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アメリカだけが得をする? 「TPPによる著作権の保護期間延長」が日本に与えるインパクト

高橋和紀

2016/10/05(最終更新日:2016/10/05)


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by sjrankin
 多くの人が、「知的財産権」と耳にしてまず思い当たるのは、“著作権”だろう。しかし実際には、知的財産権は著作権だけではない。昔から残る、“伝統ある日本独自の文化”や、“日本独自の技術が活きる産業”、さらには“あなたのアイデアを形にしたい時”、これも知的財産権の保護の対象になるのだ。

 そんな知的財産権法だが、2015年のTPP合意で興味深い法改正を行った。そこでまずは、知的財産権とは何かを見ていこう。

知的財産権の気になる種類

 あなたは普段の生活で、どれほどのアイデアを創造できているだろうか。実際に、あなたが素晴らしいアイデアを形にしたいと思っただけでは、知的財産権の保護の対象にはならない。保護の対象にならないということは、横取りや先に商品化される恐れがある。これは、絵画や書物、産業技術も同様で、署名をして初めて知的財産権の対象になるのだ。

 では、知的財産権にはどのような種類があるのだろうか。

意外に多い“知的財産権”リスト

特許権

  • 新規な発明を創作した者に与えられる独占権。出願の日から20年間保護される。

商標権

  • 商品に使用するマーク(文字、図形、記号など)を設定登録の日から10年間保護される。なお、この権利は更新可能。

実用新案権

  • 物品の形状、構造、組み合せに関する考案(小発明)に対して出願の日から10年間保護される。

意匠権

  • 工業的なデザイン、つまり、車やコンピュータの外観のようなものに関して設定登録の日から20年間保護される。

著作権

  • 独創性のある文芸、芸術、音楽など、精神的作品を創作のときから作者の死後50年間(映画は公表後70年)保護される。

育成者権

  • 栽培される全植物(種子植物、しだ植物、蘚苔類、多細胞の藻類)の新品種について登録の日から25年間(果樹、林木、観賞樹等の木本性植物については30年)保護される。
   大きく分けてこの6つが主な知的財産権の種類となる。そして今回、TPPの知的財産権改正法案で取り沙汰された権利が“著作権”・“特許権”・“商標権”だった。

TPPで取りあげられた改正法案

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by Third Way
 アジア太平洋地域での、貿易並びに投資の自由化及び円滑化を進める“TPP(環太平洋経済連携協定)”。TPPは、電子商取引、国有企業、環境等の幅広い分野において、21世紀型の新たなルールを構築する。この度取り決められたルールには、知的財産権も含まれていた。

改正された著作権とは

 上述のように、今回改正された知的財産権は、著作権、特許権、商標権の3つだ。本記事では一番大幅な改正となった、著作権にフォーカスする。

改正後の著作権

  • 著作物等の保護期間が50年から70年に
  • 著作権等侵害罪の一部の非親告罪化
  • 法定損害賠償制度の導入
  • アクセスコントロールの回避規制
  • 配信音源の二次使用に対する報酬請求権の付与
 これらの中で特筆すべきは、保護期間が50年70年になった点だ。保護期間延長で考慮するべき点は、そのメリット、デメリットである。

保護期間を延長するメリット

 メリットとして考えられていることは、人気作品から継続的に収益を得て、次の創作や新人の発掘、育成を行いやすい。また、アニメ、漫画等のコンテンツを輸出することによる利益の拡大が考えられている。

保護期間を延長するデメリット

 これに対してデメリットは、ほとんどの作品が、作家の死後50年経過前に市場から消滅しており、保護期間の延長によって得られる収益の増加率はわずかに過ぎないという点だ。そのため、創作の誘因になるかは疑わしい。

 さらに、日本はコンテンツビジネスについては大幅な赤字国であるので、保護期間の延長は、国際収支の赤字拡大要因であるという意見もある。また、日本から輸出される作品は、アニメや漫画など比較的新しいものが多いといった点も、保護期間延長は意味をなさないと言われる要因である。

忘れてはならない「戦時加算」

 なお、日本には「戦時加算」がある。第二次世界大戦時の連合国との関係で、TPP加盟国であるアメリカやオーストラリアには、現在でも連合国の著作物の保護期間を最大で約10年5か月程度延長しなければならない。つまり最大で、保護期間が80年5ヶ月になるということが留意するべき点だ。

日本モデルの確立が急務

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 TPP交渉により決まった著作権をはじめとする知的財産権に関する法案だが、最大の論点は保護期間延長となる。

改正法案はアメリカだけが得をする?

 著作権保護期間を70年で統一することになったが、巨大な市場と豊富なコンテンツを抱えるアメリカでの反応はどうだろうか。アメリカは、著作権分野だけで年間10兆円以上の貿易黒字を稼ぎ出していて、その源泉は著作権で保護された有名コンテンツの売り上げにある。

 有名キャラクターの保護期間が迫るたびに延長を繰り返し、ミッキーマウス法などと揶揄されるような著作権保護の仕組みが、実はTPPでもほぼアメリカの狙い通りに合意されていると言われているのだ。

矛と盾で戦う日本のスタイル

 著作権保護期間延長は、デメリットだけではなく、アメリカの思い通りになったわけでも決してない。日本には昔から重んじてきた“和”の文化、そして、日本人独特の繊細な感覚や、器用さが織り成す技術がある。これらのファクターは文学においても、芸術においても、産業であっても、常に“日本らしさ”を作り上げてきた。

 これからは、ここまで日本という国を守ってきた「日本らしさ」を“盾”とし、新たに海外でも注目を浴びるアニメコンテンツや漫画などのクリエイティブな作品を“矛”とし、世界を相手に戦っていく必要がある。保守的になり、新しい可能性を求めないことは衰退を意味することになる。


 今回のTPP合意で取り上げられた著作権だが、今も昔も、絵画や文学、音楽、映画は人々の心を動かし、その国の経済をも動かしてきた。そしてそれは、いつの時代も変わらない。日本から素晴らしい作品群を発信するために、日本は国として盾と矛を武器に世界を渡り合っていかねばならない。

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