1. 「役に立つという言葉が社会を駄目にしている」:ノーベル賞受賞・大隅良典氏が危惧する科学研究の今

「役に立つという言葉が社会を駄目にしている」:ノーベル賞受賞・大隅良典氏が危惧する科学研究の今

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 今年のノーベル医学・生理学賞に、東京工業大学名誉教授の大隅良典氏が選ばれ、大きなニュースとなった。同じ日本人としては喜ばしい限りのこのニュースだが、受賞会見において大隅氏が語った“日本の科学研究についての危惧”が話題を呼んでいる。本記事では、大隅氏が憂う“日本の科学研究の今”について迫る。

大隅氏が語った“日本の科学研究”への危惧

大隅氏の研究内容

 まずは、ノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅氏の研究について紹介する。大隅氏が取り組んだ研究は、細胞が、不要なタンパク質などを分解する「オートファジー」という仕組みの解明である。彼はこの仕組みを制御している遺伝子を平成5年に世界で初めて発見し、その後も同様の遺伝子を次々に発見した。そして、これらの遺伝子がそれぞれに果たしている役割を分析するなどして、「オートファジー」の仕組みの全体像を解明したのである。

 パーキンソン病などの神経疾患では、「オートファジー」に必要とされる遺伝子が正常に機能していないことがわかっており、大隅氏の研究が予防や治療につながるのではないかと注目を集めている。

 今でこそ、年間数千本の論文が発表される「オートファジー」の研究だが、大隅氏が研究をはじめた当初は年に数本の論文しか発表されていなかった。はやりの研究に便乗せず、自分の興味のある研究にこだわる大隅氏の姿勢が見て取れる。

大隅氏が語った危惧

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 受賞会見において大隅氏は、今日の科学研究の様相に警鐘を鳴らした。若い研究者が目先の成果だけを追い求め、基礎的な研究よりも応用的な研究ばかりを重視するようになってしまったのである。

 基礎的な研究は、まだそれが社会的に役立つとははっきりしない分野に関して行なわれるものである。しかし、大隅氏のオートファジーの研究も当初はこれに当てはまるものであったように、基礎的な研究を通じて、社会的に大いに役立つ新しい発見がなされることがある。そのような可能性を潰しかねない今日の科学研究の風潮を、大隅氏は憂いているのだ。

基礎的な研究が軽視されるようになった要因

 それでは、大隅氏が危惧する今日の科学研究の風潮はどのように生まれたのだろうか。その要因を二つに絞って言及する。

科学研究費の削減

 昨今、国公立大学法人等に対して、国が科学研究費を削減している。この結果、研究費をめぐる競争が常態化した。早い段階で大きな成果が見込める研究ほど国からの研究費を得やすいので、そういったはやりの研究に取り組みたがる研究者が増えたのである。結果、早い段階での成果が見込めない基礎的研究が衰退した。

 この問題について大隅氏はノーベル賞受賞以前から問題提起していた。平成27年には、『科研費について思うこと』という日本学術振興会公式サイトへの寄稿ににおいて自身の考えを主張している。

国全体で研究の“出口”ばかりを重要視

 それが社会的に役立つかどうかなど考えもせず、単純に自分の興味のある物事についてを研究していたら、社会的にも意義のある大発見が生まれた。このようなことは歴史上何度も繰り返されてきたことである。

 しかし、合理化が進んだ今日においては、ある科学研究が社会的に役立つ成果を残せるかという前提を求める風潮が顕著だ。つまり研究の“出口”ばかりが重要視されているのである。こうして“出口”ありきの研究ばかりが重きを置かれ、基礎的な研究が軽視されるようになったのだ。

基礎的な研究の意義を再考する

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 大隅氏が影響を受けた書籍に『空気の発見』というものがある。小中学生向けの科学解説書で、空気の発見と研究の歴史について書かれている。空気の発見と研究は大いに人々のために役立ったし、今を生きる我々もその研究の恩恵を受けているといって間違いないだろう。しかしこの本によれば、空気の研究に従事したガリレオ・ガリレイ等の昔の科学者たちは、「そんな研究がなんの役に立つのか」と当時の人々には思われていたのである。

 役に立つかはわからないような基礎的な研究も、何十年後、何百年後に大いに役立つかもしれない。ノーベル賞を受賞した大隅氏の研究でさえ、当初は役立つかどうかわからなかったのだ。基礎的な研究の持つ可能性を潰さないために、今日、我々の意識改革が求められているといえる。


 ノーベル賞を受賞した大隅良典氏の言葉から、今日の日本の科学研究の問題点を検証した。大隅氏はノーベル賞受賞会見において、「役に立つという言葉が社会をとっても駄目にしている」と語った。この言葉の意味を我々日本人はよく考えるべきだろう。本記事が、読者の方々が今一度科学のあるべき姿についてを考えるきっかけとなれば幸いだ。

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