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西田宗千佳のトレンドノート:日本が「最恵国待遇」に? 相半ばする「iPhone 7」の戦略

西田宗千佳

2017/10/05(最終更新日:2017/10/05)


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 筆者は現在サンフランシスコにいる。iPhone 7およびApple Watch Series 2の発表会を取材するためだ。

 最近、「iPhoneは発表前から中身がわかっちゃって……」と思う人も少なくないだろう。確かにその通りで、今回発表された新機種であるiPhone 7も、ハードウェアのデザインやカメラの形、ヘッドホン端子の有無などは、ほぼ噂通りだった。

 だが、それではわからない部分がある。それはソフトウェアやサービスだ。スマートフォンはハードウェアスペックやデザインからわかることも多いが、ソフトやサービスが支えている部分も多い。ある意味、「製品としての価値」はハード以上にソフトにある。大量に生産すればするほど関わる人が増え、情報が漏れやすくなるハードウェアと違い、ソフトやサービスは秘密を保ちやすい。だからやはり、こうした発表は「蓋をあけてみないとわからない」ことがある。

  iPhone 7でいえば、いわゆる「Suica対応」と「カメラ」がそれにあたるのではないだろうか。

「守り」と「攻め」が相半ばしているSuica対応の新型iPhone

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 夏に入る頃から、「iPhoneがSuicaに対応し、おサイフケータイになる」という話が筆者の耳にも入るようになっていた。そうなれば、日本で他のスマートフォンとの「違い」とされてきた、ハードウェア的に「FeliCa」と呼ばれる非接触式通信規格を搭載することが必要となる。今までiPhoneなど海外製スマホの多くは、日本向けモデルでもFeliCaは搭載せず「タッチで改札を抜ける」ことは出来なかった。しかしiPhone 7では対応してきた。日本で広く使われている「QUICPay」や「iD」、「Suica」へ対応するシステムをJR東日本やクレジットカード会社と共同で整備し、10月末から、かなり色々な場所で「タッチして決済」「タッチして電車に乗る」ことが可能になるだろう。他のスマートフォンの「おサイフケータイ」とは細かく違うところがあるが、まあ要は「クレジットカードが少ない日本向けに環境を整備した」と思えばいい。しかもこれ、日本で販売されるiPhoneとApple Watchでしか対応しない。そのくらい特別扱いしてでも、日本の顧客数維持を狙っているわけだ。
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2基のカメラを採用したiPhone 7 Plus

 カメラは良い意味で驚きだった。iPhoneはもともとソフト処理によって画質を上げるアプローチを採用しており、他社のハイエンドスマホより「撮像素子のスペックは一見低いのに、画質は勝るとも劣らない」のが特徴だった。今回は、センサーやレンズを改善しつつ、オリジナルの画像処理プロセッサを開発して併用することで、より画質を向上させる。解像度は上げていないのに画質はソフトの力で上げる、というアプローチだ。特にこれは、2つのカメラを搭載することになったiPhone 7 Plusで有効的といえる。後日ソフトウェアアップデートでの対応となるが、ポートレート写真で背景を「ぼかす」といった自然な撮影もできるように。こうした部分は、ハードスペックだけでは見えない部分で、実機が手に入ると、その差が見えてくるだろう。
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 iPhone 7 Plus・ジェットブラックモデル。光沢仕上げになり、カメラは「デュアル」。アンテナを隔てる樹脂のデザインも変わり、すっきりフェイスに。

ヘッドホン端子を廃して防水・防塵に対応

 ヘッドホン端子も「攻めている」。今回はなんと、ヘッドホン端子を廃止したのだ。アダプタを同梱するので問題ないとはいえ、多くの人にはメリットが見えづらいところ。しかし、アップルとしては、ヘッドホンを「ワイヤレス化」することを進めたいのだ。アメリカにおいてヘッドホンのトップブランドは、アップル傘下のBeatsである。Beatsはワイヤレスヘッドホンも絶好調で、ワイヤレス化の波はプラスとなるだろう。アップル自身、「左右の耳の間すらワイヤレス化」した「完全ワイヤレスヘッドホン」であるAirPodsを発売し、ニーズの先取りを狙う。
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 ヘッドホン端子は「廃止」。付属のヘッドホンはLightning端子でつなぐものに変わった。旧来のヘッドホン端子と変換するアダプタも付属する。
 弱いところをカバー(守り)し、強いところでは攻めてくる。保守的ともいえるし、横綱相撲ともいえる。何しろ今回の発表会でアップルのティム・クックCEOは、iPhoneの累計出荷台数がついに「累計10億台」を超えた、とコメントしている。こうなると、一気に数を増やすのはなかなか難しいだろう。いかに他社にユーザーを奪われないようにするか、迷っているユーザーを引き込むかが勝負になる。強化点についてはAndroid端末ではすで実装されていることが多いが、それを追いかけて、今までの弱みをカバーすることは、「iPhoneから離れる人」「iPhoneと他で迷って他に行く人」には効果的だろう。

 だからこそ、今回のiPhoneは特に「守りと攻め」の印象を強くする。その結果、iPhoneのFeliCa対応が日本で実現したとすれば、「プラス」と考えるべきだろう。

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