今後の大きな展望といえるだろう。
  
 2016年に政府は第二回「働き方改革会議」において「テレワーク・副業・兼業といった柔軟な働き方の推進」に向けて新たな検討に入る指針を示した。もしこの先テレワークが進み郊外に住む人々がそれらを活用するようになれば、鉄道の混雑率はさらに低下するかもしれない。「ラッシュ」という言葉がなくなる未来も見えて来た。

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