1. イスラム教とビジネスの関係性:最も注目されている成長市場の商習慣を紐解く

イスラム教とビジネスの関係性:最も注目されている成長市場の商習慣を紐解く

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by l e o j
 イスラム圏のニュースが日常となりつつある現代、ビジネスにおいてもイスラム教は無視できる存在ではない。2010年の時点でイスラム教徒の総数は約16億人と地球総人口の23.5%に達しており、推計では2020年までに25%を突破し、2100年にはキリスト教を抑え最大になると見られている。

 中東、アフリカ、ヨーロッパ、そして東南アジアと確実に増えつつあるイスラム教徒=ムスリム。当然日本国内においてもムスリムと接する機会は多くなっている。この成長市場を逃さないためにはイスラム圏の商習慣について知る必要がある。本記事ではイスラム商習慣を彼らの宗教的背景から紐解いていく。

教典を基に作られる法律

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by taylorandayumi
 ムスリムの行動規範はクルアーンを始めとする宗教的文書や、それらに基づくイスラム法によって定められている。その範囲は広範にわたり、日常生活の振る舞いや儀礼の手順はもちろん、商業も例外ではない。そのため、ムスリムの商習慣について知る前に、その根幹であるクルアーンとイスラム法について知る必要がある。

全ての法はクルアーンとスンナに基づく

 イスラム法の源となっているのが「クルアーン」と「スンナ」だ。クルアーンとはイスラム教における聖典であり、イスラム教の開祖である預言者ムハンマドが神から授かった啓示を彼の死後にまとめたものである。

 クルアーンはスーラと呼ばれる様々な長さの章に分かれており、全114章で構成されている。一つ一つの文が啓示を詩的に表しており、その美しさに引かれて改宗した者もいるほどである。啓示が下された時期によってマッカ啓示とマディーナ啓示に分かれており、前者は信仰に関する直接的な内容で、後者は社会生活に関するものが中心となっている。日本国内ではコーランとも呼ばれているが、近年ではより発音を正確にしようという試みによりクルアーンの音が好まれる。

 スンナとはムハンマドの言行を表し、ハディースという言行録にまとめられている。ただし、クルアーンが唯一性を保障されているのとは異なり、ハディースには宗派や解釈の違いによって幾つもの集成書が存在する。スンナはクルアーンを補足し、ムスリムがすべきことを具体的に表している。例えば、儀礼の手順について、クルアーンにおいては明確に定められた項目はないが、スンナにおいてはムハンマドの模倣をするように述べられている。このように、クルアーンの内容をより実践的なものとして表したものがスンナである。

イスラム教の憲法ともいえるシャリーア

 クルアーンとスンナを基にイスラム法学者が解釈して法律として定めたものが「シャリーア」である。また、新たな概念に対してクルアーンやスンナだけでは不十分とされた場合にもイスラム法学者が判断し、シャリーアとして定める。法体系は義務から禁止までの5段階の制約から成り、義務・推奨・許可・忌避・禁止の順にワ―ジブ・マンドゥーブ・ハラール・マクルーフ・ハラームと呼ばれている。日本国内では豚や酒を使用しないハラールフードなどはその存在が知られてきてはいるが、金利を禁止するなどの経済に関する規定はそれほど知られていない。

 シャリーアが定める分野は民法や刑法などの国内法から協定・戦争について定めた国際法にまで多岐にわたり、それ故にイスラム教における憲法としてみなされることも多い。実際、サウジアラビアではシャリーアを正式に憲法として位置付けている。

実際の生活に即したカーヌーン

 シャリーアには厳密な運用が求められてはいるが、実際には現地の習慣や時代の変化に適応しきれない部分も多い。このような行政上の問題に対処するために為政者が定めた世俗法は「カーヌーン」と呼ばれる。例えば、酩酊しない範囲での飲酒許可や、暴利でない範囲での利子の許容などである。カーヌーンは地域や宗派によって特に差異が表れるものであり、その理解においては一層慎重になることが求められる。特に、厳格なムスリムたちはカーヌーンのような抜け穴的法律を拒絶する傾向にあり、より注意が必要である。

イスラム法とビジネス

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by mattharvey1
 ムスリムを対象とするビジネスにおいては彼らの宗教的背景への理解が必要となる。にもかかわらず、日本国内では専ら食品に関するハラールばかりが注目されているのが現状である。確かに、食は生活の根幹をなすものではあるが、ビジネスは食のみを扱うのではない。ここでは、食品に限らないハラールについての詳細と近年成長を続けているイスラム金融について述べる。

ハラール

 イスラム法において許可されたものがハラールである。日本においてはハラルとも呼ばれる。狭義ではムスリムが食べることのできる食品を表すが、広義にはあらゆる日用製品について使用を許可されたものがハラールとして認められている。例えば、衣服のデザインが肌の露出を抑えるものになっていた場合、ハラールとして認められる。また、あるゲームがハラーム(禁止)である賭博には当たらないことが認められた際にもハラールなゲームとされた例もある。

 ただし、何をもってハラールとして認めるかについてはやはり宗派・地域によってかなりの差がある。まだシャリーアなどに記述のない製品に対して、比較的寛容なムスリムはハラームでなければハラールとみなすことがあるが、厳格なムスリムはハラールとして定められていない限りはハラームであると考える場合が多い。新たな商品をイスラム圏で販売する際には、商品でなくともハラールであると認められた方が無難だろう。

成長を続けるイスラム金融

 シャリーアに基づいた金融取引の総称がイスラム金融である。主な特徴は教義に反する相手と取引をしないことと、金利を禁じていることである。金利が禁じられる理由としては、貧富の格差を促進する原因になる、不労所得を認めていない、などがある。金融機関が金利を用いずに経営が成立するのか? という疑問はもっともであるが、実体を伴う取引で生じる利益は禁止されていないので、商品売買や投資、配当などを活用することで収益を得ている。

 金利を回避する代表的な取引システムが「ムラバハ」である。これは、顧客が借り入れをする際に金融機関が商品を購入し、それに金利相当の利益を上乗せして顧客に転売することで、債務総額から金利を分離してシャリーアに抵触しないようにしたものである。このような取引は個人の住宅ローンや自動車ローンから企業間での金融取引に至るまで幅広く行われている。ムスリムと金融取引をする際にはムラバハのようなシャリーアを守るための工夫を理解する必要があるだろう。

イスラム商習慣の実際

 それでは、これらの法律・習慣はイスラム圏においてはどのように運用されているのだろうか? 厳格なサウジアラビアと比較的寛容なインドネシアの例を文化的特徴と併せて解説する。

最も保守的だが資源も多いサウジアラビア

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by photo Q.Thang
 原油輸出国として有名なサウジアラビアは最も厳格なイスラム国家の一つだ。クルアーンを憲法として、シャリーアに基づく政治が行われている。その一方で部族的慣習も多く残っており、シャリーアとの矛盾を解決するために制度改革が進められている。

 サウジアラビア人か否かで税制が異なり、サウジアラビア人にはザカート税法というイスラム教の喜捨の義務に基づく税があるのに対し、外国人には所得税という形で徴税が行われる。これは、税金はシャリーアで禁じられている搾取行為であると認識されていることによるものである。

 裁判がアラビア語のみで行われる点については気をつけるべきだろう。これはたとえ被告人がアラビア語を理解できなかったとしても問答無用で行われる。また、証言はムスリム男性によるアラビア語の発言しか認められない。

 現在サウジアラビアは外資系企業への様々な奨励を行っている。このような優遇措置や豊富な資源に裏打ちされた経済は魅力的ではあるが、参入の文化的障壁は依然として高い。新規参入するには制約についての詳細な検討が必要となるだろう。

人口では中東以上のインドネシア

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by alex hanoko
 世界でムスリムが最も多くクラス地域は、実は東南アジアである。その代表格であるインドネシアは人口約2.55億人のうち、約9割がムスリムである。その内敬虔なムスリムとある程度世俗的なムスリムがほぼ同数存在する。しかし、宗教比率は地域によって大きな差があり、多神教であるヒンドゥー教が根付く地域さえある。

 このように複雑な宗教構成のため、全体的には寛容なイスラム国家として知られている。例えば、世俗的なムスリムの中には酒を飲むことに対して特に抵抗を示さない者もいる。法制度もシャリーアを基にしたものではない。しかし、法制度自体に問題が多く、法解釈に統一性が無いなどの点は考慮すべきだ。

 ただし、2004年に発生したスマトラ島沖地震をきっかけに宗教事情は大きく変化し続けている。スマトラ島沖地震によって発生した津波によって最も多くの人的被害を被ったアチェ州では、州法における急速なシャリーアの厳格化が進んだ。むち打ちなどの刑罰も導入されている。地域や時流によって法制度が大きく変化する点も、これからインドネシアへの参入を考える企業にとっては重要になるだろう。


 クルアーンに基づく様々な法制度は非ムスリムにとっては強大な障壁に見えることだろう。しかし、顧客のニーズがどのように形成されるかを調べることはマーケティングの基本である。障壁に臆することなく挑めば、イスラム法への理解がニーズを理解する一助になってくれるだろう。是非とも障壁を乗り越え、その先にある成長市場を手にしてほしい。

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