1. 知らぬ間に消えていく“町の本屋さん”:斜陽産業「出版」のリアルに迫る

知らぬ間に消えていく“町の本屋さん”:斜陽産業「出版」のリアルに迫る

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by marumeganechan
 「活字離れ」が叫ばれて久しいが、最近では定額で雑誌・書籍が読み放題のWebサービスが好調だ。活字のWeb化が進む中で、“紙”を扱う出版社の未来はどうなるのだろうか? 出版社の現状や、進むWeb化への対策について追及する。

出版業界の今昔

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出典:www.keieiken.co.jp
 出版業界のバブル全盛期は、「電車に乗るな。タクシーで移動しろ」「経費をどんどん使え(税金対策)」と言われたり、撮影のために象を買ったという逸話があるなど、贅の極みを尽くしていた。

 出版業界のピークは1996年。2兆6564億円もの市場規模があったが、2015年の出版販売額は、1兆5,220億円にまで減少。例えば年間4,000万部を売り上げていた新潮文庫も、今ではその半分の2,000万部になってしまったのだ。

 出版だけでなく、書店や取次といった関連企業も厳しい状況に置かれている。2015年には、出版取次4位の栗田出版が倒産。2016年2月には、都内近郊に10店舗展開する芳林堂が自己破産。出版取次の老舗の太洋社が自主廃業……現在も、書店閉店のニュースが絶えない状況である。

 とある出版社では、編集部の経費削減のために“ウォーターサーバー”でさえも契約を解除したほどに、出版業界は追い込まれているのだ。

「出版不況」に陥った背景

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by kodomut
 9年連続で出版販売額が減少している背景には、“インターネットとスマートフォンの普及”がある。情報鮮度が高く、無料で情報を手に入れることができるインターネット。最近では無料のWebメディアの幅も広がり、雑誌に匹敵する情報をインターネットで気軽に見ることができてしまうのだ。

 インターネットの普及に伴って、出版業界に追い打ちをかけているのが「書籍の定額サービス」。定額サービスは“出版社”にとっては福音となる可能性も秘めているが、書籍の流通を担う出版取次や販売をする書店にとっては追い打ちでしかない。書籍を書店で購入しなければ、出版取次や書店の売上は一向に伸びないからだ。

ついに大手書店“紀伊國屋”にも危機!?

 1927年創業の老舗書店“紀伊国屋”。日本全国に店舗を持つナショナルチェーンで、利用したことがない読者も名前だけは聞き覚えがあるだろう。そんな紀伊国屋でさえも経営の危機に瀕している。

 丸善・ジュンク堂書店・文教堂を傘下に持つ大日本印刷(DNP)と、紀伊国屋は2015年4月に合弁会社を設立した。返本率40%の異常事態、1999年2万2,300店あった書店が2013年には1万4,000店に減少するなど、書店の危機を救うために両社は手を組んだのだ。

 そんな紀伊国屋だが、合弁会社を共に設立したDNPに融資の打診を図っているという情報を得た。しかしDNPはすでにジュンク堂などに融資をしているため、先行きが不明となっている。

変わり始める“書店”のスタイル

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by Richard, enjoy my life!
 ネットで手軽に本を買えるようになった現在。書店は減少の一途を辿っている。そんな中で書店は、売り場の中に“文具と雑貨”のセレクトショップやパソコン教室、英会話教室を導入するようになってきている。

 代表的な例は“蔦屋書店”。書籍の販売だけでなく、カフェ・コンビニ・文房具、雑貨売り場が併設されている。店舗によっては家電や服飾を販売するなど、「書店」という枠組みに捉われないスタイルだ。

 その他にも、旅行の手配ができるトラベルカウンターやラウンジを併設する書店が年々増加傾向にある。書店は、今までの「本屋」の在り方という枠を超えることが今後の課題となることが予想される。

出版不況を切り抜ける戦法とは?

 「出版業界は斜陽産業」と言われている中で、各出版社・書店は生き残るために様々な戦略を講じている。

KADOKAWA

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by Dick Thomas Johnson
 2013年10月、「ニコニコ動画」を運営するドワンゴと経営統合をした角川グループ。既存の出版事業からの脱却を目指し、クロスメディアコンテンツの強化を図っている。

「出版社からIP企業体へ」ということです。IPはインテレクチュアルプロパティ、つまりコンテンツのことです。出版はもちろん重要な柱となる事業ですが、出版社体質から転換し、映画、アニメ、ゲーム、マーチャンダイジング、ネットサービスなどを含めた事業ポートフォリオを持つ企業体に変わることを目指しています。

出典:出版不況と戦う、角川の未来型メディア戦略 | ビジネスプロデューサー ...
 KADOKAWAは、ライトノベル、コミックが得意分野。そのため、アニメコンテンツの制作をする際の制作委員会にプロを集めやすいという強みもあった。アニメの放送をTVですることによって、KADOKAWAが出版する原作ライトノベルやコミックの売上も向上する。“クロスメディア”で成功している出版社だ。

宝島社

 「sweet(スウィート)」「InRed(インレッド)」などのファッション雑誌を刊行する宝島社。2013年時点では、ファッション誌市場におけるシェアは22%でトップを誇っていた。

 書籍が売れないと言われている中でも、販売数の減少が著しい雑誌。宝島社は“付録戦略”によって部数を拡大してきた。昭和初期からある付録戦略は、インターネットでは真似することができない戦略だ。

 宝島社の雑誌には、全てブランドアイテム付録がついている。付録は、商品選び・デザイン・素材の選択・工場での製造までを同社の編集者が担当している。付録作成の費用は、ブランド側に頼らずに雑誌の販売収入と広告収入で賄っている。金銭的な負担が出版社に大きすぎるのでは?と思うかもしれないが、自社で費用を賄うことでスポンサーの意向に左右されないモノ作りができるのだ。

 ネットでは真似できない“付録”で生き残ることが宝島社の戦略なのだ。

スターツ出版

 女性向けWebサイト「OZ mall」を運営するスターツ出版。同社は、ライフスタイルや旅行関連の書籍を出版している。OZ mallでは、編集部が厳選したレストランや宿などの予約をすることができるほか、美容・旅・グルメの情報を手に入れることができる。

 スターツ出版の特色は、自社で“大人女子”をターゲットにしたイベントを企画しているところだ。これまで、働く女性をターゲットにした女子会や早朝散歩などのイベントを行ってきた。同社は、WebのOZ mall、紙のOZ magazine、二次元を飛び出したイベントの3つを掛け合わせる戦略をとっている。

 また、2015年には“スターツ出版文庫”を創刊し、沖田円著の「僕は何度でも、きみに初めての恋をする。」が20万部を突破する大ヒット。「神様のカルテ」の装丁や、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットを手掛けるイラストレーター“カスヤナガト”氏の装丁が目を引く小説だ。スターツ出版は、雑誌やイベント、Webサイトに留まらずに新しいことに挑戦し続けている。

電子版へ完全移行をした雑誌

 先述した3社とは異なるが、ここでは雑誌単体の戦略を事例として紹介したい。

 依然として紙媒体の出版物の流通が多い中で、KADOKAWAの「週刊アスキー」や講談社の「COURRiER JAPON」は今年、電子版へと“完全移行”した。

 週刊アスキーは、ネットメディア「週アスPLUS」が月間800万人のユーザーに利用されたことや、電子版の読者数の伸びも期待できることから電子版への完全移行の意志を固めた。完全移行後は電子書籍の「週刊アスキー」を購入することで、雑誌を読むことが可能になる。

 COURRiER JAPONは、月額980円のWeb雑誌になった。クーリエ・ジャポンの編集部は、メディア環境の変化の中で「月に1度、紙の雑誌で情報を届ける」といったモデルは読者のライフスタイルにそぐわないと判断して、電子版へと完全移行したのだ。世界1500のメディアから情報を厳選された情報を、より早く見ることができるようになった。


 以上、出版業界の現状や戦略について紹介した。出版業界を襲った急激なWeb化の波。その波に呑まれぬよう、出版社を初め書店や取次も様々な努力をしていることがお分かりいただけただろうか。

 売上を伸ばしている出版社や、出店数を増やしている書店に共通していることは既存の「枠」に捉われていない点である。今後、AIやロボットによって現在好調な産業もいつか「斜陽産業」と言われる日が来るかもしれない――その時に産業を救うのは、「枠」を破る想像力と創造力なのではないだろうか。

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