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“IoT”の一般化はもう目の前! 一歩先行く航空・旅行業界で導入された「生体認証」の実態

Rikaco Miyazaki

2016/10/12(最終更新日:2016/10/12)


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 経済産業省は、外国人観光客が生体認証で本人確認をして、現金不要で買い物などができるシステム「おもてなしプラットフォーム」の実証実験を10月から開始。空港やホテルが続々とIoT化している旅行業界で取り入れられる「生体認証」とは一体何なのか? その正体と、航空・旅行業界のIoT化の実態に迫る。

生体認証とは

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by fiscorb
 ATMやニュースなどで見かけることが多くなった「生体認証」。生体認証とは、指紋や声、筆跡、静脈、瞳の虹彩といった生物個体が持っている特性を利用した個人認証の仕組みのこと。生体認証は、パスワードやICカードのように忘れたり紛失したりする可能性が殆ど皆無である。

 生体認証の仕組みは、個人的特徴がバラバラに数値化されたもの。1人1人の特徴を数値化して複合することによって、難解なIDになるのだ。現在の生体認証の課題としては、アクセス権を持つ当人を拒否してしまう可能性が必ずしもないわけではないという点である。システムの誤認を防ぐために、生体認証と従来の認証システム(ID入力など)を組み合わせている事例もある。

生体認証が導入されているもの

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by olleeriksson
 日常生活の中にさり気なく溶け込んでいる「生体認証」。「人のインターネット化」という意味で、実は人間もIoTの導入事例と言えるのだ。ここでは導入されているものに焦点を当てて、生活の中に溶け込んだ生体認証について再発見していきたい。

iPhone

 日本国内でのスマートフォン販売シェア率が約7割のiPhone。iPhoneでの生体認証はiPhone 5sから導入されている。それは、指紋認証によるロック解除で、パスコードを入力する手間が省けた。

 しかし、指紋認証にも落とし穴がある。寝ている人の手元に携帯を持っていけば、ロック解除できてしまう点だ。実際に夫の就寝後、浮気していないかどうか確認するために指紋認証を使ってロック解除をする妻もいる。

ATM

 ATMの生体認証には「指静脈方式」と「手のひら静脈方式」の2つがある。メガバンク御三家と呼ばれる「三菱東京UFJ」「みずほ」「三井住友」では生体認証機能がついたICキャッシュカードを取り扱っている。

 一方で、上記の2方式には互換性がないというデメリットがある。偽装キャッシュカードによる詐欺に引っかからないメリットはあるが、全国各地のATMでお金を引き出せないという利便性の低さが問題となっている。

入退室管理(マンション)

 マンションの共用玄関やエレベーターホールでの入居者確認に生体認証を導入している会社もある。導入された生体認証は、指紋認証、手のひら静脈認証、音声認証の3つ。鍵を紛失するというトラブルは起きなくなる一方で、子どもや年配者が鍵の開け方がわからずに家に入れないというトラブルが発生することが課題となっている。

航空・旅行業界に広がるIoT化

 最近メディアで見かけない日はない単語“IoT”。モノのインターネット化という意味、と言われてもいまいちピンと来ていない読者もいるだろう。例を挙げると、IoT化したスマート冷蔵庫である。

 スマート冷蔵庫は、冷蔵庫自体がインターネットと接続されている。スマート冷蔵庫は、冷蔵庫の中に何が入っているのかを記憶し、あり合わせのもので作れる料理を表示する機能がある。また、iPhoneのSiri機能のように、冷蔵庫に対して買いたい食材を呟くと、買い物メモを作成してくれる。

 つまり、今までインターネットと全く関わりのなかった“モノ”をインターネット化することが“IoT化”なのだ。農業とIoTの繋がりなどがニュースで報道されているが、最もIoTの採用が拡大しているのは航空・旅行業界である。ここでは、実際に導入されているIoTについて紹介したい。

航空業界

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by shinya
 まず挙げられるのが空港や航空会社などの航空業界。実証実験の段階だが、ウェアラブル端末を活用した実験がいくつか行われている。

 1つ目の事例は、NTTコミュニケーションズの着衣型デバイス「hitoe」を使用した社員の体調管理を目的とした実験。この実験は、野外で働く作業員の熱中症対策のためのものだ。hitoeで取得した心拍数や心拍間隔のデータをクラウドに収集し、分析。その結果、作業ごとの身体的ストレスや気候が体に与える影響、心拍数と熱中症の関連性についての知見が得られた。

 2つ目は、スマートウォッチと位置情報を受信できるBeaconの活用実験だ。スマートウォッチで、空港スタッフへ遅延や欠航情報をリアルタイムで伝達。Beaconではスタッフの居場所をコントロールデスクで把握し、適切に人員を配置できるようにコントロールするといった実験内容だ。現状、スタッフの配置確認はトランシーバーでの取り合いで行っている。IoT化によって、短時間で指示が出せるようになるのだ。

 業務上の成果があったものの、1人につき1台のスマートウォッチを準備するのは資金的に難しかったため、正式導入については保留となっている。空港では、Beaconを搭載した車いすやベビーカーを貸し出すなど、実証実験を続々と進めているのだ。

 その他にも、旅客や荷物の追跡、航空機のメンテナンスやリアルタイムの状態確認といったところでIoTが採用されている。

宿泊業界で広がる“陣屋コネクト”とは

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出典:www.jinya-inn.com
 ホテルや旅館といった宿泊業界でもIoT化が進んでいる。経営者が高齢の旅館でのIoT化が「旅行業界全体の課題」となっていることから、宿泊業界でIoTが導入されると業務効率が大幅に上がることが期待されているのだ。

 今回紹介したいのは、大正7年に創業した老舗旅館“元湯陣屋”(神奈川県・鶴巻温泉)が開発したクラウドアプリケーション「陣屋コネクト」だ。開発したのは元湯陣屋の代表、宮﨑富夫氏。陣屋コネクトでは、予約情報から顧客情報の管理、会計処理、勤怠管理、社内SNSまで旅館経営に必要なデータの一元管理が可能。

 宮﨑氏は元湯陣屋の長男で、元々はホンダで技術者として働いていた。旅館のオーナーをしていた父親の他界、母親の入院が重なった時、日本はリーマンショック後の不況の真っただ中であった。売上も低迷していて、存続の危機に立たされた生家を立て直すために旅館経営の経験が無いまま、ホンダを辞職。

 困窮する旅館を立て直すために、ホンダでの技術者としての経験を生かして開発したのが「陣屋コネクト」だったのだ。陣屋コネクトは、クラウド型ホテルシステムでNo.1の導入実績を誇っている。倒産寸前の老舗旅館を立て直す原動力となったシステムは他の旅館にも評判で、現在では全国約180施設で導入されているのだ。まさに、宿泊業界のIoT化の立役者と言える。

旅行業界での生体認証の可能性“Touch&Pay”

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出典:www.dnp.co.jp
 Touch&Payとは、生体認証を利用した訪日外国人の顧客情報を観光事業者も利用することができるプラットフォーム。生体認証サービスの名前は“miQip(マイキップ)”。miQipによって旅行者は、ややこしい日本円での買い物を指でタッチするだけで済ませることができる。指1本でストレスフリーな買い物を楽しめるのだ。

 観光事業者は、ビッグデータとしての利用が期待できる。訪日外国人の属性情報・行動履歴などのデータを貯蓄して、マーケティングに活用する。

 Touch&Payは2020年の社会実装を目指し、今年10月から本格稼働を開始。試験運用中の神奈川県湯河原町、箱根町、鎌倉市、三重県菰野(こもの)町の4つの地域からスタートし、その他にも大阪、九州でもサービス実証を行う。


 以上、生体認証と旅行業界のIoT化の現状について紹介した。ニュースやネットでよく見かける“IoT”、日常生活に溶け込む“生体認証”……もはや「わからない」では済まされないIT用語が日々増加している。日本国民の生活の利便性を上げるだけでなく、訪日外国人の快適な旅行のためにも活用されているITは、わたしたちの知らない内に進歩しているのだ。

 「自身が働く業界ではIoT化の動きがないから」と胡坐をかいているのではなく、他業界の新しい動きに目を向けてみると思わぬビジネスチャンスが見つかるかもしれない。

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