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全方位から認められるビジネスパーソンに欠かせないのは“倫理の価値基準”だった

Saki Shinoda

2016/12/24(最終更新日:2016/12/24)


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 ビジネスは判断の連続だ。企業の中で成果を上げ評価されるためには、少しでも利益を多く生み出すための判断が必要となる。しかし、物事の価値基準は決して「ビジネス」だけでない。

“ビジネスの価値基準”の限界

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 売上や利益の大小を比較することによる“ビジネスの価値基準”は明確だ。しかし、実際の企業活動は“ビジネスの価値基準”のみでは決して成り立たない。企業が“ビジネスの価値基準”を重視しすぎるあまり、結果として莫大な損益を生み出してしまった事例として有名なのが「フォード・ピント事件」だ。

 米国フォード社は1971年、サブコンパクトカー・ピントを発売した。ピントはその開発段階で、ガソリンタンクの配置などに重大な欠陥を抱えていることが判明していた。しかし、追突事故に対する脆弱性が社内で指摘されていたにも関わらず、フォード社は欠陥を放置したままの状態でピントを市場に投入した。

 当時のフォード社は、「安全性を向上させるためのコスト」と「事故発生時に支払う賠償金額」の試算を比較していた。そして、欠陥を放置したままのほうがコストがかからないとする“ビジネスの価値基準”を優先し、販売に踏み切ったのだ。

 そして発売翌年の1972年、ピントの追突・炎上事故が発生した。裁判においてこの試算の存在を明らかにされたフォード社は、判決で多額の損害賠償を課せられた。そしてそれだけでなく、“倫理の価値基準”の欠如によって、製品や企業そのものの信用を失ってしまったのだ。

ビジネス観と倫理観を両立させた価値基準へ 

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 フォード・ピント事件を契機として、企業活動における“倫理の価値基準”の重要性が再認識された。現在ではコンプライアンスの徹底や社会貢献活動などによって、企業の“倫理の価値基準”による活動が行われている。

 企業だけでなく、一人一人のビジネスパーソンにおいても“ビジネスの価値基準”だけでなく“倫理の価値基準”を意識しながらビジネスを行うことが重要だ。その両方の基準を高めた上で、業績を上げることが理想であり目標となるだろう。

“倫理の価値基準”の手がかりを倫理学で学ぼう

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 実際のビジネスシーンで“倫理の価値基準”を意識した行動をとるためには、倫理的な考えを身につける必要があるだろう。そこでこの項では、倫理学における考え方を簡単に紹介する。

帰結主義

 帰結主義は、行動が倫理的かどうかを「その行動によってもたらされた結果」によって判断する考え方を総称する言葉で、倫理学のなかでも実質性を重視するもの。帰結主義のうち、ベンサムが提唱した功利主義は、倫理学において代表的な学説だ。

帰結主義の一つ・功利主義の考え方のポイント

  • 行為の結果を重視する「帰結主義」
  • 個人の効用(幸せ)を足し合わせ、総和を最大になるようにする「最大多数の最大幸福」
  • 一人一人の効用(幸せ)を全て同じものとし、公平に扱う
 ビジネスの場で功利主義の考え方を用いると、自分や自社の売上だけでなく、ビジネスの相手やそれに関わるすべての人の効用(幸せ)を公平に扱うことになる。そして、その総和が一番大きくなるように行動することで、“倫理の価値基準”を高めた判断を下すことができる。

非帰結主義

 非帰結主義は、行動が倫理的かどうかを「その行動をとった動機」によって判断する考え方の総称。倫理的かどうかを動機によって形式的に決めるため、帰結主義と対照的な立場をとる考えだ。そのなかでもカントが提唱した義務論は、特に動機を重視する学説となっている。

非帰結主義の一つ・義務論の考え方のポイント

  • 目的のために行動するのではなく、理性が与えるルールを「自律的」に守ることを義務とする
    ex.「感謝されること」を目的として人助けをするのではなく、「人助けをすること」を自分のルールとして人助けをする
  • 道徳に対する尊敬・敬意を表すために、道徳的な行為をとる
  • 道徳的な存在である人間を尊重する
 常に義務論的な判断を下すことは難しいが、「フェアな取引を行う」などといった「理性が与えるルール」を守るために最善を尽くすことが重要だ。「道徳に対する尊敬・敬意」を意識することで、ビジネスの場においても“倫理の価値基準”を高めた判断が行えるようになる。


 様々な制約が存在するビジネスシーンにおいて、“ビジネスの価値基準”と“倫理の価値基準”を両立させることは簡単ではない。人は時として利潤追求のみに没頭してしまうことがある。しかし、先に紹介した「倫理の価値基準」を自らの影のように決して切り離せるものではないと、ある意味で諦念することが、自己の倫理的責任を認識する手立てとなるだろう。

 全方位から見てもスマートで優秀なビジネスパーソン。その姿こそが、私たちの追い求める理想の最終形態だ。

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