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隠蔽工作だけは燃費がいい:三菱自動車、4月に続く不正発覚に「またか」の声

菊池喬之介

2016/09/06(最終更新日:2016/09/06)


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by ScottD95Si
  今年4月に燃費試験のデータに不正があった三菱自動車が、また不祥事を起こした。燃費の不正問題が発覚したあとも、不正な方法で燃費測定を続けていたことが明らかになったのだ。ユーザーはもはや怒りを通り越して、よく何度も不正を働けるものだ、と呆れたことだろう。過去のリコール問題も相まって三菱自動車の企業形態に疑惑の目が向けられている。本記事ではなぜ度重なる不祥事を起こしたのかを分析する。

「またか」:三菱自動車の不祥事

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出典:www.voanews.com
  2016年8月30日、三菱自動車のさらなる燃費不正が発覚した。4月の燃費不正への指摘を受け実施している社内試験で、中央値に近いデータを採用すべきところを自社の都合にいいよう下方のデータを使っていたのだ。この試験を受け、国土交通省は不正と判断し公表に至った。

 現行販売している9車種のうち8車種が不正な燃費表示で販売されており、燃費の再申請が完了するまで販売を停止する。該当車種を保有している顧客には3〜10万円の賠償金が支払われる。

発端は4月の不正発覚:日産からの指摘

 4月に発覚した燃費不正は、試験時にタイヤなどの抵抗のデータを意図的に操作することで、4車種の燃費を10〜15%かさ増ししていたことで問題になった。それが公になったきっかけは、三菱自動車と競合関係にある日産からの指摘だった。日産の技術陣が新車種の開発のために、改めて試験を行ったことから燃費不正の指摘に至ったのだ。

 この不正を受けて、三菱自動車は日産の傘下に入ることになる。だが、日産の下で汚名返上するどころか、また今回の不正事件が起こった。第三者の介入をもってしても三菱自動車は隠蔽体質から脱せなかった。次項からは過去のた三菱自動車の不祥事を振り返るとともに、なぜ三菱自動車は不正を防ぐことができないのか、検証していきたい。

過去にもこれだけあった、三菱自動車の不祥事

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出典:www.lemonlawcourt.com

2000年、最初のリコール隠し

 三菱自動車の最初の大きな不祥事といえば2000年のリコール隠しだ。この事件で発覚したのは、過去23年間にわたって三菱自動車が部品の不具合によるユーザーからのクレームを隠蔽し続けたことだ。外部にクレーム公表せず、ユーザーに直接部品を支給するという闇リコールを行っていたのだ。

 しかし、車両の欠陥を発表しなかったため部品交換が間に合わず、事故が発生してしまった。社内関係者やユーザーの告発がきっかけとなり、事件は白日の下に。この事件により、ユーザーからの信頼が失われ、販売台数は落ち込んだ。一部の経営者は退陣し、ダイムラー・クライムスラーから人材を入れて信用回復に努めようとした。

2002年、またもやリコール隠し

 第三者の介入により、再建を目指した三菱自動車であったが、またもや不祥事を起こしてしまう。2002年に三菱製大型トラクターの外れたタイヤが通行人に直撃し、死傷させた事件がきっかけとなって再びリコール隠しが明らかになった。

 2004年、ダイムラー・クライスラーも財政支援を打ち切り、残ったのは三菱グループ。三菱グループは三菱自動車を支援する方針を決定し、投資元を探した。その結果、なんとか融資を受けることができ、その資金を元に経営立て直しを図った。

三菱自動車はいつから隠蔽体質になったのか

 ダイムラー・クライスラー、日産、と第三者を介入させても三菱自動車はなぜ度重なる不祥事を防げなかったのだろうか。その原因は日本企業の中でも異色な企業風土と、三菱グループという強力なバックアップがあることに見出すことができる。

異常な企業風土

 三菱自動車は4月の不祥事の原因究明を第三者委員会に委ねているのだが、その調査結果は公表されていない。だが、三菱自動車の異常な企業風土は以前から問題とされてきた。その異常性が表れているのは人事異動の少なさだろう。

新聞報道によると三菱自が国交省に提出した調査結果にはプロダクト・エグゼクティブ(PX)について「高圧的言動による物言えぬ風土を醸成した」と記され、性能実験部については「人事が硬直化し、閉鎖性が強く不透明な組織だった」と書いてあるという。

出典:三菱自動車工業の異常な社風 別会社になるぐらいの改革が必要 ...
 企業の幹部は燃費試験のやり方やルールを熟知しておらず、現場の担当者任せだったという。また、目標達成への上層部の圧力が強いことも隠蔽を招く要因になっている。10年も同じ部署、担当という社員も少なくなく、今までやってきたことをやれば間違いない、という空気が企業にはびこっているというのだ。

 三菱自動車の隠蔽体質はリコールや燃費不正など直接ユーザーに害を与える分野だけにとどまっていない。2015年、三菱自動車の主力車「RVR」のモデルチェンジを延期する際、担当部長二人を諭旨免職にした。

 実質的な解雇の原因は単に目標達成に届かなかったからではない。問題になったのは、目標達成が困難であるのにも拘わらず、その情報を上層部に伝えなかったことだ。慣習化しているデータの隠蔽を失くすには、大胆な人事異動や、それを統括するための組織を熟知した経営陣が必要だが、何よりも重要なのは抜本的な改革をする強い意志だ。

恥の文化が生む隠蔽体質

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出典:integral.org.au
 企業による隠蔽工作は日本に限った話ではないが、日本企業は特に多いと言われている。三菱自動車以外にも東芝やオリンパスといった一流企業が起こす不祥事が、後を絶たない。隠蔽による不祥事の世界共通の原因は企業の不透明性だ。先進国の企業ほど透明性のある企業が多くなる傾向にあるが、日本はなぜ先進国の中でも隠蔽体質を持った企業が多いのだろうか。

原因は日本の国民性にあった

 隠蔽体質と言われる企業が多い理由を「恥の文化」という日本独自の感覚から見出すことができる。欧米に根付く「罪の文化」が内面の良心を重視する一方、恥の文化では他人の目、外部要素を重視している。恥の文化が染み付いた日本人は失敗を恐れるのではなく、失敗を他人に知られるのを恐れる傾向がある。こうした国民性が日本企業の隠蔽体質の根本の原因にある。

 また、日本には減点方式が企業のスタンダードなことも隠蔽体質に拍車をかける。ここでいう減点方式とは、失敗が許されないシステムのことだ。一方、例えばアメリカなどは、加点方式で多少の失敗は許され、再チャレンジしやすい環境である。日本では一度の失敗で責任を取り、会社を辞めさせられるケースも多々ある。失敗のリスクが大きいことが保身に走り隠蔽につながる一因になっている。


 恥の文化や減点方式が悪しき伝統だ、とまで言い切ることはもちろんできない。日本の高い技術力やサービスは、恥の文化が根にある集団意識によって生まれたものである。ただ、企業の隠蔽体質の原因になっていないと否定することもまたできない。日本企業の問題とされている企業風土を変えるには、恥の文化を罪の文化で補完するような新しい価値観が重要ではないだろうか。死人が出ているのだから。

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